転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第4話 ダイゴロー大地に立つ(4)

公開日時: 2020年10月13日(火) 23:30
更新日時: 2020年10月20日(火) 19:30
文字数:3,721

   

『ちょっ! おい!』

 僕は、また森の緑に囲まれていた。

 戻ってきて最初に頭の中で鳴り響いたのが、ダイゴローのツッコミだ。

『ダイゴローは俺自身の個人名だ! ヒーローの名前じゃねえ!』

「え? でもダイゴローの能力でヒーローバージョンに変身するのだから、そう叫ぶのが妥当ではないかと……」

 先ほどの彼の発言の中には転生戦士という単語もあったから、そういう肩書きだと思って『転生戦士ダイゴロー』と繋げてみたのだけれど。

 何か問題あったのだろうか?

『ああ、もう! だったら、それでいいや! いいから、今は敵に集中しろ!』

 そうだった。

 確かに、目の前の巨人ギガントゴブリンは、既に立ち上がっていたのだが……。

「……あれ?」

 なぜか、以前よりも小さく見えていた。


『当たり前だ。お前自身が、大きくなってるからな』

 言われて気づいたが、巨人ギガントゴブリンだけではない。森の木々も少しスケールダウンした感じだ。なるほど、僕自身のサイズが変わったのだ!

『変身によって、筋肉や骨格が盛り上がってるだろ? だから体も、ひと回りかふた回りくらい大きくなるのさ』

 鏡がないから完全には確認できないが、わずかに視線を落とせば、自分の姿が部分的に見えてくる。

 薄茶色の皮鎧という装備だったはずなのに、今の僕は、ぴったりと体にフィットした全身スーツを着込んだ状態。赤と青と銀の三色からなる、明らかに異様なスーツだ。

 こんなものに包まれているのであれば、それだけで正体を隠すには十分なのでは……?

『いや、鏡がないからわからんだろうが、顔の部分は剥き出しで、元通りの肌色だぞ。目鼻立ちも変わってないからな。髪の色は変化したが、それくらいじゃ十分じゃないだろ?』

 と、僕の思考を読むダイゴロー。

 ならば、確かにアイマスク装着が必須なわけだ。

『ちなみに、アイマスクは今、顔に張り付いている』

 ああ、変身アイテムというのは、そういう意味なのか。変身後は肉体と一体化するらしい。

『おう、アイマスクは顔の一部です、ってやつだ。激しく動いても落ちる心配はないから、安心して戦え!』

 そう、目の前には敵がいるのだ。

 いつもの習慣で、腰からショートソードを引き抜こうとしたが……。

 剣がない!

 皮鎧が消えて全身スーツになった時点で、そこにぶら下げていた武器も消えているのだ!

『体術と魔法で戦え!』

 いやいや、体術と言われても困る。僕は武闘家ではないのだから!

 それに、魔法剣士とはいえ、魔法も未熟で……。

『おい、何のための変身だ? 体力も魔力も、大幅にパワーアップしてるに決まってるだろ! 魔法なんて、呪文も要らず、意識するだけでいい! 魔法の発動以前に、魔力そのものを武器に出来るはずだ!』

 ちなみに、こうしたダイゴローとのやりとりは、あくまでも同じ肉体に宿る精神体との話し合い。脳内会話だから、普通に話をするのとは違って、瞬時に行われるものだったが……。

 それでも、アドバイスはギリギリのタイミングだったらしい。

 巨人ギガントゴブリンが、一度ザザッと大地を蹴ってから、僕を目掛けて突進してきたのだ!


 こうなると、呪文詠唱の時間も惜しい。悠長に話をしていたくせに、と言われるかもしれないけれど。

 とにかく、ダイゴローの言葉を信じて、

「えいっ!」

 僕は弱炎魔法をイメージしながら、右手を前に突き出してみた。

 すると飛び出したのが、大きな炎の球。

「えっ? これは……!」

 そもそも僕の魔法は普通の人より弱めだったはずなのに、むしろこれ、弱炎魔法ではなく強炎魔法、いや超炎魔法の威力じゃないか!

「グワッ?」

 直撃を食らった巨人ギガントゴブリンは、押し飛ばされるようにして、少し後退あとずさり。

 一瞬だけ、体をかがめるような姿勢になったのは、ダメージを受けて痛がっていたからだろうか。胸から腹部にかけて広範囲に渡り、緑色の体毛は焼け焦げて、地肌も火傷でただれている。

 それでも。

「ガーッ!」

 雄叫びと共に、威嚇するように棍棒を振り回しながら、再び向かってくる巨人ギガントゴブリン。

「えいっ! えいっ!」

 僕は弱炎魔法の連打で、その突進を押し止めていたが……。

 あくまでも、足止め程度の効果しかなかった。これでは、巨人ギガントゴブリンを倒すことは出来ない!

 ここで再び、頭の中に鳴り響く声。

『なあバルトルト、お前、なんでさっきから弱炎ばかりイメージしてるんだ?』

 それはもちろん、僕が発動できる魔法は、せいぜい弱炎魔法くらいだから……。

『いやいや。変身状態の今なら、もっと使えるはずだぞ?』

 ……え?

 それならそうと、先に言って欲しかった!

