転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第27話 武器屋と武闘家(2)

公開日時: 2020年10月28日(水) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:13
文字数:3,072

   

 アーベラインの街の、北側のエリア。

 ベッセル男爵の屋敷を訪れた際、街の東側に関して『金持ちや貴族が住む高級住宅街』と説明したと思うが……。

『ああ、覚えてるぜ。だから足を踏み入れるのすら初めてだ、と言ってたな?』

 そういう感じで特徴を述べるのであれば、北エリアは、店屋が多い区域と言い表せると思う。

『つまり、商店街ってことか! グッと身近に感じられるな!』

 ダイゴローにも、僕の感覚が伝わったらしい。そう、北は庶民的な地域なのだ。

 もちろん一口に『北側のエリア』と言ってもかなり広いので、全部が全部、同じではなく……。


 北の大通りと呼ばれるメインストリートから曲がって、裏路地を進んでいくと、武器屋や防具屋の建ち並ぶ区画に入る。この辺りは、細い裏道なのに石畳で舗装されており、一風変わった雰囲気に包まれていた。

『おお! オシャレな街並みじゃねえか! ファンタジーというより、なんだかメルヘンって感じだぞ!』

 別に観光名所というわけでもないのに、感激の声を上げるダイゴロー。アーベラインの市民の一人として、僕まで誇らしい気分になる。

『これって、あれか? いわゆる木組みの街ってやつか?』

 武器屋や防具屋は、確かに木で造られた建物が多い。それも独特の工法による木造建築らしい。ダイゴローの言う『木組み』というのは、それに相当するのだろう。

 外壁を塗装する際も、基調となる色の他に、組み合わせた木材に沿って、別の色で縦横のラインが入るのが一般的だった。そのため、少しカラフルな街並みになっている。

『色合いで目立たせるのも、店をアピールしようという、商店の戦法の一つだろうなあ……』

 そこまで考えたことのない僕には、ダイゴローの反応が、むしろ面白いくらいだった。


 こんな感じで、ダイゴローとの会話に気を良くしていると。

 心なしか、前を歩く二人のペースが早くなっていた。カーリンが速度を上げて、クリスタが彼女に合わせているようだ。

 そのクリスタが、後ろを振り返る。

「いつもこうなの。武器とか戦闘とか、そういうものにしか、カーリンは興味がなくて……。こうして武器屋に近づくと、ウキウキして急いじゃうのよ」

「モンスター退治を生業なりわいとするのが冒険者だ。戦闘やそれに関わるものに心を向けるのは、当然というものだろう?」

 同意を求めるような目を、カーリンは僕に向ける。

 素直に頷けなくて少し困ったが、僕が反応を返すより早く、クリスタが言葉を続けてくれた。

「そうだとしても、限度があるわ。冒険者学院の寮が同室になった時だって、あまりにも殺風景だったから驚いたのよ。もしかして、間違えて男の子と一緒にされたんじゃないか、って」

 クリスタは、フフフと笑った。さすがに、これは冗談に違いない。

「それを言うなら、俺も驚いたのだぞ。ぬいぐるみとかアクセサリーとか、乙女乙女した小物をたくさん部屋に持ち込んで……。知っているか? こう見えてクリスタは、可愛らしいものに目がないのだ」

 最後の部分は、僕に向けた説明だった。

 僕から見たクリスタは、いかにも年上のお姉さんという雰囲気だから、確かに少女趣味は少しイメージが違うかもしれない。

「あら、『こう見えて』とは失礼ね。女の子としては当然の話よ?」

 言いながら、わざとらしく口を尖らせるクリスタ。

 少し話題を変える意味で、僕は言葉を挟んだ。

「二人は年齢としが同じというだけでなく、学院時代から一緒だったのですね」

「そうなの。腐れ縁よ」

 と返すクリスタの顔には、いつもの微笑みが戻っていた。

 こういう話題になったついでに、さらに尋ねてみる。

「クリスタとカーリンも、ニーナみたいに王都の冒険者学院で……?」

「あら、違うわ。私たちは西の学院だったの。ニーナと初めて顔を合わせたのは、彼女がカトック隊に入ってきた時で……」

 いったんクリスタは言葉を切って、カーリンと顔を見合わせた。

「……ニーナ加入のいきさつは、彼女の口から聞かせてもらう方がいいでしょうね」

「うむ。俺もそう思う」

 目配せを交わす二人。何か事情がありそうだが、ニーナのことはニーナから聞くべき、というのは当然であり、今ここで詳しく聞き出そうとは僕も思わない。そもそもニーナについては、話の流れで出てきたに過ぎず、それほど強い興味があるわけでもなかった。


