メカ巨人ゴブリンの逆襲。
ダイゴローのその言葉が、背中を押してくれた。
巨人ゴブリンが僕に『逆襲』してきたというならば……。このモンスターは、僕が倒さないといけない!
「ファブレノン・ファイア!」
弱炎魔法を放つと同時に、僕は走り出した。
横合いからの炎弾が直撃して、メカ巨人ゴブリンは一瞬、カトック隊に対する攻撃の手を止める。
初めて僕の存在に気づいた、という態度で振り向くが、メカ巨人ゴブリンがこちらを視界に捉えた時、既に僕は間近に迫っていた。
「あなたには無理よ! 逃げなさいったら!」
クリスタの悲痛な叫びも聞こえてくる。
だが、構わずショートソードを振るった。
「えいっ!」
狙いは右脚。金属に覆われていない関節部だ。
数メートルの巨体を誇るモンスターも、脚をやられて転んでしまえば、首や頭といった急所まで刃が届くようになるはず。
しかし。
「グワーッ!」
咆哮と共に、右手をブンと振り回すメカ巨人ゴブリン。
その一撃は、斬撃を弾くどころか、僕の体全体を弾き飛ばす勢いだった。
「……!」
宙を舞った僕は、ぐるんと景色が一回転して……。
意識が暗転した。
『おい、バルトルト! しっかりしろ!』
気絶から叩き起こしてくれたのは、相棒の叫びだった。
「ここは……?」
『近くの茂みの中だ。安心しろ、気を失ってたのは、ほんの一瞬だ。カトック隊の娘たちは、まだ健在だぜ!』
葉っぱと小枝まみれになってしまったが、この茂みがクッションになったらしい。大怪我はなく、かすり傷程度で済んでいた。
すぐに立ち上がって、茂みから出ようと思ったが、
『待て、バルトルト!』
そんな僕を、ダイゴローが制止する。
『いくら何でも、今のお前じゃ、あのメカモンスターには歯が立たねえ。幸い、あの娘たちから、この茂みの中は見えていない。ならば、やるべきことは一つ。……わかるな?』
ああ、そうだ。こういう時こそ……。
皮鎧の内側に手を入れて、銀色のアイマスクを取り出して。
カーリンやアルマのところまでは聞こえないよう、小声で叫んだ。
「変身! 転生戦士ダイゴロー!」
三色の全身スーツに包まれて、体も少し大きくなった僕は、早速、茂みから飛び出そうとするが、
『待て、バルトルト!』
再びダイゴローに止められた。
『お前が飛び込んだ同じ場所から、変身状態で出てったら不自然だろ?』
確かに。
それでは「僕が変身しました」と全力でアピールしているようなものだろう。
『だから、瞬間移動……いや、こちらの世界の言い方なら転移魔法になるのかな? それで行け!』
「それで行け、と言われても……。転移魔法なんて、僕は使えないよ?」
いくら魔力がアップしても、全く使えなかった系統の魔法が急に使用可能にはならないはず。
『魔法じゃない! 変身ヒーローの特殊能力だ!』
と、僕を説得するダイゴロー。
『俺の思う変身ヒーローの概念に基づいてる以上、そういう能力もあるに決まってる! 戦闘中の瞬間移動は卑怯だから禁じ手だが、戦場へ行ったり、そこから帰る手段としてなら……。きっと大丈夫だ! 俺を信じろ!』
相棒がそこまで言うのであれば。
スクッと立ち上がった僕は、腰に手を当てて、転移を念じてみる。
すると……。
「おおっ!」
やってみるものだ。
次の瞬間、メカ巨人ゴブリンの前に立っていた。
ちょうどモンスターは、クリスタたちに向かって光弾を撃ち続けていたので、
「うっ!」
魔力だかエネルギーだかの塊が、いきなり僕の胸に直撃。激しい痛みに襲われて、腰を折りそうになった。
『しっかりしろ、バルトルト! その大胸筋は飾りか? 違うだろ、大胸筋はバリアーだ!』
ダイゴローが無茶を言う。
変身により確かに筋骨隆々となったけれど、胸の筋肉だけで防御壁の代わりをするのは、さすがに無理というものだ。
とはいえ。
直撃を食らっても、肉体そのものが大きなダメージを負った様子はなかった。
だから、やせ我慢しようと決めて、
「ふんっ!」
腰に手を当てたポーズのまま、毅然とした態度で胸を張ってみせる。メカ巨人ゴブリンに対しては「効いていない」、背後のカトック隊に対しては「僕が守るから大丈夫」と示す意味で。
そのアピールは、成功したらしい。
「グギッ?」
戸惑うような声を上げて、モンスターの攻撃の手が止まる。
今だ!
「とうっ!」
一気に距離を詰めて、メカ巨人ゴブリンの腹にドロップキック!
