転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第38話 早朝の森(4)

公開日時: 2020年11月9日(月) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:15
文字数:3,090

   

 ガサゴソと音を立てて、左右の茂みから一匹ずつ、ゴブリンが飛び出してきた。鎧衣アーマーゴブリンでもスピアーゴブリンでもない、ただの最下級のゴブリンだ。

 二匹が両手を広げて並ぶだけで、僕たちの進路は塞がれてしまう。それくらいの横幅しかない、細い小道だった。

 とはいえ、カトック隊にとっては、最下級のゴブリン二匹なんて、一瞬で片付けられる程度の雑魚に過ぎないわけで……。

 そう思ってしまった僕は、ニーナの言葉に驚かされる。

「ここは魔法剣士二人がメインで! 他の者はサポートに回って!」

 僕とカーリンで一匹ずつ倒す。それがリーダーの指示だったのだ!


『新調したショートソードの使い勝手を見せてみろ、ってことだろ?』

 ニーナの意図を解説するダイゴロー。さすがに、僕を馬鹿にし過ぎではないだろうか。それくらい、言われなくてもわかる。

『おお、そうかい。それじゃ、お手並み拝見だ』

 ダイゴローが僕をからかう間に。

「ヴェルフェン・アイス!」

 弱氷魔法を唱えたカーリンが、槍に冷気を込めて、左側のゴブリンに斬りかかっていく。

 僕は右のゴブリンへ向かいながら、彼女を真似て、弱炎魔法を詠唱した。

「ファブレノン・ファイア!」

 ゴブリンを狙った火炎弾ではなく、魔法剣を試みたのだ。

 すると。

 やいばの先端に火が灯る!

『おおっ!』

 僕の喜びを代弁するダイゴロー。

 しかし刀身全体に行き渡る前に、炎はシュッと消えてしまった。

 残念。

 でも落ち込んではいられない。

 両手で勢いよく、ショートソードを振り下ろした。

「えいっ!」

「ギギ……!」

 小さなナイフを頭上に掲げて、受け止めようとするゴブリン。これに対して、僕は途中で左手だけに力を入れて、微妙に斬撃の角度をずらす形になった。意識した行動というより、体が咄嗟に反応した、という感じだ。

「ギェッ?」

 驚愕によるものか、あるいは苦痛か。悲鳴を上げるゴブリンは、握ったナイフごと、右手を手首から斬り落とされていた。

 しかも僕の剣は止まらず、その勢いのまま、モンスターの頭に食い込んで……。

 頭蓋骨をカチ割られたゴブリンは、叫ぶ暇もなく、あっけなく絶命するのだった。


「ふうっ……」

 一息ついた僕の耳に、後ろからの声が聞こえてくる。

「バルトルトくん、がんばったー!」

「今回は、援護の必要もなかったね」

 振り返ると、アルマとニーナの明るい顔。特にアルマは、ニコニコというよりニヤニヤといった感じの表情だ。

 さらに、

「魔法剣は、まだ無理だったみたいだけど……。それについては、後で修行かしら?」

「うむ。剣術のセンスには、わずかではあるが、上達が見られたかもしれん」

 と言ってくれる、クリスタとカーリン。

 カーリンは言葉に加えて、僕の背中をポンと叩いた。彼女なりの、ねぎらいのアクションだったのだろう。

『よかったな、バルトルト。褒められたようだぞ』

 急に剣技がアップするはずもないが、目に見えない形で、日々の経験が反映されているに違いない。特に、転生戦士ダイゴローに変身して凶悪なモンスターを相手にした戦闘経験。数量的な経験値ではなく、質的な意味で、これが大きいのだと思う。

 また、転生戦士ダイゴローについて考慮するのであれば。

 変身状態では、拳に炎や氷を纏わせることが出来たのだ。だから素の状態でも、同じ要領でショートソードに炎を込められるのではないか。そんな淡い期待もあって、今回、魔法剣を試したのだが……。

 そこまで現実は甘くなかったようだ。


 カトック隊の女の子たちは、本当にタフだと思う。

 朝早くから『回復の森』に入ったにもかかわらず、結局、夕方まで森の中でモンスター・ハンティングを続ける形になった。

 いつも通り、ゴブリン系やウィスプ系。鎧衣アーマーゴブリンや緑ウィスプが混じることはあっても、それより上級のモンスターは現れず、基本は最下級のゴブリンや青ウィスプばかりだった。

