転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第139話 モンスターな英雄(13)

公開日時: 2021年3月8日(月) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:15
文字数:3,445

   

 魔族へ向かって伸びていく、アルマの鞭。

 最初は『伸びていく』という状態からゴム紐を連想してしまったが、標的を捕捉しようと進むさまは、ゴム紐のような無機物ではなく、むしろ生物的な動きだ。

 獲物を狙う蛇のようなイメージだろうか。そう思って見ると、先端部の開き具合も、蛇がパカッと口を開いて牙を覗かせているみたいだ。だが僕に言わせれば、アルマの鞭は『蛇』ではなく、あくまでも『花』だった。

 蕾が開いた内側は、生き物の口内みたいな生々しい色とは違って、明るい白色であり、美しさすら感じさせる。中央に黄色い部分があるのも、いかにも『花』という雰囲気だが、その輝きは、まるで宝石のようにも見えた。

 黄色く輝くといえば、先端部以外でも所々ところどころに、黄色い光のラインが浮かび上がっていた。鞭に込められた魔力が粒子となって溢れ出しているのではないか、と想像してしまう。



 このようにアルマの鞭攻撃は、花を飛ばしているようなものであり、女の子に相応しい優雅な戦い方だった。

 しかしそれは、はたから見ている僕のイメージに過ぎない。攻撃を受ける側にしてみれば、『花』どころではない攻撃力を感じたらしい。

「グワーッ!」

 魔族をかばうようにして、左側のメカ巨人ギガントゴブリンが横に移動する。魔族から番犬扱いされたモンスターの面目躍如といったところだろうか。

 こうして、『怪物いじりマッド・ドクター』を打ちのめすはずだった鞭は、代わりにメカ巨人ギガントゴブリンに叩きつけられる。強固な装甲で覆われたモンスターには、もちろんダメージは与えられないのだが、

「絶対に許さない! ギギちゃんのかたき!」

 同じ言葉を繰り返すアルマは、さらに怒りの表情を強めていた。

 その分、鞭に流し込まれる魔力も高まったらしい。

 彼女が再び鞭を振るうと、それを受けたメカ巨人ギガントゴブリンは、ビクンと体を震わせる。一瞬硬直したかと思ったら、回れ右をして、飼い主であるはずの『怪物いじりマッド・ドクター』に襲いかかった!

「グワーッ!」


『形が変わろうと長さが変わろうと、アルマの鞭は、やっぱりテイマーの鞭なんだな。あくまでも調教用だぜ』

 感心したような口調のダイゴロー。

 確かに、目の前の光景には、僕も舌を巻いていた。初心者用ダンジョンの弱いモンスターくらいしか操れなかったアルマが、まさかメカ巨人ギガントゴブリンを支配してしまうとは!

『直接モンスターを叩く方が、調教能力はアップするみたいだな』

 ダイゴローの言う通り、今までのアルマは、まるで威嚇するかのように大地を叩く、という使い方だけだった。

 だが、直接か間接かという違いだけが影響するならば、これまでもモンスターに近づけば良かっただけ。それをしてこなかったということは、あまり大きなポイントではないのだろう。

 アルマの様子はいつもと違って見えるし、鞭の形状も違う。彼女自身なのか武器の方なのか、あるいは両方なのかわからないが、とにかく覚醒したのだ!


「おやおや……」

 番犬と称していたメカ巨人ギガントゴブリンが襲ってきても、『怪物いじりマッド・ドクター』は悠然と構えていた。

 魔族が何か指示するまでもなく、もう一匹のメカ巨人ギガントゴブリンが割って入る。

 二匹のモンスターは、『怪物いじりマッド・ドクター』のすぐ目の前で殴り合いを始めた。

 それを見て魔族が呟く。

「改造ゴブリンの知能は、しょせんこの程度ですね。よりにもよって、人間の命令を聞き入れて、私に逆らうとは……」

 もしも顔があれば、呆れた表情を見せていたに違いない。そんな口調だった。

 これに対して、アルマが反応を見せる。

「モンスターも人間も馬鹿にしないで!」

 叫びながらアルマは、また鞭を操る。これほど長くなれば扱いにくいだろうに、動きも魔力でコントロールされているのかもしれない。特殊な鞭を器用に用いて、今度は二匹目のメカ巨人ギガントゴブリンを叩いていた。

 一匹目と殴り合っていたその個体は、やはりビクンと体を震わせてから、アルマの制御下に入り……。

「グワーッ!」

 咆哮を上げながら、最初の一匹と一緒に、魔族ヘ立ち向かう!