「ググッ……!」
まともに食らったモンスターは、二、三歩、後退り。だが、それだけだった。装甲板に覆われているだけあって、僕の蹴り程度ではビクともしないらしい。
しかも。
「グワーッ!」
両腕を振り回して、反撃に出るメカ巨人ゴブリン。
それをかわしつつ、僕も相手に殴りかかるが……。
キックと同様、パンチもあまり効果がないらしい。
『やはり魔法を使うしかないか? だが、もしも切り札のダイゴロー光線が効かなかったら……。それを思うと、ある程度は弱らせてから、必殺技を放ちたいな』
頭の中で響くダイゴローの言葉は、まさに僕の方針と一致していた。
そう、まだ必殺技のタイミングではない。しかし、ただの肉弾戦では歯が立たない。
ならば!
こういう時こそ、魔法剣士の面目躍如ではないか!
「魔法剣ならぬ、魔法拳だ!」
右の拳に炎の魔力を込めて、強烈な一撃を叩き込む。
それまでとは違う、確かな手応えがあった。
メカ巨人ゴブリンの口からも、呻き声が飛び出している。
「ギッ?」
間髪入れず、今度は左手に氷の魔力を乗せて、同じ場所をパンチ。
モンスターの金属プレートにヒビが入るのが、ハッキリと見えた。
『おお、昔のアニメで見たことあるぞ! 急激な温度変化を与えて、装甲を脆くしたんだな!』
あいかわらずダイゴローの発言には、わけのわからない単語が混じる。
僕としてはダイゴロー光線がヒントだったのだが、まあ理屈なんてどうでもいい。効果があったならば、続けるだけだ!
モンスターも殴り返してくるが、それを避けながら、あるいは受け止めながら、炎と氷の連打をお見舞いした。
腹に、胸に、腕に、脚に……。ダブルの正拳突きが直撃した箇所から、機械化モンスター自慢の装甲が割れて、ポロポロと剥がれ落ちていく。
ダメージは体内にも及んでおり、メカ巨人ゴブリンは、苦痛に顔を歪めていた。
モンスターを覆う金属板の大半が失われた段階で、頭の中の声が鳴り響く。
『バルトルト! もう十分だろう!』
「おう!」
少し後方へジャンプして、いったん距離を取ってから。
魔法拳と同じように、右腕に炎、左腕に氷の魔力をイメージして……。
その二つを、バツ字状に交差させる!
「ダイゴロー光線!」
昨日の巨人ゴブリン戦と同じだった。
重なった二つの魔力が、青白い光線となって発射される。渦を巻きながら、メカ巨人ゴブリンに襲い掛かり……。
「グゲエエエエエ!」
直撃を受けたモンスターは、絶叫を上げながら粉々になり、消滅した。
『終わったな』
「ああ……」
昨日と同じく呆けそうになるが、そうもいかない。今日は、僕一人ではないのだから。
振り返ると、緑色の光の壁は消えていた。僕が戦っている間、クリスタは防御魔法を解いて、ニーナとカーリンの回復に専念していたらしい。
回復魔法でダメージが癒えたようで、二人は軽く頭を振りながら、ゆっくりと立ち上がるところだった。
「良かった、みんな無事で……」
僕の小さな呟きが聞こえたのか、あるいは、ただ目が合っただけなのか。
クリスタとアルマが、こちらに話しかけてくる。
「危ないところを、ありがとうございました。あなたは……?」
「お名前、教えて!」
いやいや。
いくら銀色アイマスクで顔を隠しているとはいえ、会話に応じたら正体がバレてしまうだろう。でも、黙って立ち去るのも悪いと思って……。
「じゃっ!」
一言だけ発してから、瞬間移動で立ち去るのだった。
もちろん転移の先は、変身した場所、つまり近くの茂みの中だ。
そこで変身を解除しながら、相棒に決意を告げる。
「思い出したよ、ダイゴロー。どうして僕が冒険者を志したのか、その理由を……」
『ん? 突然どうした?』
「ほら、カトック隊みたいな冒険者でも手に余るような、強力なモンスターだっただろ? だからさ……。これを倒せるのは、奇跡的な変身能力を得た僕しかいない、これこそ僕の役目に違いない、って思ったんだ」
傲慢な考え方かもしれないが。
ダイゴローだって昨夜「魔王を倒したい」と言ったくらいだ。伝説上のバケモノを最終目標にするのと比べれば、まだマシな話だろう。
昔々。
僕は、世の中にモンスターが溢れていることが許せなかった。そんなものがいなければ、もっと世界は平和になるのに、と憤っていた。
ならば、僕が一匹でも多くのモンスターを駆逐して、世界平和に貢献しよう。そんな子供じみた夢想から冒険者学院に入学したのが、そもそもの始まりだったのだ。
「すっかり忘れていた初心を、ダイゴローのおかげで思い出せたよ」
『そうか。バルトルトの夢は、世界平和か……』
改めて言葉にされると、少し面映ゆい気持ちになるけれど。
『いいじゃねえか。やっぱりバルトルトは、なるべくして俺の相棒になったんだな!』
「うん、そうかもしれないね」
僕は笑顔で頷きながら、茂みからヒョコッと顔を出して、
「おーい! みんな、大丈夫かい?」
カトック隊のところへ、走り寄るのだった。
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