転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第14話 ひとりでできるかな(3)

公開日時: 2020年10月17日(土) 17:30
更新日時: 2023年5月6日(土) 16:05
文字数:2,670

   

 転生特典。

 生まれ変わる際に「何か新しい能力がないと大変だろうから」という理由で、神様の慈悲により一つだけ与えられる特殊能力だという。

『これこそ、俺たちが異世界転生に憧れる理由だったんだが……。まあ人によって様々な能力を望む中、俺は変身ヒーローになる力を希望して、それを授かったわけだ』

 と、嬉しそうなダイゴロー。

 そもそも彼の世界には、変身ヒーローは実在しないものの、変身ヒーローが活躍する空想の物語は、たくさん存在していたらしい。

『漫画やアニメの変身ヒーローには、お約束があったからなあ。正体を隠すとか、変身時間が短いとか……。毎回タイムリミットが近づいてピンチになるのも、最終回で正体がバレて去っていくのも定番で、そういうのを変身ヒーローの概念として、つい俺が思い浮かべちまったもんだから……」

 神様が「あなたが望むものは、これですね」ということで、変身に関する条件を設定してしまったのだという。

 その結果、変身時間は十分間となり、正体がバレたら僕とダイゴローの融合は終わり、という制約も生まれたのだ。

「なるほど。それで『神様がそう決めた』って話になるのか」

『そうだ。まあ誰でも普通、転生特典として望むのは、現実じゃなくて漫画やアニメに出てくる異能力ばかり。そこで正しくイメージ出来ないと、こうなるってことさ』

 その点、ダイゴローはあまり後悔していないらしいが、

『むしろ大きな誤算は、俺が変身する側ではなく、変身能力を与える側になってしまったことで……。まあ俺の代わりに頑張ってくれや、バルトルト!』

 という叱咤激励は、少し無理していたのかもしれない。ダイゴローの声には、いくらか悔しさも含まれているように聞こえた。


『まあ、それはともかく……』

 僕の思考を察して、ダイゴローは話題を変えようとする。

『こういうファンタジー世界に転生できたことは、俺の希望に沿ってるからな。そこは神様に感謝しないといけないさ。うん、うん』

 ならば、僕もこの話に乗っかろう。

「ダイゴローは僕の世界をファンタジーって言うけどさあ。僕に言わせれば、ダイゴローの世界の方が不思議で、よっぽど『ファンタジー』だよ」

 詳しく知るわけではないが、少なくともあの一瞬で見せてもらった光景は、僕には『ファンタジー』だったのだ。

『いやいや、俺の世界に全くファンタジー要素はないぞ。そもそもモンスターもいなければ魔法も存在しない、科学技術の発達した世界だからな』

 ああ、モンスターがいないのか。それは平和で素晴らしい世界だ。

 ……と思っている間に、その先を聞き流しそうになったのだが。

「えっ? 魔法がないの? それなのに科学が発達してるって、どういうこと?」

『だから、魔法の代わりに科学が……』

「ちょっと待って! 魔法だって科学の一部でしょ?」


 魔力は人間ならば誰でも持っている力だが、その魔力を用いて魔法という形で具現化するには、結果をイメージして呪文詠唱する必要がある。その辺りは、学問として習うことだった。

 もちろん、習ったからといって、誰でも魔法を発動できるわけではない。速く走るコツを教わっても速く走れない者がいるのと同じように、個人差が出てくる部分だった。

『つまりバルトルトの理屈としては、魔法もれっきとした学問だから科学の一種だ、と言いたいわけか……?』

「そう厳密に定義されると困るけど……。なんとなく常識みたいなもので……」

『俺の言う科学技術は、魔法を使わない話で……。ああ、工業技術と言えば良かったかな? 例えば、ほら、金属加工の技術! あのニーナって娘の金属鎧とか、他にも剣とか槍とか。いや金属だけでなく、ガラス製品とかを作る技術さ』

 いや、それも僕には理解できない。

 僕自身、金属もガラスも自分で作ったことはないけれど。

 それでも、途中の工程で色々と熱したり冷ましたりするのだろう、くらいは想像できる。そして温度変化が必要ならば、魔法器具とか、あるいは炎や氷の魔法そのものを使うのだろう、ということも。

 だから、それらも魔法抜きでは成り立たない技術だと思うのだが……?

『そうか。根本の常識からして違うのか……。そりゃあ異世界ともなれば、俺の常識も通用しないか。そもそも俺の世界だと、魔力自体が実在しないし……』

「えっ、魔力が存在しないの?」

 またもや驚かされる僕。魔力のない世界なんて、日々の暮らしにすら困りそうだ。

 僕は、天井の魔法灯を指し示した。

「じゃあ、照明器具すら存在しない、ってこと?」

『何を言ってる。照明はあるぞ。それこそ電気じゃないか』

「電気……?」

『明かりの方の電気と電気エネルギーの方と、どちらも電気と呼ぶから少しややこしいが……。そうだな、ここまで見た限り、俺の世界じゃ電気エネルギーで動くものが、この世界だと魔力を用いた器具になってる、って感じかな?』

 電気エネルギーと言われてもピンと来ないが……。

 おそらく電気というのは、雷撃みたいなやつのことだろう。そこからエネルギーを取り出して他に転用できたら、確かに大きな力になりそうだ。

 でも、そんな手間をかけるより、人々の潜在的な魔力を用いた方が、よほど簡単だ。ダイゴローの世界は、パッと見では発展しているように思えたが、案外不便なところなのかもしれない。

『まさか、この世界の人間から、不便と言われるとは……』

 苦笑している口調のダイゴロー。

『おかしいなあ。異世界転生って、もっと元の世界の知識を有効活用できると思ったんだが……。そもそも元の世界で勉強不足だと、こうなってしまうのか? こりゃあ俺も、じっくり考え直さないといけないな』

「じゃあ、この話は切り上げて、もう寝るとしようか」

 難しいことを考えたら、ますます眠くなってきた。

『そうだな。明日からは、バルトルト一人で新しいパーティーを作って頑張るんだから……。今晩は、ゆっくり休まないとな! そして……』

 目を閉じた僕の中で、ダイゴローの言葉は続いていた。

『……せっかくこういう世界に来たことだし、いつの日か、魔王のような親玉を倒してみたいなあ。漠然とした目標だがな』

「魔王とか魔族とか、そんなもの伝説の存在だよ。それこそファンタジーだよ……」

 これで最後のつもりで、口に出して答える僕。

 でも。

 ダイゴローの言葉は、僕の胸の内で強く響いていた。

 そういえば、僕だって冒険者学院に通い始めた頃は、大きな夢を持っていたはず。卒業する頃には忘れて、ただ冒険者になれただけで嬉しかったけれど。

 元々の願いは、何だったっけ……?

 おぼろげに、そんなことを考えながら。

 答えが明確な形を成す前に、僕は眠りに落ちるのだった。

   

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