転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第120話 ゴブリン討伐部隊(3)

公開日時: 2021年2月13日(土) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:10
文字数:3,347

   

 村の中へ逃げ込んでも、普通ならば、問題は解決しないはず。

 依頼されて討伐しに来たドライシュターン隊の三人以外にも、ゴブリンのギギをよく思っていない者はいる。今までだってギギは、武器を持った村人に追い回されたのだ。だから村の中にとどまる限り、彼らから危害を加えられる可能性があった。

 つまり、村の外へ逃がす必要があるのだ。

 その意味では、入り口の広場を押さえられたのは、困った事態だが……。

 幸い、例の馬小屋がある。村の北の外れまで行き、転移魔法陣を使えば、普通の出入り口を通らずとも、村から脱出できるのだった。

 だからアルマは、ゴブリンを連れて、そちらへ向かっているはず。僕が走り出した時点で、既にアルマたちの姿は視界から消えていたが、行先の見当がついたので、追うのは簡単だった。

 おそらく単純な足の速さを比べても、アルマより僕の方が上だろう。しかも彼女はモンスターと一緒。実際、全速力で少し走っただけで、アルマとゴブリンの背中が見えてきた。


「おーい、待ってくれ! 僕も一緒に行くよ!」

 いったん止まってもらおうと思って、僕は大声で呼びかける。

 通りを歩く村人の目もあるので、あまり大きな声で叫ぶのは恥ずかしい気もするが、そんなことを言っていられる状況ではなかった。

 後ろから追いかけるより、きちんと合流して、アルマやゴブリンと一緒に行動したいのだ。

『お前、もう疲れたんだろ? ここまで短距離走のペースで走ってきたもんなあ。でも、まだまだ目的地は遠い。マラソンみたいなもんだ』

 ダイゴローは僕の中にいるだけあって、体力や肉体の状態をよく把握している。茶化している口調だが、全く冗談ではなかった。

 とりあえず、僕の声はアルマに届いたらしい。彼女は足を止めて振り返り、

「バルトルトくん……? あっ!」

 こちらを視認したはずなのに、なぜか再び走り出してしまった。まるで、仲間ではなく敵の姿を見たかのような勢いで。

「アルマ? どうして……」

 彼女とゴブリンが止まったのに合わせて、僕も止まりかけたのだ。その状態からまた走り出すというのは、いっそう辛い。もう足が勝手に、動かなくなりそうだった。

 僕の不満の声に対して、アルマもゴブリンも、今度は止まらない。走りながらチラリと振り返るだけだ。

「バルトルトくん! 後ろ、後ろ!」

「後ろ、って……?」

 怪訝に思いながら、僕も首を後方へ向けてみる。

 すると、視界に入ってきたのは……。

「追いついたぞ! 俺の獲物だ!」

 ドライシュターン隊の一人が、恐るべき速さで迫り来る光景だった。


 筋骨隆々とした、青い軽装鎧の武闘家だ。カーリンと戦っていたはずなのに、僕たちを追ってきたということは……。

 彼女を退しりぞけた、ということだ!

『まさかカーリンが突破されるとは……。でも、こういう事態もクリスタは想定してたからこそ、お前をアルマたちの護衛につかせたんだろ?』

 ダイゴローの言葉で、僕は自分の役目を思い出す。特に、クリスタの期待は裏切れない!

「アルマ! この場は僕に任せて、先に行って!」

「うん! バルトルトくん、頼んだよ!」

 短く言葉を交わしてから、その場にストップ。アルマとゴブリンの姿が小さくなる中、青い武闘家と対峙するために、回れ右をする。

『おお! 一度は言ってみたいセリフ、ナンバーワンだぜ! 「ここは俺に任せて先に行け」ってやつじゃねえか!」

 ダイゴローが揶揄する間に、僕に合わせて、武闘家も走るのをめていた。

「今度はお前が相手か? 立ち塞がるなら、容赦はせんぞ!」

 こぶしを握りしめて、構える武闘家。

 応じるように、僕もショートソードを腰から引き抜いた。


 彼我の距離は数メートル。

 往来の真ん中で冒険者二人が争う様子を見せ始めたので、通行人たちは、巻き込まれたら大変と思ったらしい。蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「槍使いの女は、なかなかの相手だったが……。さて、お前はどうだ?」

 青い武闘家は軽口を叩きながら、すり足でジリジリと、少しずつ距離を縮めてくる。

『一気に攻めてこないのは、バルトルトを警戒してるからだろうな。足止めに失敗したとはいえ、カーリンは決して弱くない。お前も同じような力量じゃないか、って過大評価されてるらしいぞ?』