「やれやれ。二匹ともですか……」

 この場の手駒を両方失っても、まだ『怪物いじりマッド・ドクター』は平然としていた。

 二匹のメカ巨人ギガントゴブリンは、大きな体をかがめながら、魔族に向かってこぶしを振り下ろす。上から叩きつけるような激しさだったが、

「私は武闘派ではないし、いくら下等生物とはいえ、無駄に命を奪いたくはないのですが……」

 魔族はそれぞれ片手で、二匹のパンチを軽々と弾いていた。

 しかもモンスターが次の行動に移るより早く、勢いよく両手を突き出す。

 魔族が何をやったのか、僕の位置からではハッキリ見えなかったが……。

 響いてきたのは、硬い金属が割れるような重たい音と、何かが生き物の肉にめり込むような湿った音。

 それだけ聞けば明らかだった。『怪物いじりマッド・ドクター』のこぶしがメカ巨人ギガントゴブリンの腹に突き刺さったのだ、ということは。

『あの野郎! 武闘派じゃない、とか言っておきながら……!』

 僕の心の中では、焦りと怒りの両方が混じったダイゴローの声。

 メカ巨人ギガントゴブリンの装甲は、転生戦士ダイゴローの力をもってしても、魔法拳のコンビネーションという工夫でようやく壊せるレベルだ。それを素手で貫くというだけで、『怪物いじりマッド・ドクター』の強さが伝わってくる!

 魔族がズボッと両腕を引き抜くと、メカ巨人ギガントゴブリンの巨体が大地に倒れ込む。腹に風穴を開けたモンスターは、それだけで致命傷だったらしく、二匹とも動かなくなった。

『バルトルト! こいつ相手に肉弾戦はダメだ!』

 言われなくても、もちろんそのつもりだ!

「ええいっ!」

 超炎魔法をイメージしながら、僕は右手を前へ突き出した。


 人間サイズの魔族の体くらいならば、軽く包み込めるほどの巨大な火球だ。

 しかし、そんなものが迫ってきても『怪物いじりマッド・ドクター』は動じることなく、

「今度はあなたですか……。ところで、一体あなたは誰です? 先ほどの人間たちの中には、いませんでしたよね?」

 片手で軽く、ポンと横へ弾き飛ばした。

 僕は気圧けおされそうになるが、すかさずダイゴローのアドバイスが響く。

『ビビることはねえぞ、バルトルト! わざわざ弾き飛ばしたってことは、食らいたくないってことだ!』

 言われてみれば。

 僕たちが初めて相対あいたいした魔族、アーべラインの『回復の森』で暗躍していた『毒使いポイズン・マスター』。

 彼はクリスタの超炎魔法により、視覚的には松明たいまつのように見えるほど燃やされたにもかかわらず、炎が消えると、火傷ひとつないピンピンした姿で現れたものだった。

 アーベントロートの『機械屋メカ・アーティスト』も、鉄壁の防御力を誇っていた。魔族自身の能力ではなく、魔王の加護が付与されたペンダントのおかげだったが、そのペンダントがある限り、どんな攻撃にも耐えられる。そんな態度を示していた。

 それらと比べれば、目の前の『怪物いじりマッド・ドクター』の防御力は低いはず。僕の魔法だけでなく、先ほどメカ巨人ギガントゴブリンが殴りかかった時も、その攻撃を弾いていたのだから。

 つまり素直に食らえば、それなりにダメージを受ける、ということだ。

『そうだ、バルトルト! はねのけるのが無理なくらい、強力なのを叩き込んでやれ!』


「おや? あなたの体からは、わずかではありますが、神のニオイが漂ってきますねえ。ということは……」

 相変わらず悠長な態度で何やら呟いている魔族に対して、僕は両腕に異なる魔力を込めていた。それらを交差させることで、合わさった光を放出させる。

「ダイゴロー光線!」

 モンスターならば消滅させてしまう威力の必殺技だ。これを弾き飛ばすのは不可能なはず!

 いつものように、渦を巻きながら光のドリルとなって、標的に向かって進んでいくが……。

「おっと!」

 小さく叫んだ魔族は、身軽な動きで、大きく横へジャンプ。

 僕のダイゴロー光線は、一瞬前まで『怪物いじりマッド・ドクター』がいた場所を素通りしていき、後方の木々を無駄に消し去るだけだった。

「今のは危なそうでしたからね。回避させてもらいましたよ。それにしても……」

 魔族の発する禍々しい気配が、いっそう濃さを増す。

「……あんな光線を撃つということは、やはり普通の人間ではない。神の回し者ですね?」


 その妖気に気圧けおされて、僕は少し後退あとずさりしてしまう。

 そんな僕を見て、魔族の言葉に、揶揄するような響きが混じった。

「でも、ダメですねえ。どんな強力な技でも、当たらなければ意味がない。あんなに大袈裟なモーションで放つなんて、けてください、って言ってるようなものですよ。あれを食らうのは、よほどの間抜けだけでしょうねえ」

 ハハハと笑い声さえ上げた後、

「では、今度はこちらから……」

 と、余裕の態度で『怪物いじりマッド・ドクター』は続けようとしたのだが……。

   

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