転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第16話 ひとりでできるかな(5)

公開日時: 2020年10月18日(日) 17:30
更新日時: 2023年5月6日(土) 16:10
文字数:3,604

   

 冒険者組合『赤天井レッド・ルーフ』を出て、アーベラインの街も出て。

 午前中の清々しい青空の下、僕は『回復の森』目指して、一人で黙々と歩いていた。

「仲間も無しでダンジョンに突入するって……。なんだか今頃になって、緊張してきたよ」

『どうした、バルトルト。武者震いか?』

 いや、さすがに震えてはいない。でも、いつもと違うというだけで、ドキドキしてしまう。

『一人で戦うの、そんなに怖いか? さっきまで、あれほど一人パーティー設立なんて騒いでたのに……』

 一人パーティー計画は、そもそも、寝床の問題を解決するために出てきた発想だ。でも僕一人のパーティーということは、僕一人で部屋を借りられるだけでなく、僕一人でモンスター・ハンティングをしたり、冒険仕事を請け負ったりしなければならないわけで……。

 その点、すっかり忘れていた。いや『忘れていた』というより、なるべく考えないようにしていた、という方が正しいかもしれない。

 だが、こうして森に向かって草原地帯を歩けば、現実感が強くなってくる。否が応でも、モンスターを意識せざるを得ない。ダンジョンに近づいているだけでなく、ここだってモンスターが出没するエリアなのだから。

 一応、この草原地帯を進む間は、遠くまで見渡せる。いきなりモンスターが飛び出してくる心配はないけれど、それでも身構えておく必要があり、油断は出来なかった。

『おいおい、大丈夫か? 今から、そんな心構えで……。だいたい、一人で戦うのは初めてじゃないだろ? 昨日バルトルトだけで、巨人ギガントゴブリンを倒したじゃないか!』

「あれは『転生戦士ダイゴロー』に変身できたおかげだから……」

 などと、無駄口を叩いている場合ではなかった。

 ちょうど『回復の森』が見えてきて、しかも森の入り口から、二匹のゴブリンが飛び出してきたのだ!


『早速、変身するか?』

「いや、まだ転生戦士にはならない」

 僕は、きっぱりと首を横に振った。

 昨日ダイゴローに説明されたように、融合したことで僕自身の体力や魔力も上昇している、というのであれば。

 ゴブリンの二匹や三匹くらい、変身せずに倒せるはず!

 昨日みたいな、カトック隊の女の子たちの援護なんてなくても!

 それくらいでなければ、一人パーティーなんて無理だろう!

「まずは僕自身の力で戦ってみる。危なくなったら、変身するよ。どの程度のモンスターなら変身せずに相手できるか、一度その限界を見極めておきたいからね」

『偉いぞ、バルトルト! それでこそ、俺が見込んだ相棒だ!』

 もしも体があったら手を叩いて喜びそうな勢いで、ダイゴローが騒ぎ始める。

『変身できるからって、最初から変身しちまうのは、甘えでしかない! ギリギリまで頑張って、踏ん張って、それでもどうしようもない時だけ変身する! それが変身ヒーローってもんだ!』

「わかったから、少し静かにしててよ、ダイゴロー」

 心の中の相棒と話し合うのは後回しだ。

 今は、敵モンスターに集中しなければ!


 二匹のゴブリンは、どちらも愛用のナイフを手にして、こちらへ向かって走ってくる。まだ十分に距離は離れているが……。

「ファブレノン・ファイア! ファブレノン・ファイア! ファブレノン・ファイア!」

 先制攻撃として、弱炎魔法の三連打をお見舞いした。二匹まとめてではなく、右側の一匹に集中する形だ。

 いくら魔力がアップしたとはいえ、ゴブリン一匹、僕の弱炎魔法では始末できないはず。そこまではカトック隊と一緒の昨日、確認済みだった。

 しかし、立て続けに三発打ち込んだら……?

