転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第124話 ゴブリン討伐部隊(7)

公開日時: 2021年2月18日(木) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:10
文字数:3,600

   

「ええっ?」

 今度は演技ではなく、僕は本気で驚いてしまう。

 いくら何でも、アルマに敵認定されるとは思っていなかったのだ。

「いやいや、それは言い過ぎなのでは……?」

 さすがに弁解したくなったが、そんな僕に対して、アルマはキッパリと首を横に振った。

「ダイゴローくんも、ギギちゃんを狙ってるんだよ! それで獲物の取り合いみたいな形で、青い鎧の人と争い始めたのー!」


 なるほど、そういう解釈なのか。

 アルマの「結果的には助かったんだけど」の意味が、ようやく理解できた気がする。だが転生戦士ダイゴローの正体である僕としては、あの武闘家と一緒にされたらモヤモヤした気持ちになり、落ち着かなかった。

「バルトルトくん、納得いかないって顔してるー」

「いや、そんなことないけど……」

 アルマの指摘に慌てながらも、ボロを出さないように注意しつつ、僕は僕なりに主張してみる。

「……でもさ。ほら、今までは僕たちを助けてくれた人だろう? それが、なぜ今回に限って敵側に回り、ギギちゃん狙うのかな?」

「そっか。バルトルトくん、そこがわかってなかったのかー」

 アルマの口調が軽くなり、表情も柔らかくなった。

「じゃあ、バルトルトくんに問題。ダイゴローくんは今まで、なんで私たちを助けてくれたのかなー?」

「えっ、突然のクイズ?」

「難しい話じゃないよ。ちゃんと頭を使って、考えてみてねー」

 生徒を教え導く教師のような気分なのだろうか。アルマの顔には、誇らしげな色が浮かんでいるが……。

 転生戦士ダイゴローの意図を問題にするのであれば、その正体が僕である以上、僕こそが一番の正解を知っていることになるのだ。

『でも正直に答えるのは無理だからな。それにさ、そもそも国語のテストでは「作者の気持ちを答えよ」って問題を作者自身は正解できない、とも言われてるぜ。肝心なのは正解ではなく、出題者の解釈に沿ってるかどうか、ってことだ』

 後半はよくわからない話だが、前半は確かにダイゴローの言う通りだった。

 カトック隊の一員だから、仲間が危機に陥った時には変身して助ける。そんなこと、口が裂けても言えないわけで……。


「ごめん、わかんないや」

 少し考えたふりをした後、白旗を上げる。アルマと並んで歩きながら、小さくお手上げのポーズまでやってみせた。

「もう降参なの? バルトルトくん、早過ぎるよ……」

「だって、考えるだけ無駄な気がしてさ。素直に教えを乞う方がいいかな、って思えて」

「そこまで言うなら教えてあげるー! ダイゴローくんは魔族を狙ってるんだよー!」

 嬉々として説明し始めるアルマ。

 ポイントとなるのは、アーベントロートからの帰りに、馬車の中でクリスタが話していたこと。魔族を倒すために『森の守護者フォレスト・ガーディアン』は世界中を飛び回っている、という解釈だった。

「アーベラインの『回復の森』も、アーベントロートの薬草の森も、ダイゴローくんが出てきたのは、魔族がいたからだよね?」

「ああ、なるほど」

 と、僕は頷くことしか出来なかった。

 クリスタがあんな考えを持ち出した時は、これで今後いくら変身しても「なぜカトック隊を追うようにして現れるのか」と怪しまれずに済む、と安心したのだが……。

「アーベントロートの事件では、ダイゴローくんが来たのは、まさに魔族が正体を現した直後。だから、わかりやすいよね」

「うん」

「『回復の森』では魔族がいない時も出てきたけど、改造ゴブリンは魔族に関係するモンスターだったし、既に『回復の森』で魔族が暗躍していた、というのもあるでしょ? ほら、やっぱり魔族絡み!」

「つまり、僕たちを助けてくれたのは、魔族探しのついでに過ぎない。本来の目的は、そっちだったのか……」

「そういうこと!」

 これでスッキリ。そう言わんばかりに、アルマは晴れ晴れとした表情になっていた。


「そうなると、今回も……」

 アルマの顔から明るさが減って、少し難しい表情を見せる。

「……おそらく魔族狙いだよね、ダイゴローくんは」

「そう考えるのが自然だろうね」

 間違っているのを承知の上で、アルマの推理に同意してみせた。なんだか複雑な気分だ。

「だから、ある意味では私たちと同じなんだよ。ダイゴローくんもギギちゃんを介して、魔族に辿り着こうとしてるの!」

 アルマの考えを整理してみると。

 転生戦士ダイゴローも、三人組の冒険者ドライシュターン隊と同じように、ゴブリンのギギを狙っていた。ただしドライシュターン隊とは異なり、その背後にいる魔族が目的。だから僕たち同様、ギギを殺されては困る立場になるわけだ。

