転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第17話 ひとりでできるかな(6)

公開日時: 2020年10月19日(月) 05:30
文字数:3,726

   

 メカ巨人ギガントゴブリンの逆襲。

 ダイゴローのその言葉が、背中を押してくれた。

 巨人ギガントゴブリンが僕に『逆襲』してきたというならば……。このモンスターは、僕が倒さないといけない!

「ファブレノン・ファイア!」

 弱炎魔法を放つと同時に、僕は走り出した。


 横合いからの炎弾が直撃して、メカ巨人ギガントゴブリンは一瞬、カトック隊に対する攻撃の手を止める。

 初めて僕の存在に気づいた、という態度で振り向くが、メカ巨人ギガントゴブリンがこちらを視界に捉えた時、既に僕は間近まぢかに迫っていた。

「あなたには無理よ! 逃げなさいったら!」

 クリスタの悲痛な叫びも聞こえてくる。

 だが、構わずショートソードを振るった。

「えいっ!」

 狙いは右脚。金属に覆われていない関節部だ。

 数メートルの巨体を誇るモンスターも、脚をやられて転んでしまえば、首や頭といった急所までやいばが届くようになるはず。

 しかし。

「グワーッ!」

 咆哮と共に、右手をブンと振り回すメカ巨人ギガントゴブリン。

 その一撃は、斬撃を弾くどころか、僕の体全体を弾き飛ばす勢いだった。

「……!」

 宙を舞った僕は、ぐるんと景色が一回転して……。

 意識が暗転した。


『おい、バルトルト! しっかりしろ!』

 気絶から叩き起こしてくれたのは、相棒の叫びだった。

「ここは……?」

『近くの茂みの中だ。安心しろ、気を失ってたのは、ほんの一瞬だ。カトック隊の娘たちは、まだ健在だぜ!』

 葉っぱと小枝まみれになってしまったが、この茂みがクッションになったらしい。大怪我はなく、かすり傷程度で済んでいた。

 すぐに立ち上がって、茂みから出ようと思ったが、

『待て、バルトルト!』

 そんな僕を、ダイゴローが制止する。

『いくら何でも、今のお前じゃ、あのメカモンスターには歯が立たねえ。幸い、あの娘たちから、この茂みの中は見えていない。ならば、やるべきことは一つ。……わかるな?』

 ああ、そうだ。こういう時こそ……。

 皮鎧の内側に手を入れて、銀色のアイマスクを取り出して。

 カーリンやアルマのところまでは聞こえないよう、小声で叫んだ。

「変身! 転生戦士ダイゴロー!」


 三色の全身スーツに包まれて、体も少し大きくなった僕は、早速、茂みから飛び出そうとするが、

『待て、バルトルト!』

 再びダイゴローに止められた。

『お前が飛び込んだ同じ場所から、変身状態で出てったら不自然だろ?』

 確かに。

 それでは「僕が変身しました」と全力でアピールしているようなものだろう。

『だから、瞬間移動テレポーテーション……いや、こちらの世界の言い方なら転移魔法になるのかな? それで行け!』

「それで行け、と言われても……。転移魔法なんて、僕は使えないよ?」

 いくら魔力がアップしても、全く使えなかった系統の魔法が急に使用可能にはならないはず。

『魔法じゃない! 変身ヒーローの特殊能力だ!』

 と、僕を説得するダイゴロー。

『俺の思う変身ヒーローの概念に基づいてる以上、そういう能力もあるに決まってる! 戦闘中の瞬間移動テレポーテーションは卑怯だから禁じ手だが、戦場へ行ったり、そこから帰る手段としてなら……。きっと大丈夫だ! 俺を信じろ!』

 相棒がそこまで言うのであれば。

 スクッと立ち上がった僕は、腰に手を当てて、転移を念じてみる。

 すると……。


「おおっ!」

 やってみるものだ。

 次の瞬間、メカ巨人ギガントゴブリンの前に立っていた。

 ちょうどモンスターは、クリスタたちに向かって光弾を撃ち続けていたので、

「うっ!」

 魔力だかエネルギーだかの塊が、いきなり僕の胸に直撃。激しい痛みに襲われて、腰を折りそうになった。

『しっかりしろ、バルトルト! その大胸筋は飾りか? 違うだろ、大胸筋はバリアーだ!』

 ダイゴローが無茶を言う。

 変身により確かに筋骨隆々となったけれど、胸の筋肉だけで防御壁バリアーの代わりをするのは、さすがに無理というものだ。

 とはいえ。

 直撃を食らっても、肉体そのものが大きなダメージを負った様子はなかった。

 だから、やせ我慢しようと決めて、

「ふんっ!」

 腰に手を当てたポーズのまま、毅然とした態度で胸を張ってみせる。メカ巨人ギガントゴブリンに対しては「効いていない」、背後のカトック隊に対しては「僕が守るから大丈夫」と示す意味で。

 そのアピールは、成功したらしい。

「グギッ?」

 戸惑うような声を上げて、モンスターの攻撃の手が止まる。

 今だ!

「とうっ!」

 一気に距離を詰めて、メカ巨人ギガントゴブリンの腹にドロップキック!