 そう分析するダイゴロー。

 ならば、相手が誤解しているうちに……。

「先手必勝!」

 大上段に構えて、僕は斬りかかった。

 本当は対人戦で刃物は使いたくないのだが、相手はカーリンをも凌ぐほどの強者つわものだ。僕の斬撃くらいは軽くいなすだろう、という信頼があった。

「何だ? ずいぶんと大振りのようだが……」

 不思議そうな顔で、ひらりとかわす武闘家。あまりにもけやすい攻撃だから、フェイントではないかと疑っているようだ。

 すぐさま僕は剣を戻して、二の太刀、三の太刀を入れていく。やはり武闘家はこれをかわすが、

「その程度ならば……!」

 後ろへステップすると同時に、彼の手は反対に動いた。

 その素早さが故に『動いた』としか僕は認識できず、何をされたか理解できたのは、手の甲に強烈な痛みを感じて、武器を取り落とした時だった。

『チョップで叩き落とされたのか!』

 ダイゴローが騒ぐ間に、今度はパンチが目前に迫っていた。

「……!」

 体を捻ってけながら、僕もこぶしを突き出す!



 カウンター気味の一撃であり、これが決まれば、大きなダメージを与えられたはず。実際には、当然のようにかわされてしまったが、武闘家の顔色を変えるくらいの効果はあった。

「ほう。やはり剣戟はフェイントだったか。そんな格好してるが、お前、本当は武闘家だな?」

 軽口と共に繰り出されるパンチの連打。

 僕も左右のこぶしで応じる。相手の勘違いに合わせたつもりではなく、武器を拾う暇がない以上、他に手がなかったからだ。

「いいぞ! やはりおのれの肉体こそが一番の武器! 血湧き肉躍るというものだ!」

 こちらの事情も知らずに、あちらは歓喜の表情で、殴り合いを楽しんでいる。

『いいじゃねえか。こっちの目的は相手の足止め、つまり時間稼ぎだ。このまま殴り合っておけば、アルマとゴブリンが逃げるには十分だろ?』

 理屈としては、ダイゴローの言う通り。

 だが、カーリンを倒すほどの武闘家と、僕が体術で対等に渡り合えるはずもなく……。

「しょせん、この程度か」

 もう飽きた、と言わんばかりの小さな呟き。

 同時に、僕の口からは呻き声が漏れる。

「ぐふっ!」

 腹に強烈な一撃を叩き込まれたのだ。

 パンチに気を取られていた隙に、回し蹴りを食らってしまったらしい。


 蹴り飛ばされた僕は、その場に踏みとどまることも出来ず……。

 近くの民家の生垣に、頭から突っ込んでいた。ズボッとはまり込むどころか、生垣の低木を薙ぎ倒して突き抜けて、その家の庭に出てしまうほどの勢いだった。

『石塀じゃなくて良かったな。大怪我してたところだぜ』

 その点は、不幸中の幸いだった。この勢いで壁に叩きつけられていたら、どうなったことやら。

 とりあえず立ち上がった僕は、この家に迷惑かけたのを謝るつもりで、周囲を見回すが……。

 庭には、住民の姿は見えない。建物の中にいるのはチラリと見えたが、すぐに家中いえじゅうの窓をバタンと閉めてしまったので――ガラス窓だけでなく鎧戸まで一緒に閉ざすほどなので――、どうやら関わり合いになりたくないらしい。

「申し訳ない……」

 聞こえないのを承知で呟いてから、庭を出ていくつもりで、体の向きを戻す。半壊した生垣越しに、青い武闘家が走り去るのが見えた。

「まずい!」

 思わず叫んでしまった。

 少しの時間は稼げたはずだが、あれだけでは十分ではないかもしれない。アルマたちは追いつかれてしまうのではないだろうか。僕もすぐに追わないと……。

『待て、バルトルト。このまま追いかけても、また軽くあしらわれるだけだぞ』

 慌てる僕に、ダイゴローがストップをかける。

『一応、生垣があるんで、通りの方からバルトルトの姿は見えないはず。ここの住民は家に閉じこもって窓も閉めてるから、やっぱりお前の姿は見えていない。つまり……』

 そこまで聞けば十分だった。

 今のままでは青い武闘家に太刀打ち出来ないのだから、今より強くなって立ち向かえばいい。そして僕には、一時的にパワーアップする手段がある。

 僕は思わず、笑みを浮かべながら……。

 懐から銀色のアイマスクを取り出して、顔に当てるのだった。

「変身! 転生戦士ダイゴロー!」

   

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