転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第141話 モンスターな英雄(15)

公開日時: 2021年3月10日(水) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:16
文字数:3,068

   

 死んでしまったゴブリンのギギを抱きかかえる、アルマの姿。

 その向こう側に見えてきたのは、走ってくる仲間たち。つまり、カトック隊とドライシュターン隊の面々だった。

 そこまでは、僕の期待通りなのだが……。軽い絶望に繋がるのは、その先だった。

 クリスタは顔に疲労の色を浮かべており、よろよろした足取りだ。ここまで一人で走ってくるのは無理だったとみえて、ニーナの肩を借りていた。

 カーリンも表情や歩き方はしっかりしているものの、クリスタ同様、ドライシュターン隊の青い武闘家に支えられている。紺色ローブの魔法士は、もう全く歩けないらしく、仲間の赤い戦士に背負われていた。

 三人に共通するのは、魔法が使えるということ。

 要するに、メカ巨人ギガントゴブリンとの戦いで魔力を使い果たして、疲労困憊という有様ありさまだ。

 これでは……。

 仲間が来たならば、このレッドメカ巨人ギガントゴブリンは仲間に任せてしまおう。そんな僕の目論見は、あっけなく砕け散ったのだった。


『何を今さら……。お前、何のためにサッサと変身したのか、もう忘れたのか?』

 ダイゴローに指摘されて思い出す。

 カトック隊とドライシュターン隊だけでは、メカ巨人ギガントゴブリンを三匹も相手に出来ない。だから僕が転生戦士ダイゴローとなって、そのうち一匹を倒す。

 いつの間にか忘れていたが、それは、他ならぬ僕の判断だった。

 実際、転生戦士ダイゴローの力で倒したのは一匹だけ。僕が想定した通り、仲間たちは二匹のメカ巨人ギガントゴブリンを突破して、駆けつけてきたのだが……。

 二匹屠るだけで魔力がからっぽになる、というのも、あの時の僕の想像通りになったわけだ。


「グワーッ!」

 ひときわ大きな叫び声を発しながら、レッドメカ巨人ギガントゴブリンがその場に立ち上がる。こちらのパンチやキックを振り払ったのだ。

 僕が仲間に目を向けたのは、ほんの一瞬。よそ見のつもりはなかったけれど、隙が生まれていたのだろう。

「グワーッ!」

 再び大きく咆哮したモンスターは、両手を掲げて、こちらを殴ろうとする素振りを見せた。

 しかし、その直後。

 ビクンと体を震わせて、そのアクションが止まる。続いて、左腕の筒状の武器を、モンスター自身の腹に向けた。

「……?」

 混乱して僕の動きまで止まる間に、レッドメカ巨人ギガントゴブリンは、強力な光弾を撃ち出していた。

 ほぼゼロ距離で、ズバン、ズバンと発射されるエネルギー弾。その破壊力はすさまじく、あの頑丈な金属装甲にヒビが入っていく。

 僕が殴った手応えでは、これまでのメカ巨人ギガントゴブリンと同等の頑丈さだったはず。ならば、もしかするとレッドメカ巨人ギガントゴブリンが放つ光弾は、通常のメカ巨人ギガントゴブリン以上の威力を誇っているのかもしれない。

 しかもレッドメカ巨人ギガントゴブリンは、反対側の右手も、体を覆う装甲プレートに叩きつけていた。こちらはただ衝撃を与えるだけでなく、光弾のダメージで脆くなった箇所から次々と、素手で無理矢理に剥ぎ取っていく。

 どう見ても、自殺行為でしかないのだが……。

 ここで僕は、ようやく気づいた。

 レッドメカ巨人ギガントゴブリンの足首に、アルマの鞭が巻き付いている!


 つい先ほど『怪物いじりマッド・ドクター』を転ばせたのと同じだ。魔族を始末して、一度は元の長さにまで縮まっていた鞭が、再び攻撃的に伸びていたのだ。

 ただしレッドメカ巨人ギガントゴブリンは、魔族とは体のサイズが全く違う。だからアルマの力では、引きずり倒すのは無理なようだが……。

 いや最初から、今度は転ばそうという意図がなかったのだろうか。

 現在のレッドメカ巨人ギガントゴブリンの『自殺行為』を見ていれば理解できる。鞭を介して、アルマがこのモンスターを操っているのだ、ということくらいは。

 慌てて振り返ってみれば、彼女と目が合った。

「ダイゴローくん! これはお返し! ギギちゃんのために戦ってくれたお礼だよ!」

 ギギのかたきだった『怪物いじりマッド・ドクター』を倒したことで、かなり怒りも収まっているのだろう。アルマの表情には、僕に対する微笑みのたぐいも含まれていた。まだまだ気分の高揚も感じられたけれど。