『言ったつもりだったんだがなあ。ほら、色々とアップしてる、とか、意識するだけでいい、とか……』

 ダイゴローの呆れ声を聞き流しながら、今までと同じように、僕は右手を前に突き出した。

 ただし、

「ええいっ!」

 イメージとしては、今度は超炎魔法を思い浮かべて!


 放たれたのは、今まで見たことがないレベルの巨大な火球。人間の体より大きいサイズだった。

 当然、モンスターに与えるダメージも、先ほどとは桁違いで……。

「グエエッ!」

 巨人ギガントゴブリンは、炎に包まれて絶叫する。握力を失ったらしく、凶悪な棍棒も取り落としていた。

「おおっ!」

 勝った、と思った僕の口からは、歓喜の声が漏れる。

 しかし。

 巨人ギガントゴブリンは手脚をバタバタと振り回し、その勢いで、炎を消し止めようとしていた。

 その甲斐あって、やがて鎮火。残ったのは……。

 全身が真っ黒に焦げて、ぷすぷすと煙を上げながらも、二本の脚でしっかりと立っている巨人ギガントゴブリン。

 僕を睨みつける瞳は怒りに燃えており、まだまだ生命力に満ち溢れていた。


「ひっ!」

『おい、お前がビビってどうする……』

 思わず上げた僕の声に、ダイゴローがツッコミを入れる間にも。

 怒り狂った巨人ギガントゴブリンは、今まで以上の勢いで、こちらに突進してきた。

 魔法をイメージして迎撃するもなく、僕は咄嗟にジャンプしてかわそうとしたが……。

「……え?」

 今日これで何度目だろう。またもや驚愕する。

 いや、回避そのものは成功したのだ。それは良いとして、僕が驚いたのは、自身の跳躍力だった。

 まるで空を飛んでいるかのように、モンスターの遥か頭上、空中にいたのだから!

 見下ろせば、僕を見失った巨人ギガントゴブリンが、キョロキョロと左右に首を振っている。

『言ったろ。体力もアップするから、体術で戦える、って』

 ああ、そういう意味だったのか。

 もちろん、本当に飛んでいるわけではなく、あくまでも跳んだだけ。だから、最高点まで達した後は、自由落下するだけ。

 でも、この勢いは活かせる!

 僕は加速しながら、全体重を乗せて、蹴りを叩き込んだ!

「急降下キック!」


 ちょうど巨人ギガントゴブリンは、ようやく僕を見つけて、上を向こうとするところだった。

 僕のキックが炸裂したのは、その眉間。

「ギッ……!」

 悲鳴すら途中で飲み込むほどの、強烈な痛みだったのだろう。巨人ギガントゴブリンは、苦痛に悶えて倒れこみ、地面を転がり回るしかなかった。

『今だ、バルトルト! とどめを刺せ!』

 とどめを刺す、という言葉で思い出すのは、少し前の、エグモント団における失敗。

 でも、もうあの時とは違う。今の僕ならば……。

『そうだ! 今のお前は、転生戦士ダイゴローだ! だから今ならば可能なはず。いいか、よく聞け! おそらくお前にとって、最大の必殺技は……』

 僕を励ますような言葉に続いて、さらにアドバイスまでくれるダイゴロー。

「うん、わかった!」

 それを受け入れた僕は……。

 右腕に炎、左腕に氷の魔力をイメージしながら。

 二本の腕を、バツ字状に交差させた!


 かつて冒険者学院で、魔法についての講義に、こんな話があった。

 熱いガラスをすぐに冷やすと割れるのは、誰でも知っている常識だろう。急激な温度変化によって、一つの物体の中で温度分布に歪みが生じるからであり、似たような現象は、ガラス製の器具でなくても起こり得る。

 自然現象では熱すると同時に冷やすことは出来ないが、もしも同時に行えたら、この『歪み』は最大になるはず。魔法でも通常、炎系統と氷系統は打ち消し合うものだが、伝説に残るレベルの魔法士ならば、その二つの攻撃力を相殺しないように保ちつつ、両極端の魔法を同時にぶつけることで、極大の破壊力を発揮できるかもしれない……。

 僕の理解がどれほど正しいのか、少し自信はないが。

 とにかく、そんな感じの理論だった。

 一応は魔法が使える、というレベルの僕には、無縁の話だったけれど……。

 転生戦士ダイゴローとなった今ならば! 魔力そのものを放出できる今ならば!


「ダイゴロー光線!」

 無意識のうちに、そんなセリフが口から飛び出していた。

 ダイゴローが『最大の必殺技』と言っていたからだ。ならば名称が必要、という気持ちによる発言だった。

 交差する僕の腕から放たれたのは、両腕の魔力が一つに合わさった、青白い光線。それは渦を巻きながら、光のドリルとなって、巨人ギガントゴブリンへと向かっていく!

「ギエエエエエ!」

 巨人ギガントゴブリンの絶叫。

 破壊的な魔力に飲み込まれたモンスターは、粉々に砕けて、塵と化したように見えた後……。

 跡形もなく消滅した。


「……」

 終わった、とか、勝った、とかの声も出ない。

 戦闘後の、心地よい疲労感に包まれながら……。

 必殺技の構えを解いた僕は、そのまま少しの間、何も言えずに立ち尽くすばかりだった。

   

   

(挿絵として用いた画像は、それ用に上下の余白をカットしたものなので、こちらに未カット版も掲載します。変身前後の身長差が反映されています)




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