 その結果は今、目の前にあった。真っ黒に焦げたゴブリンは大地に倒れ込み、ピクリとも動かなくなったのだ。

「今だ!」

 自分に気合いを入れる意味で、一声叫んでから。

 僕は走り出した。

 もちろん目標は、残った一匹。

 隣にいた仲間をやられて、ゴブリンは全身で驚きを表現しつつ、その死体を凝視。棒立ちになっていた。

 その隙に。

「えいっ!」

 一気に距離を詰めた僕は、ショートソードを振りかざして斬りかかる。

「ギギッ……?」

 ゴブリンもナイフを突き出してきたが、ワンテンポ遅かった。

 一刀両断……とまではいかないものの、モンスターは頭を断ち割られて、呆気なく絶命するのだった。


「ふう……」

『ゴブリン二匹くらいなら変身の必要はない、ってことだな。油断さえしなければ』

「うん、そうみたいだね」

 額の汗を拭いながら、ダイゴローに返して、

「じゃあ、いよいよ『回復の森』に突入だ」

 僕は深緑の森へと足を踏み入れた。


 当然のことながら、『回復の森』の中は一本道ではない。いくつかのルートに分岐している。

 カトック隊がどの方向に進んだのか定かではないが、出会ったのは泉の先だったから、今日も同じ辺りだろうと見当をつけて、とりあえず泉を目指すことにした。

 根拠は薄かったが正解だったようで、僕の進む先には、モンスターの死体がゴロゴロ転がっていた。

『やられたモンスターって、勝手に消えたりしないのか?』

「そんなわけないだろ。モンスターだって、生き物なんだから」

 ダイゴローの世界ではどうなのか知らないが……。

 動物であれ植物であれ、自然界に放置された死骸は、いずれ虫や微生物などによって分解され、大地に還る。人間だって未踏の地で行き倒れたら、同じ運命を辿るだろう。

『俺の世界でも、それは同じだぞ。ただ俺の世界には、モンスターなんていないからなあ』

 ああ、そうだった。ならば、説明しておく必要がありそうだ。

 この自然の摂理には、モンスターも逆らえない。ただし人間や動物と違うのは、『分解』のスピードが驚くほど速い、ということ。詳しい理屈は知らないが、モンスターの分解に特化した微生物が存在するらしい。

『なるほど……。ならば、死体が早く腐るか、ゆっくり腐るか。そこがモンスターと野生動物の線引き、って話になるのか?』

 その通り。ダイゴローは理解が早いので、説明が簡単で助かる。

 死後だいたい半日か一日くらいで消えてなくなるのが、モンスターという存在。だから、こうして死体が残っているのは倒されたばかり、という意味になるのだ。

 もちろんカトック隊とは限らないけれど、少なくとも冒険者が通った直後なのは確実だった。


 ちょうど露払いをしてもらった形になり、僕が『回復の森』に入ってから遭遇するモンスターは、かなり少なかった。

 特に、数匹以上のモンスター集団とは一度も出くわすことなく……。

『とりあえず、ゴブリン三匹あるいはウィスプ二匹までなら、変身の必要はないみたいだな』

「うん。ここまでの手応えだと、ゴブリンが四匹以上出てきた場合は、変身した方がいいかもね」

 そんな相談をしながら、周囲の警戒も怠らずに、僕は歩き続ける。

 やがて。

 なにやら争っているような物音とか、気配とか……。

『おい、バルトルト。これって……』

「ああ。おそらく、カトック隊だ!」

 ダイゴローに頷いて、僕は走り出した。


 獣道のように細くなった小道をかき分けて、開けた場所に出たところで、僕の視界に入ってきたのは……。

「……!」

 思わず絶句してしまう光景だった。

 桃色、青色、緑色、黄色というカトック隊の四人。そのうち二人――ピンクのニーナと青いカーリン――が倒れており、動けなくなっていた。

 その横では、金髪のアルマが、何度も地面を鞭で叩いている。敵対するモンスターの動きを抑えようと試みて、失敗しているらしい。

 そんな三人を背にして、両手を前に突き出しているのがクリスタだった。

 手のひらに沿う形で、緑色の四角い光壁が展開している。大きさは、縦も横も二メートルくらい。初めて見る魔法だが、知識としては僕も知っていた。かなり高レベルなモンスターの攻撃も防げるという、防御魔法だ。

「あっ、バルトルトくん!」

 僕の接近に気づいたアルマが声を上げ、クリスタも叫ぶ。

「来ちゃダメよ! 逃げて!」

 彼女には、僕の方を見る余裕はなかった。それどころか、いつもの優しげな笑顔すら浮かんでおらず、険しい顔つきになっていた。

 そこまでクリスタが必死になる相手とは……。


 カトック隊と対峙しているのは、巨人ギガントゴブリンだった。

 ただし、普通の巨人ギガントゴブリンではない。体は胸から腰まで金属で覆われており、それも「鎧を着込んでいる」という雰囲気ではなく、肉体に直接ネジ止めされているように見えた。

 頭部も右半分が機械でカバーされ、右目の赤いレンズは怪しく光っている。腕や脚の一部も鉄板で補強されており、特に左腕は、肘から先が筒状の武器になっていた。

 その左腕から絶え間なく撃ち出される光弾を、クリスタが防御魔法で受け止める、というのが現在の戦況らしい。

「こんな巨人ギガントゴブリンが存在するなんて……」

『そうか。バルトルトから見ても、イレギュラーなモンスターなのか』

 僕の中のダイゴローが、何やら思い詰めたような口調で呟く。

『サイボーグ化された巨人ギガントゴブリン……。バルトルトが倒したやつとは別の個体だとしても、さしずめ「メカ巨人ギガントゴブリンの逆襲」といった様子だな』

   

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