 メカ巨人ギガントゴブリンのような怪物と遭遇することもなく、目当ての黒ローブの怪人を見かけることもなく……。

「そろそろ、終わりにしようか」

 リーダーの合図で、この日の冒険は幕を閉じた。


 翌日も、基本的には同じだった。

 少し違うのは、

「バルトルトくん、朝だよー!」

 起床時間になっても僕は目覚めず、アルマに叩き起こされたこと。それだけ疲労が激しく、深々と眠り込んでいたという証だった。

 そして『回復の森』では、泉を見張っていても、誰も現れなかったこと。黒い怪人だけでなく、エグモント団の四人も出てこなかったのだ。

 最初の日は、彼らの出現を機に、見張りを終わらせたわけだが……。

 二日目は結局、全部で六時間くらい粘ることになった。

 アルマとコンビで周囲の警戒という役割を、四人全員が一時間ずつ。さらに僕とクリスタが二度目のターンを済ませたところで、

「つまんなーい! もう今日も諦めようよ、ニーナちゃん!」

 とアルマが騒ぎ出し、他の者たちも同意。

 それから、やはり夕方まで『回復の森』を徘徊して、ゴブリンやウィスプを狩って過ごすのだった。


「あと二、三日くらい、続けてみようか。それでもダメなら、方針変更!」

 ニーナの決断に従って、泉の張り込み三日目。

 ちなみに、やはりグッスリ眠り込んだものの、早くも現状に肉体からだが順応してくれたらしい。今朝は起こされることなく、一人で自然に目が覚めた。

 昨日は少し体がだるいと感じながら『回復の森』へ入ったが、今日は大丈夫。スッキリ清々しい気分だ。深緑の森を朝から歩くのは心地よい、とすら思える。

「昨日とは違って元気そうね」

 隣のクリスタから、そう言われるくらいだった。

「ははは……。すっかりお見通しですね」

「うむ。そもそも昨日は、剣のキレも悪かったからな」

 と、反対側のカーリンにも言われてしまう。

『当たり前だろ。雑魚のゴブリン相手でも、かなり手こずってたじゃないか。ニーナの斧に助けてもらったり、クリスタの魔法で援護してもらったり……』

 まるで追い討ちをかけるような、ダイゴローの言葉。

『いや、そんなつもりじゃねえよ。ただ事実を言ってるまでだ。バルトルトが思ってる以上に、昨日は疲労感いっぱいだったんだぞ? メカ巨人ギガントゴブリンみたいなバケモノが現れたらどうしよう、ちゃんと変身できるんだろうか、って心配になったくらいだ』

 おいおい……。

 あまりに大袈裟な物言いに、絶句したくなる。そこまで言うのであれば、今日になってからではなく、昨日その時に指摘してほしかったが……。

『言えるわけねえだろ。肉体的に弱ってるお前を、さらに精神的にも弱気にさせたら、それこそ大ピンチじゃねえか。気力だけでもたもってもらわないと困る。そう思って、みんなも黙ってサポートしてくれたんだろ?』

 ああ、そういうことか。

 ならば。

「昨日はご迷惑をおかけしました。その分、今日はがんばります」

 歩きながら、カトック隊のみんなに対して頭を下げる。

「あら、いいのよ。昨日は昨日、今日は今日だから」

 優しい言葉をかけてくれるクリスタ。

 続いて、前を歩くニーナも振り返り、

「調子の悪い時くらい、誰にでもあるからね。そういう時はお互い様。でも……」

 まるで悪戯いたずらを思いついた子供のように、笑みを浮かべる。

「『昨日の分もがんばる!』って宣言するなら、今日は一人で戦ってもらおうかな? リーダー命令として」

「いやいや、ニーナ、冗談はめてよ。僕の『がんばる』は、出来る範囲内で『がんばる』って話に過ぎないからね?」

 早朝探検も三日目ともなれば、この時間帯はモンスターも寝ているから比較的安全に森ダンジョンを進める、と体感できていた。だからといって油断したわけではないが、僕たちは軽口を交えながら、泉へ向かって足を進めるのだった。

 その先に何が待っているのか、想像もしないまま……。

   

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