「なるほど。筋が通った考え方だね」

「でしょ? ギギちゃんの身柄を確保したいんだよ、ダイゴローくんは。青い鎧の人たちよりは穏便だけど、私たちの敵であることは確かだよね。三つ巴の戦いだよー!」

 敵とか戦いとか言ってしまうのは大袈裟であり、せいぜい競合相手くらいだろうか。

 そう思いながらも、僕の口から出たのは、全く別の言葉だった。

「ダイゴローってやつの意図をそう考えると……。アルマにはギギが懐いているし、ギギの話も理解できるのだから、アルマの存在は大きいね。僕たちが断然有利といえる」

 おべっかのつもりはないが、アルマを持ち上げる形だった。

 彼女がブロホヴィッツで「もしかして、私、お荷物?」と言ったのを僕は忘れられず、アルマに自信をつけてもらいたい、という気持ちがあるのだろう。

「ははは……。そうかもしれないね」

 嬉しそうに笑うアルマを見て、僕も心が軽くなるのだった。


「複数の勢力から狙われているのだとしても……。とりあえず今日のところは安心だね。森まで無事に転移させたんだから」

「うん」

 アルマが頷いたのを見て、今さらながらに、小さな疑問が浮かぶ。

「そういえば……。送り返しただけなんだね。アルマも一緒に転移して、ギギや魔族の住む家まで案内してもらおう、とは考えなかったのかい?」

「えっ?」

 驚いたような声を上げてから、アルマはムスッとした顔を見せる。

「もしかしてバルトルトくん、私のこと、考えなしの子供だと思ってるー?」

「いや、そんなことないけど……」

 たった今、転生戦士ダイゴローの行動意図について、しっかりと構築された推理を聞かされたばかりだ。

 それ以外にも、以前にニーナと三人で話をした時。五人一緒の場合とは異なり、人数が少なくなればアルマはしっかり者になる、というのを思い知らされる場面があった。

「みんなと離れて、私一人で魔族のところに乗り込むなんて、無謀だからねー。私だって冒険者だから、それくらいの状況判断は出来るんだよー?」

「ああ、そうだよなあ。ごめん、ごめん。ほら、例えばニーナには『魔族と接触する機会があるなら逃したくない』って雰囲気もあったから……」

 深い意味はなく、僕は適当な言葉を口にしただけだった。

 ところが、これがアルマから興味深い発言を引き出す。

「ニーナちゃんはそうかもしれないけど、私は違うよー。魔族のおうちに一人で行くほど、カトックくん探しにこだわってないもん」


 一瞬、僕は言葉を失ってしまった。

 カトック探しのために、その手がかりとなり得る魔族を追いかけよう。その基本方針にはアルマも大喜びで賛成している、と僕は思っていたのだ。

 ぽかんとした僕の顔を見ながら、アルマは続ける。

「ダイゴローくんも、私と同じじゃないのかな? ニーナちゃんやクリスタちゃんやカーリンちゃんと違って、カトックくんと面識ないから、そこまで強い思い入れはないでしょ?」

「まあね。ニーナには言えないけど」

 絶句から立ち直った僕は、ここだけの話として、正直に告げた。

 するとアルマも、首を縦に振ってみせる。

「そうだよねー。だから、カトックくん探しが何よりも優先、とまでは思えないよ。適当なダンジョン探索よりは、大きな目標のある冒険の方が楽しいから、カトックくん探し、私も基本方針としては賛成だけどね。でも一人で魔族のところへ行く、みたいな危険を冒す気は、全くないよー」

「その気持ちは僕もわかる。魔族のアジトに乗り込むのは、カトック隊みんなで行くとしても怖いかも、って気持ちもあるくらいだ」

 そう言って、僕は朗らかに笑う。今日のアルマとの会話の中で、今が一番、腹を割った話になっている気がした。

「うん、みんな一緒でも危険だよねー。今までの二度の魔族も、カトック隊だけじゃ倒せなかったし……」

 明るいアルマの声が、少し真面目な口調に変わる。

「……その意味では、今回ダイゴローくんが出てきてくれたのは、かえって良かったかも。魔族と戦うことになったら、またダイゴローくんの手を借りる必要、ありそうだもんねー」

「そうだよなあ。情報入手が目的だとしても、最後には戦いになりそうだ……」

 僕が神妙な面持おももちでアルマの分析に賛同する間、心の中では、ダイゴローが失笑していた。

『おいおい。考えなしどころか、アルマが一番しっかりしてるぜ。ニーナたちよりも、よっぽど状況理解してるんじゃねえのか?』

   

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