転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第46話 その後(2)

公開日時: 2020年11月19日(木) 17:30
更新日時: 2023年5月11日(木) 15:50
文字数:3,666

   

 クリスタの視線を受け止めながら、僕は最悪の想像をしてしまう。

 まさか、僕が変身しているとバレたのだろうか……?

 では、これでダイゴローとの融合も解けてしまうのか……?

 一瞬、ギョッとしたが、

「もしかすると……。あの森で困った冒険者がいたら助ける、という信条の人なのかしら?」

 と言われて、ホッとする。安心し過ぎて、ガックリと体の力が抜け落ちるくらいだった。

『とんだ肩透かしだったな、バルトルト』

 ダイゴローの明るい声が、頭の中で響く。

 僕が拍子抜けしたのは、クリスタのことを洞察力のある女性だと思っていたからだろう。「わざと見当外れの解釈を口にしたのではないか」と、穿った見方もしたくなるほどだった。でも、これを『見当外れの解釈』と言えるのは、真実を知っている僕だからこそに違いない。

 実際、リーダーであるニーナは、クリスタの発言を素直に受け入れていた。

「そっか。私たちとは別の意味で、あの『回復の森』にこだわってる冒険者なのね……」

 ならば。

 この考えに僕も乗っかることにして、仲間たちの顔を見回しながら提案してみる。

「じゃあ、いわば『森の守護者フォレスト・ガーディアン』ですね。いつまでも『通りすがりの冒険者』とか『おかしな全身スーツの人』って呼ぶのも悪いから、今度からは、そういうニックネームを使いましょうか? 僕たちの間だけでも」

「いいね、それ! 決まり!」

 パンと手を叩いたニーナに続いて、

「わーい、素敵な呼び名ー!」

 事情説明の間は静かだったアルマも、歓声を上げる。

 クリスタに至っては、さらに話を広げようとしていた。

「また現れたら、本人にも、そう呼びかけてみようかしら。『そんな呼び方はめてくれ』って言うなら、その際に名乗ってくれそうだし」

 一方、僕の頭の中では……。

『おいおい、さっきまで「おかしな全身スーツ」とか言ってたくせに……。今度は逆に、カッコ良すぎるんじゃねえか? なあバルトルト、自分で言ってて、恥ずかしくならんか?』

 ダイゴローが苦笑いしながら、僕の気持ちを言い当てるのだった。


 雰囲気が明るくなったところで、今さらのように、僕は尋ねる。

「ところで……。今は何時頃かな? お昼過ぎくらい?」

 黒ローブの怪人が出現したのは、あの場にカトック隊が到着した直後だった。怪人自身が目的を語ってくれたり、モンスター集団との戦闘があったりしたが、たいした時間はかからなかったはず。苦戦したから体感時間は長いものの、僕の変身状態は十分間しか続かない、という事実がある以上、実際には短かったのだ。

 だから『お昼過ぎくらい』と想定したのだが……。

「もう夕方だよ」

「お寝坊さんだね、バルトルトくんは」

 ニーナに続いて、冗談口調になったアルマの声。つい先ほどまでの心配そうな雰囲気より、この方がアルマには似合っている。

 そんな悠長なことも思いながら、僕は医務室の壁を見回した。窓の外に視線を向けて、空の色を確認しようと考えたのだ。

 しかし。

 いくらキョロキョロ探しても、窓は見当たらない。医務室にも窓はあったはずなのだが……。

 どうやら、カーテンのこちら側には設置されていないらしい。今まで仕切りの奥に来たことないので知らなかったが、なるほど、重症患者を寝かせる想定ならば、いつでも部屋を真っ暗に出来るよう、窓なんてない方がいいのだろう。

『そんな細かいこと、どうでもいいだろ……』

 というダイゴローの苦笑じみた脳内ツッコミと同時に、目の前からは、クリスタの言葉が聞こえてくる。

「ニーナの意識が戻った時には、すぐにあなたも起きると思ったんだけど……。個人差って大きいのね。同じ毒の泉に落ちて、同じように治療を受けたのに」

 いつもの和やかな笑顔ではなく、冗談っぽい表情だから、別に僕の体力の乏しさを責めているわけではないはず。まあ本当のところはわからないけれど、とりあえず、そう思いたかった。