「ググッ……!」

 まともに食らったモンスターは、二、三歩、後退あとずさり。だが、それだけだった。装甲板に覆われているだけあって、僕の蹴り程度ではビクともしないらしい。

 しかも。

「グワーッ!」

 両腕を振り回して、反撃に出るメカ巨人ギガントゴブリン。

 それをかわしつつ、僕も相手に殴りかかるが……。

 キックと同様、パンチもあまり効果がないらしい。

『やはり魔法を使うしかないか? だが、もしも切り札のダイゴロー光線が効かなかったら……。それを思うと、ある程度は弱らせてから、必殺技を放ちたいな』

 頭の中で響くダイゴローの言葉は、まさに僕の方針と一致していた。

 そう、まだ必殺技のタイミングではない。しかし、ただの肉弾戦では歯が立たない。

 ならば!

 こういう時こそ、魔法剣士の面目躍如ではないか!

「魔法剣ならぬ、魔法拳だ!」


 右のこぶしに炎の魔力を込めて、強烈な一撃を叩き込む。

 それまでとは違う、確かな手応えがあった。

 メカ巨人ギガントゴブリンの口からも、呻き声が飛び出している。

「ギッ?」

 間髪入れず、今度は左手に氷の魔力を乗せて、同じ場所をパンチ。

 モンスターの金属プレートにヒビが入るのが、ハッキリと見えた。

『おお、昔のアニメで見たことあるぞ! 急激な温度変化を与えて、装甲を脆くしたんだな!』

 あいかわらずダイゴローの発言には、わけのわからない単語が混じる。

 僕としてはダイゴロー光線がヒントだったのだが、まあ理屈なんてどうでもいい。効果があったならば、続けるだけだ!

 モンスターも殴り返してくるが、それを避けながら、あるいは受け止めながら、炎と氷の連打をお見舞いした。

 腹に、胸に、腕に、脚に……。ダブルの正拳突きが直撃した箇所から、機械化メカモンスター自慢の装甲が割れて、ポロポロと剥がれ落ちていく。

 ダメージは体内にも及んでおり、メカ巨人ギガントゴブリンは、苦痛に顔を歪めていた。


 モンスターを覆う金属板の大半が失われた段階で、頭の中の声が鳴り響く。

『バルトルト! もう十分だろう!』

「おう!」

 少し後方へジャンプして、いったん距離を取ってから。

 魔法拳と同じように、右腕に炎、左腕に氷の魔力をイメージして……。

 その二つを、バツ字状に交差させる!

「ダイゴロー光線!」

 昨日の巨人ギガントゴブリン戦と同じだった。

 重なった二つの魔力が、青白い光線となって発射される。渦を巻きながら、メカ巨人ギガントゴブリンに襲い掛かり……。

「グゲエエエエエ!」

 直撃を受けたモンスターは、絶叫を上げながら粉々になり、消滅した。


『終わったな』

「ああ……」

 昨日と同じく呆けそうになるが、そうもいかない。今日は、僕一人ではないのだから。

 振り返ると、緑色の光の壁は消えていた。僕が戦っている間、クリスタは防御魔法を解いて、ニーナとカーリンの回復に専念していたらしい。

 回復魔法でダメージが癒えたようで、二人は軽く頭を振りながら、ゆっくりと立ち上がるところだった。

「良かった、みんな無事で……」

 僕の小さな呟きが聞こえたのか、あるいは、ただ目が合っただけなのか。

 クリスタとアルマが、こちらに話しかけてくる。

「危ないところを、ありがとうございました。あなたは……?」

「お名前、教えて!」

 いやいや。

 いくら銀色アイマスクで顔を隠しているとはいえ、会話に応じたら正体がバレてしまうだろう。でも、黙って立ち去るのも悪いと思って……。

「じゃっ!」

 一言だけ発してから、瞬間移動テレポーテーションで立ち去るのだった。


 もちろん転移の先は、変身した場所、つまり近くの茂みの中だ。

 そこで変身を解除しながら、相棒に決意を告げる。

「思い出したよ、ダイゴロー。どうして僕が冒険者を志したのか、その理由を……」

『ん? 突然どうした?』

「ほら、カトック隊みたいな冒険者でも手に余るような、強力なモンスターだっただろ? だからさ……。これを倒せるのは、奇跡的な変身能力を得た僕しかいない、これこそ僕の役目に違いない、って思ったんだ」

 傲慢な考え方かもしれないが。

 ダイゴローだって昨夜「魔王を倒したい」と言ったくらいだ。伝説上のバケモノを最終目標にするのと比べれば、まだマシな話だろう。


 昔々。

 僕は、世の中にモンスターが溢れていることが許せなかった。そんなものがいなければ、もっと世界は平和になるのに、と憤っていた。

 ならば、僕が一匹でも多くのモンスターを駆逐して、世界平和に貢献しよう。そんな子供じみた夢想から冒険者学院に入学したのが、そもそもの始まりだったのだ。

「すっかり忘れていた初心を、ダイゴローのおかげで思い出せたよ」

『そうか。バルトルトの夢は、世界平和か……』

 改めて言葉にされると、少し面映おもはゆい気持ちになるけれど。

『いいじゃねえか。やっぱりバルトルトは、なるべくして俺の相棒になったんだな!』

「うん、そうかもしれないね」

 僕は笑顔で頷きながら、茂みからヒョコッと顔を出して、

「おーい! みんな、大丈夫かい?」

 カトック隊のところへ、走り寄るのだった。

   

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