『それにしても、面白いもんだな』

 僕の頭の中では、またダイゴローが何か思うところある雰囲気だ。

『いや、たいした話じゃないが……。ニーナやアルマと別行動になってから、カーリンの口数、増えたんじゃないか?』

 それは僕も感じていた。

 別にカーリンが二人を嫌っているとか、二人と仲が悪いとかではなく、それだけクリスタと仲良しだという証なのだろう。

 厳密には僕も一緒だから三人だが、その僕は今、二人の後ろを歩く形になっている。カーリンやクリスタとしては、振り返らない限り視界に入らない以上、二人きりで歩いている感覚に近いのかもしれない。

『クリスタと二人だけなら、カーリンも案外しゃべるみたいだな』

 ダイゴローの言葉に、僕は心の中で大きく頷くのだった。


「ここにしよう」

 カーリンが足を止めたのは、僕が入ったことのない武器屋の前。

 二階建てで屋根は赤茶色、白い壁にも同じく赤茶色のラインが入っている。

『縦横だけでなく斜めの線もあるから、幾何学模様って感じか? 丸や曲線はないものの……』

 バルトルトは、木組みの商店をいたく気に入ったらしい。ずいぶんと細かいところまで観察していたようだ。

 だが、いつまでも店の外観を眺めているわけにはいかない。カーリンがドアを開けて中へ入っていくので、クリスタと僕も続いた。

『さすが武器屋だ。剣とか槍とか斧とか弓とか……。色々と置いてあるぜ!』

 当たり前のことを言いながら、感動している様子のダイゴロー。モンスターが存在しないほど平和な世界から来ただけに、武器そのものが珍しいようだ。

 僕にしてみれば、武器なんて見慣れたものだが……。貼ってある値札の数字は、僕が行く武器屋より明らかに大きかった。なんだか落ち着かない気分になる。

 一方、カーリンは奥のカウンターまでズカズカと歩み寄って、そこにいる店主に声をかけていた。

「剣を買いたいのだが、オススメはどれだ? 魔法剣として使える剣だ」

 店の主人は、年齢とし相応に頭が薄くなった中年男性。椅子に座ったまま、値踏みするかのような視線を僕たちに向けた。

「十把一絡げの剣なら、そっちにあるが……」

 主人が指し示したのは、左側の奥にあるコーナーだ。傘立てに傘を入れておくような感じで、大きめの筒に、何本もの剣が無造作に突き立ててあった。

「……あれだと、魔法には耐えられんだろうな。魔法剣として使うなら、こっちだ」

 続いて視線を向けたのは、傘立て剣の手前にあるショーケース。ガラス張りの棚の中では、各段に数本ずつ、見るからに立派そうな剣が寝かされていた。

「実際に持った感じなど、確かめてみて構わないか……?」

「鍵は掛かってない。勝手に開けて、手に取ってくれ」

 ぶっきらぼうな言い方ながら、気さくに許可をくれる主人。

 カーリンは、早速ケースに歩み寄り、まずは最上段から一本取り出す。

 僕とクリスタも、カーリンに従って店の中を移動。でも剣を手にしたカーリンが何を考えているのか、近くで彼女の表情を見ても、僕には読み取れなかった。

 しっかりと両手で剣を握り、刃の先端から柄の末端まで視線を這わせて、彼女は呟く。

「ふむ……」

「いい剣だろ?」

「ああ、悪くない。では……」

 カウンターから声をかけてきた主人に、そう返してから。

 カーリンは、いきなり魔法を唱えた。

「ヴェルフェン・アイス!」

   

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