 そんな僕を慰めるかのように、

『いや、体力が乏しいとか、そういう問題じゃないぞ。回復に時間かかったのは、仕方のない話だ』

 仲間たちには聞こえない声で、ダイゴローが解説する。

『あの場でクリスタがやった応急処置にしろ、ここの魔法医の治療にしろ、あくまで解毒が中心だったんだろ?』

 つまり。

 僕が意識を失ったのは、泉の毒にやられたから……。クリスタも魔法医も、そう考えて治療してくれたわけだ。

 しかし。

 それは理由の一部に過ぎなかった。実際には、転生戦士ダイゴローに変身して戦ったことによる疲労困憊。こちらの方が、大きな原因だったらしい。

『大技であるはずのダイゴロー光線、あれを三連発で使ったからなあ。肉体的にも魔力的にも、負担が大きかったんだろうさ』

 そう分析するダイゴロー。

『いいか、バルトルト。必殺技ってもんは、最後の最後でぶっ放すべきだぜ? 切り札だからな!』

 師匠づらしてアドバイスするダイゴローは、まるで冒険者学院の教師みたいで、僕は少し懐かしい気分になるのだった。


 そんな脳内会話とは別に、

「キミが起きるの遅かったから、必要な手続きは全部、もう終わったよ」

 と、ニーナが説明してくれる。

 泉で毒をばら撒いていた怪物の排除。それは即ち、汚染の原因を取り除くことに他ならず、ベッセル男爵の依頼を遂行した、という意味でもあった。その旨、一階の受付窓口で報告してきたのだという。

『ああ、そうか。冒険者が依頼者に直接報告しに行くんじゃなくて、仕事の報告も冒険者組合を介する形になるんだな』

 ダイゴローが話を聞きながら、納得している。まだ冒険者のシステムを完全には理解していなかったから、今回の件は、ちょうど良い事例になったのだろう。

 彼のために補足しておくと、厳密には、冒険者自身が依頼人に報告しに行くケースもある。あらかじめ依頼人からそう言われている場合だが、今回は相手が貴族なので、その可能性は最初から考える必要もなかった。

 いくら報告のためとはいえ、僕たち庶民が約束アポイントもなしに、貴族の屋敷へ出向くわけにはいかない。だから冒険者組合のような組織が、間に入ってくれるのだ。

「じゃあ、今回の冒険仕事の件は、これで終わりだね」

「うん。報酬に関しては、後日、男爵の方から連絡が入るので待っていてください、って言われたよ」

 と、僕の言葉に返すニーナ。

「それと、ついでに……」

 続けて彼女が話したのは、モンスター討伐の換金も済ませた、ということ。今回仕事で相手したのも含めて、ここ三日の間に『回復の森』でハンティングしたモンスターの分を、窓口でお金にしてもらったそうだ。

 もちろん、眠っていた僕の分は換金できないので――本人が行く必要のあるシステムなので――、それ以外の四人の分だけになるのだが。

「それでね。今回は、かなりの額をもらえたの」

 前にも言ったように、モンスターを倒して得られる経験値や金銭は、パーティー全員へ均等に割り振られる。だからニーナが言いたいのは、僕も「たくさんもらえる!」と期待していい、ということだった。

「大雑把な計算なんだけど……」

 横から、クリスタが補足する。

「……あの黒フードの怪人が、だいたい巨人ギガントゴブリン二匹分に相当してたみたい」

「そうそう! 結局あの怪人も、モンスターだったんだよ。人間の言葉で喋るもんだから、あの場では『モンスターとは違うのかな?』って思ったんだけどね」

 というニーナの言葉に、僕も納得しそうになったが。

『おい、それは変じゃねえか?』

 脳内で、ダイゴローのツッコミが入った。


『俺の理解した換金システムによれば……』

 黒衣の怪人を倒したのはニーナとカーリンだから、その分の経験値などがカトック隊に入る。ここまでは、何も問題ない。

 しかし、毒の怪物――ヴェノマス・キング――と二匹の巨人ギガントゴブリンを倒したのは、転生戦士ダイゴローとなった僕。もちろん僕だってパーティーの一員だから、やはりカトック隊に割り振られるはずだが……。

 カトック隊の視点に立てば、通りすがりのソロ冒険者――森の守護者フォレスト・ガーディアン――が倒した、という話になる。だからヴェノマス・キングや巨人ギガントゴブリンの討伐料や経験値は得られない、という認識だった。

『……ここまでは、間違いないよな?』

 うん、合っている。

 そして、ダイゴローが整理してくれたおかげで、僕にも問題点が見えてきた。

 クリスタの『大雑把な計算』というのは、普通に下級のモンスターだけを倒して得られる場合と、今回実際に手に入った金銭との差額なのだろう。それが『だいたい巨人ギガントゴブリン二匹分』だったというわけだ。

 今回の大物は黒ローブの怪人だけ、という見方ならば、彼女の結論に問題はない。しかし本当は、怪人だけでなく、ヴェノマス・キングも二匹の巨人ギガントゴブリンも含んでいるはずだった。

 そこから計算し直すと、怪人や怪物ヴェノマス・キングの分はゼロだった、ということになる……?

『それって、あいつら両方ともモンスターじゃなかった、って結論になるんじゃねえか?』

 あの時、毒の泉に沈みながら考えた「ならば、あの怪人は、いったい何者なのか……?」という疑問。

 それが頭の中で再燃する。そのせいで僕は、まるで再び毒の中に叩き込まれたかのような、嫌な気分になるのだった。

   

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート