転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第22話 カトック隊 vs エグモント団(4)

公開日時: 2020年10月23日(金) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:11
文字数:3,048

   

「……!」

 眠りから覚めた僕は、バネのような勢いで、ベッドから飛び起きた。

 もう夕方ではなく、夜と呼ぶべき時間なのだろう。窓に目を向けると、すっかり外は暗くなっていた。

 反対に、開きっ放しのドアから、薄黄色の光が差し込んでくる。廊下の魔法灯が、既に点灯しているようだ。

『夕飯の時間になったら降りてこい、って言われてたよな。その「夕飯の時間」って、いつ頃だ?』

 ダイゴローに言われるまで、僕も忘れていた。その肝心の『夕飯の時間』を聞いていないではないか!

『おいおい。バルトルトが敢えて尋ねないから、てっきり冒険者パーティーの夕食時間には一定のルールがあるのかと思ったが……』

 そういえば、まだダイゴローと融合して二日目だ。昨日の僕が夕飯を食べた時間を標準と勘違いされても仕方がない。

『いや、昨日は一人だったし、宿泊の問題でバタバタしてたろ? だから、あれがいつも通りとは俺も思わなかったが……』

 と、ダイゴローと脳内会話を繰り広げている場合ではなかった。

 もしかすると、みんな既に食べ終わった頃だろうか? 新しい家に来たばかりなのに、自分だけ食事に遅れたりしたら、いきなり印象が悪くなる!

 慌てて部屋を飛び出して、僕は一階へと向かった。


 階段の途中で、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。

 ダイニングルームに入っていくと、アルマとニーナに迎えられた。

「あっ、バルトルトくんも来た!」

「うん、グッドタイミングだね」

 元気なアルマと、ニッコリと微笑むニーナ。二人は、お皿を運んでいるところで……。

 これが普段着なのだろうか。当然の話だが、昼間の『冒険者』の外見とは別物だった。

 ニーナは赤いジャージの上下で、アルマは白いTシャツと青いショートパンツという格好。ニーナの方はシンプルに赤一色なので、特にファッションセンスは感じられなかったが、アルマは違う。