 僕がそれだけ見てとる間に、アルマは鞭を引き戻している。

 花が咲いたように見えていた先端部も再び閉じて、鞭全体が振りまく魔力の光の粒子も消えて、元の長さに縮まっていた。

 だが、いったんアルマに操られてしまったレッドメカ巨人ギガントゴブリンは、もうしばらくの間、彼女の支配下にあるに違いない。

『一度の助太刀だけで、バルトルトには十分だな!』

 心の中に響くダイゴローの声と、目の前で声援を送るアルマと、両方に向かって頷いてから、僕はモンスターに向き直る。

 レッドメカ巨人ギガントゴブリンは、自分で自分の装甲をボロボロにしてくれたから、僕にとっては確かに『十分』だった。

「えいっ!」

 少し助走をつけて、渾身のドロップキックを叩き込む!


「グワッ?」

 おのれを攻撃していた途中なだけに、踏ん張りがかなかったのだろう。

 レッドメカ巨人ギガントゴブリンは吹っ飛んでしまい、ちょうどモンスター自身が内側から破壊した小屋、その残骸の中へ、頭から倒れ込んでいた。

 ゴキゴキという音が響きそうな角度で首を曲げながら、立ち上がろうとするレッドメカ巨人ギガントゴブリン。そんなモンスターに対して、

「ダイゴロー光線!」

 本日四発目の必殺技だ。

 右腕に込めた炎と、左腕の氷の魔力が合わさり、恐るべき破壊力となった光の渦。魔族が生体実験をおこなっていた建物ごと、そこで生み出されたモンスターを飲み込んで……。

「グゲエエエエエ!」

 レッドメカ巨人ギガントゴブリンは、絶叫を上げながら爆発するのだった。


『おいおい、爆発しやがったぜ。こいつ、もうモンスターじゃなかったんだな』

 そもそもメカ巨人ギガントゴブリンは、二人の魔族――『機械屋メカ・アーティスト』と『怪物いじりマッド・ドクター』――によって共同開発されたモンスターという話だった。あくまでも『モンスター』であり、ダイゴロー光線に飲まれれば粉々になって消滅するのが、お決まりのパターンだった。

 しかし今回のレッドメカ巨人ギガントゴブリンは違う。その散り際は、むしろ魔族及びその眷属と同じだった。『怪物いじりマッド・ドクター』秘蔵の実験体モルモットであり、六つ突起の星印も刻まれていたので、特別な個体であることは最初からわかっていたのだが……。

 もはや、モンスターに分類される生き物ですらなかったとは! なんだか悲しい話のようにも感じられた。

『しんみりしてる暇はないぞ、バルトルト』

 もう本当に、変身のタイムリミットギリギリなのだろう。ダイゴロー光線を四発もはなった疲労感もあって、この場で変身を解いて倒れ込みたい気分だが、そうはいかない。

 仲間たちの方をチラリと振り返り、

「じゃっ!」

 いつものように軽く挨拶した後。

 瞬間移動テレポーテーションで、激闘の場から去るのだった。


「ふう……」

 転移した先で、ようやく変身を解除する。

 左右に高い木々が並び立つ、森の小道の途中だ。前を見ても後ろを見ても、ただ緑ばかり。仲間たちの姿も、もちろんモンスターの姿も、全く視界に入らなかった。

 それくらい、先ほどの戦いの場所からは離れていた。ただし、最初に変身した辺り――魔族やメカ巨人ギガントゴブリン三匹が現れた近く――まで戻ったわけではない。少し歩くだけで、仲間たちに合流できるはずの地点だった。

『最後の一仕事だな、バルトルト』

 心の中にいるダイゴローが、軽く笑う。

 彼もわかっているように、今の僕は、本当に疲れ切った状態だ。ここで手足を広げて寝転んだら気持ちいいいだろうな、と考えてしまうほどだった。

 でも「旅行は家に帰るまでが旅行」という言い回しもある。仲間を放り出して、自分一人だけで休んでしまうのは無責任だ。

 だから僕は、悲鳴を上げそうな肉体に無理をさせて、走り出し……。

「おーい! みんな!」

 顔に笑顔を浮かべながら、仲間のもとへ向かうのだった。

   

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