転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第115話 ゴブリンは友だち(11)

公開日時: 2021年2月7日(日) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:08
文字数:3,113

   

「勝ったな……」

 カーリンがポツリと呟き、その場の沈黙は終わりとなった。

 彼女の言葉が呼び水となって、他の者たちも口を開く。

「そうね。前の時は私たちだけじゃ歯が立たなくて、あのダイゴローという人に助けてもらったけど……。きちんと対策を立てて戦えば、何とかなるものなのね」

「うん、みんなで力を合わせた結果だよ!」

 クリスタやニーナが素直に喜ぶ中、アルマは少し浮かない顔をしていた。もしかすると、ニーナの『みんなで力を合わせた』発言が引っかかって、また「自分だけ役に立っていない」とでも思っているのだろうか。

 クリスタとカーリンの活躍が大きかったが、僕の魔法も少しは貢献していたはずだし、ニーナも最後の一撃に加わっている。一方、アルマが振るっていた鞭は、どれほど足止め効果があったのか、全くわからなかった。

 少し心配になって、アルマに何か声をかけようと思ったのだが……。

「悪かったな、バルトルト」

 それより先に、なぜかカーリンが僕に謝ってきたので、機会を逸してしまう。

「……え?」

「ほら、最後の時だ。ニーナの名前だけで、お前は呼ばなかっただろう?」

 戸惑う僕に、説明しようとするカーリン。

 彼女とニーナの二人で、メカ巨人ギガントゴブリンを突き刺した件だ。

 物理攻撃が効くような強敵は二人で倒す、というのが自然な流れだったので、僕は気にしていなかったが……。金属装甲を剥がした後ならば、確かに僕のショートソートでもダメージを与えられたはず。つまり、最後の一撃の際には、僕も呼んでもらって、加わるべきだったのだろう。

『それだけバルトルトが信頼されてなかった、ってことだよな?』

 揶揄からかうような声のダイゴローに、僕は全く反論できなかった。

 あの時、カーリンがニーナの名前を口にした瞬間、既にニーナはカーリンの隣に並び立っていたのだ。それだけ彼女たち二人の息がピッタリだった、という証だろう。

 もしもカーリンが僕に声をかけたとしても、僕は呼ばれてから駆けつける形だから、最後の攻撃のタイミングが遅れてしまったに違いない。

 頭の中で、そんなシミュレーションを思い描いていたら、ポンと肩を叩かれた。

「キミもまだまだ、ってことだよ。次に同じ場面があったら、言われる前に動いてね」

 ニーナが笑っている。パーティーのリーダーとして小言を口にした、という感じではなく、もっと柔らかい口調だった。

 だから僕も、冗談として軽く返す。

「もちろん次は頑張るけど……。でも『次』なんて想定したくないなあ。もう二度と見たくないよ、あんな手強てごわいモンスターは!」


「ギギちゃん、いなくなっちゃった……。ギギちゃんが怖がってたのも、あのゴブリンだったんだね……」

 明るくなった雰囲気に水を差すような、暗い口調のアルマ。

 あのメカ巨人ギガントゴブリンが現れる直前、確かにゴブリンのギギは、そのような態度を示していた。ギギが僕たちをおいて逃げ出したことは、アルマにとっては悲しい話だろうが……。

 だから彼女は落ち込んでいる、というのであれば、僕の想像――また「自分だけ役に立っていない」と嘆いている――よりも、むしろ良かったではないか。

「普通のゴブリンじゃないからね、あれ。同じモンスターから見ても、恐怖の対象なんだろうね」

「『回復の森』で遭遇した時は、巨人ギガントゴブリンの亜種かと思ったけれど……」

 ニーナは単純にアルマを励まそうとしただけらしく、特に内容のある発言ではなかったが、クリスタの方は違う。いつもの微笑みを浮かべるのではなく、考え込んでいる表情だった。

「……魔族によって作られたモンスターだったのね、その正体は」

 倒れ伏したメカ巨人ギガントゴブリンの死体に、改めて視線を向けるクリスタ。

 釣られるように、僕もそちらに目を向けた。同時に、アーベントロートにいた魔族のことを思い出す。

 カトックの姿を装って、『機械屋メカ・アーティスト』と名乗っていた魔族。彼は『回復の森』に現れた怪人を『毒使いポイズン・マスター』と呼び、その『毒使いポイズン・マスター』に改造ゴブリンを貸し与えた、と言っていたのだ。