 アルマのTシャツは首回りと袖口にオレンジ色の模様があったり、胸の辺りに黄色いヒヨコ柄がプリントされていたり、可愛らしいデザインだった。

『ああ、俺の世界だと、小さな子供がよく着てるような服だな』

 ダイゴローは失礼な感想を述べるが、あながち否定できない、と僕も思ってしまった。


 頭の中でダイゴローと話している間も、ニーナの言葉は続いていた。

「さっき見に行ったら、キミ、気持ち良さそうに寝てて……。でも、そろそろ起こさないといけないから、ちょうど良かったよ」

「ははは……。そう言われると、ちょっと恥ずかしいな」

「……ん? 何が?」

「ほら、無防備な寝顔を見られたのが……」

「そんなの気にすることないよ。仲間なんだから」

 と笑うニーナに、アルマも言葉を被せる。

「そうだよ! 眠ってるバルトルトくん、可愛かったよ!」

 部屋まで来たのは、ニーナだけではなかったようだ。

 でも扉を開けたまま寝ていたのだから、中を覗かれたのも自己責任。そう納得することにした。


「お昼にガッツリ食べたから、今夜は軽めだよー!」

 アルマの言う通り、テーブルに並んでいる品数は少なかった。

 ダイニングと繋がったキッチンスペースに目を向ければ、サラダを作っているらしいカーリンと、大きな寸胴の鍋をかき回すクリスタが見える。

 カーリンは水色のシャツと青いデニムのオーバーオール、クリスタは白いブラウスに緑色のエプロンスカートという服装だった。

『二人が二人とも胸当ての付いたファッションというのは、ちょっと面白いな。示し合わせたのか、偶然なのか……』

 ダイゴローが妙な部分を気にする。どうせ部屋着なのだから、こだわるべきポイントとは思えないのだが。

 それよりも。

 まだ二人が料理中ということは、もう少しメニューは増えるのだろう。

「本当は、料理も当番制にした方がいいんだけど……」

 二人を見ていた僕に、ニーナがまた、カトック隊の決まりを告げる。

「いつもカーリンとクリスタが作ってくれるから、ついつい甘えちゃってね」

「今のままでいいよ、ニーナちゃん。だって、カーリンちゃんとクリスタちゃんの作るご飯、とっても美味しいもん!」


 軽めと言っていた割には、メインのクリームシチューは、大きめの野菜やチキンがゴロゴロと入っていて、結構なボリュームだった。

 アルマの言葉通り、実際に食べてみると、味は素晴らしい。口に入れた瞬間、

「うまい!」

 と声を上げてしまったほどだ。

 突然の叫び声に驚いたらしく、一瞬みんなが手を止めて僕を見るので、何か言わなければいけない、と思った。

「クリームに何を混ぜたら、こんな味に出来るんだろう? コクがあるのに、しつこくない……。まろやかって言えばいいのかな? とにかく口当たりが良いから、何杯でも食べられそうです!」

 拙いながらも精一杯の表現で、素直な感想を伝える僕。

「あら、やだ。そんなに持ち上げられても、何も出ないわよ……」

 クリスタの微笑みは、いつもと少し違って、照れ笑いを含んでいるように見えた。

 その間にも、僕の「何杯でも食べられそう」を実践するかのように、大声と共に立ち上がる者が一人。

「おかわり! 自分でよそってくるねー!」

 からになったシチュー皿を持って、キッチンへ向かうアルマだった。


 食べ終わったところで、

「私たちは、食事の前に入っちゃったからね。お風呂、あとはキミだけだよ」

 とニーナから言われる。

「年功序列ー!」

「ちょっと違うわ、アルマ。今までは確かに、そう見えたかもしれないけど……」

「正確には、パーティー加入の順番ね」

 苦笑するニーナの横で、クリスタが補足してくれた。

 カーリン、クリスタ、ニーナ、アルマの順で入浴するのは、カーリンとクリスタがカトック隊では古株で、続いてニーナ、最も新参がアルマだからだという。

「これに従うと、今日だけでなく明日からも、あなたが一番最後になるわね。構わないかしら?」

「ええ、もちろん。順番なんてどうでも良くて、それより毎日お風呂に入れる、というだけで十分ですよ」

 これが僕の本音だった。『赤天井レッド・ルーフ』の冒険者寮には、風呂の設備はなかったのだから。


「ふうっ……」

 湯船にかって手足を伸ばすと、自然に声が漏れる。

 風呂場は、思ったより広かった。洗い場のスペースもそうだが、浴槽自体も、一軒家の家族風呂にしては大きい。宿屋や街の共同浴場ほどではないが、親が子供と一緒に入浴したり、夫婦二人で利用したりしても、十分な余裕がありそうだ。

「毎晩この風呂にひたれるのは、ちょっとした贅沢だなあ……」

 独り言が、風呂場に反響する。

 この言葉に、ダイゴローが反応を示した。

『この世界って、風呂があるんだな。こういうファンタジー世界って、シャワーが基本かと思ったぜ』

 彼の言い方からして、ダイゴローの世界にも『風呂』という概念はあるようだ。

『ああ、もちろんだ。命の洗濯って言われるくらい、生活に根付いてる。ただし国によっては、浴槽にお湯を張ることなく、シャワーで済ますのが一般的な場所もあって……』

「ああ、それなら、この世界も同じだよ。僕たちの王国では風呂文化が浸透しているけれど、辺境の国々の中には、風呂のない国もあるらしい」

 そもそも王国でも、田舎の小さな村だと、シャワーのみの家が多いという。いや田舎村だけでなく、それこそアーベラインの街でも、冒険者組合の寮はシャワーしかなくて……。

『毎日シャワーだけの生活なんて、ちょっと俺には耐えられそうにないぜ』

「その気持ち、わかるような、わからないような……。とにかく、文化の違いなのだろうね」

 こんな感じで、ダイゴローと脳内会話を繰り広げていたので。

 すっかり長湯になって、僕は少しのぼせてしまった。

   

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