「うむ。偽カトックは『改造ゴブリン』と呼んでいたな。仲間の魔族と共同開発した、という話だった」

 そう言うのだから、カーリンも僕と同じ場面を思い浮かべていたらしい。

 これに反応して、クリスタが笑顔を見せる。

「そういえば、前にカーリン、言ってたわね。魔族が連れている怪物を、カトック隊だけの力で倒してみたい、って。この改造ゴブリンも、そうした怪物に含まれるのかしら?」


 カーリンの発言は、僕も覚えていた。

 ブロホヴィッツの街を歩きながら、僕の肩に腕を回してきたカーリン。魔族やその配下の怪物と戦う可能性を考えて「腕が鳴る」とワクワクしていた彼女は、ちょうどアルマが「もしかして、私、お荷物?」と言い出した直後だっただけに、余計に強く印象に残ったのだった。

『そっちか? 肩に手を回されて、密着した女性の体の感触が伝わってきて、それで強い印象だったんじゃないのか?』

 ダイゴローの冗談は無視して、カーリンの方を見ると……。

「そうだな。魔族の怪物をこの手で倒す、その一歩と言えるだろう」

 彼女は、満足そうな笑みを浮かべていた。

 僕にしてみれば、メカ巨人ギガントゴブリンは、あくまでもモンスターだ。『毒使いポイズン・マスター』が飼っていたヴェノマス・キングや『機械屋メカ・アーティスト』が作り出したキング・ドールとは異なり、『怪物』感は薄かった。

 だが、強敵であったことは間違いない。そう考えれば、カーリンが満足しているのも理解できる話だった。

「カーリンの自己満足は別にしても……」

 軽く苦笑いしてから、ニーナが森の奥に目を向ける。

「……この先に魔族がいる疑い、さらに濃厚になったね」


 そう。

 メカ巨人ギガントゴブリン出現に関して、最大のポイントはそこだった。

 ゴブリンのギギは普通のモンスターではないが、だから魔族が関わっているのではないか、というのは、僕たちの推測に過ぎなかった。

 しかし、メカ巨人ギガントゴブリンは違う。魔族によって開発されたモンスターであることが、他ならぬ魔族自身によって明言されているのだ!

「改造ゴブリンの作り手である、二人の魔族。そのうち片方はアーベントロートで倒したけど、もう片方は健在だから……」

 敢えて口に出した僕の言葉を、クリスタが引き継いだ。

「その魔族自身がいるのか、あるいは、その魔族から改造ゴブリンを貸し出された魔族がいるのか。どちらにせよ、この森に魔族がいるのは、ほぼ確定だわ」

「うん。その魔族がカトックのこと知ってるかどうか、その点はまだわからないけどね」

 ニーナがカトックの名前を出したので、僕はハッとして、彼女に視線を向ける。

 ちょうど僕と目が合ったニーナは、まるで何かを否定するかのように、軽く手を振ってみせた。

「心配しないでいいよ。私は冷静だから」

 続いてアルマに顔を向けて、その冷静ぶりの一端を示す。

「ねえ、アルマ。ギギちゃんのこと気になるだろうけど……。今日は諦めるしかないよね」


 この森に転移した時点で、もう夕方の遅い時間だった。しかも、歩いたり戦ったりするうちに、さらに辺りは暗くなっている。普通に考えて、案内役なしで進める状況ではなかった。

 さらに、冒険者としての戦闘力の問題もある。メカ巨人ギガントゴブリン一匹を屠るだけで、かなりの魔力を消耗していた。

 ある意味、魔法のゴリ押しで倒したようなものなのだ。僕やカーリンもいつも以上に魔力を使った気がするが、超炎魔法と超氷魔法を連発したクリスタなどは、ほぼからっぽなのではないだろうか。平気な顔をしていても、相当な疲労感があるに違いない。

 この先に魔族がいると思えばこそ、今の状態で前進するのは危険極まりない話であり……。

「じゃあ、決まり! クラナッハ村へ帰ろう!」

 僕たちカトック隊は、撤退を決意するのだった。

   

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