転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第89話 いたのは誰だ(7)

公開日時: 2021年1月8日(金) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:27
文字数:3,364

   

 防御したのではない。

 反射したのだ。

 あの極大の火炎を。


「ハッハッハ! 愚かな人間たちよ、自らの魔法で焼かれてしまいなさい!」

 偽カトックの高笑いが響く中。

 クリスタのはなった超炎魔法は、そっくりそのまま、僕たちの目前に迫りつつあった。

 なまじ最大規模をイメージした魔法だっただけに、かなり大きな炎の塊となっている。横に跳んでも逃げきれないレベルであり、このままでは魔族の言う通り大きなダメージを食らうことになるが……。

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ!」

 クリスタが再び超炎魔法を唱えた。回避できないならば同じ魔法をぶつけて相殺するしかない、と考えたらしい。

 かろうじて彼女の策はに合って、僕たちのすぐ前で、超炎魔法同士が激突する。

 互いの魔力と火力の衝突により、大爆発が起こった!


 轟音と共に、モウモウと立ち込める爆煙。

 もちろん、爆発の衝撃自体もすさまじかった。

 その場に踏みとどまることも出来ず、爆風で吹き飛ばされる者もいたくらいだ。僕もその一人であり、気が付いた時には、戦場となっている広場から外へ弾き出されていた。大木の裏側に回ってしまっており、この位置からでは、煙が晴れても仲間たちの姿は見えないだろう。

 僕と一緒に吹き飛ばされて倒れている者も、少しは近くにいるようだが、自警団メンバーやモンスターばかり。カトック隊の仲間たちではなかった。

 彼女たちの声は、離れた場所から聞こえてくる。

「けほっ、けほっ!」

「みんな! 大丈夫?」

「カーリンちゃん! マヌエラちゃん! バルトルトくん!」

 むせているのは誰かわからないが、みんなの安否を確かめようとしたのはリーダーのニーナであり、三人の名前を口にしたのはアルマだった。

 飛ばされて姿が見えなくなったのは、僕だけではないようだ。

「俺は大丈夫だ!」

「あたしも平気さ!」

 二人に続いて、僕も返事をする。今の状況を利用させてもらおう、と考えながら。

「僕も大丈夫です! ちょっと動けそうにないですが……。心配せずに、戦ってください!」


「よし! こいつらサッサと片付けて、バルトルトを助けに行こう!」

 ニーナの指示が聞こえてくる中、

『バルトルト、お前、嘘ついたな? これが狙いで』

 ダイゴローが確認の意味で尋ねてきたので、僕は大きく頷く。

 もちろん、僕の「動けそうにない」は大嘘だった。

 ああ言っておけば、こちらに構っていられるほどの余裕がない以上、しばらくは放置されるはず。そう目論んだ通りになったのだ。

 これで少し、自由に行動できる時間が出来たので……。

『そうだよな。あの機械人形、明らかにメカ巨人ギガントゴブリン以上の強敵だ。普通の人間じゃ倒せねえ。つまり、お前の出番だ!』

 もう一度ダイゴローに対して頷きながら、銀色のアイマスクを取り出して、目に当てる。

「変身! 転生戦士ダイゴロー!」


 三色スーツに包まれた僕は、物理的に少し大きくなると同時に、全身に力がみなぎってくるのを感じた。

 これならば、あのキング・ドールとも戦えそうだ!

瞬間移動テレポーテーション!」

 戦場へと舞い戻る僕。

 転移した先は、強敵キング・ドールの目前だった。

 腰に手を当てたポーズで胸を張り、いかにもヒーロー登場と言わんばかりの姿を見せつける。

 ちょうど立ち込めていた爆煙が消えつつあるタイミングなので、まるで煙の中から現れたように見えたに違いない。

「あっ、あの人は……」

「バルトルトくんが命名した……何だったっけ?」

「『森の守護者フォレスト・ガーディアン』だ!」

 背中に浴びせられたのは、ニーナとアルマとカーリンの声。

 一方、前方からは魔族が反応を見せていた。

「おや? あなたは……。普通の人間とも、冒険者の方々とも違う。むしろ神のニオイを感じますね」

 顔がないのでわかりにくいが、カトック隊の方にチラリと視線を向けたらしい。ポンと手を叩いて、魔族は納得の声を上げる。

「なるほど。ニーナさんたちと面識あるということは、『毒使いポイズン・マスター』と戦う際に協力したのですね? ……というより、あなたが『毒使いポイズン・マスター』を倒したのでしょう? いくら彼が油断していたとはいえ、普通の冒険者に殺されるほど、魔族はヤワじゃないですからねえ」

 続いて、機械人形に指示を出した。

「キング・ドール! 相手は神の息がかかった戦士です。もう手加減する必要はありません。思いっきり戦いなさい!」

「クヮン、クヮン、クヮン……!」

 両腕を振り回して、機械人形が殴りかかってきた!


「くっ……!」

 すぐさま僕も殴り返したが、あまり効果はないようだ。

 それでも続けるしかなく、互いの攻撃を避けながら、あるいは受け止めながらの、パンチの応酬が始まった。

『おい、バルトルト! 大丈夫か?』

 押されているのが僕の方なのは、ダイゴローにも明らかなのだろう。いや彼だけでなく、後ろで見ているカトック隊の仲間たちにも、気づかれていたはず。

 キング・ドールは前へ前へと足を踏み出しており、逆に僕は、ジリジリと後退あとずさりする有様だった。

「ハッハッハ! 神の戦士といえども、その程度ですか? 私の最高傑作には、到底かなわないようですね!」

 偽カトック――『機械屋メカ・アーティスト』――の声は、とても嬉しそうだ。悔しいけれど、言わせておくしかなかった。

『どうする、バルトルト?』

 キング・ドールが繰り出すのは単なるパンチのようだが、僕の方では、実は途中から魔法拳を用いている。右のこぶしには炎の魔力を、左には氷の魔力を乗せていたのだ。

 つまり、メカ巨人ギガントゴブリンを倒したのと同じ戦法だった。あの時は、炎と氷のダブルの正拳突きを叩き込むことで、急激な温度変化を与えて、金属装甲を脆く出来たのだが……。

 今回も一応、左右のパンチが同一箇所にヒットした部位はある。しかし、効いている様子は全くなかった。このキング・ドールは、やはりメカ巨人ギガントゴブリンとは、素材の頑丈さが大違いらしい。

『接近戦はダメだ、バルトルト! 距離を取れ!』

 ダイゴローのアドバイスに従って、大きく後ろへジャンプ。

 とりあえず、機械人形から離れてみたのだが、

「おや、逃げるつもりですか? でも無理ですよ。私のキング・ドールからは逃げられません」

 顔のない偽カトックが再びニヤリと笑ったように、僕には感じられた。


「見せてあげなさい、キング・ドール! 生きた人間やモンスターには出来ない、機械人形ならではの素晴らしい攻撃を!」

「クヮン、クヮン、クヮン……!」

 創造主の命令に応じて、キング・ドールが両腕を前に突き出す。この距離ではパンチが届くはずもないのに、何をするつもりなのか?

 僕は一瞬、不思議に思ったが、答えはすぐに明らかになった。

 キング・ドールの手首から先が本体から分離して、矢のような勢いで射出されたのだ!

『これって、あれか! ロケット噴射のパンチか!』

 飛んできた右手と左手を、僕は叩き落とそうとしたが……。

 弓から放たれた矢とは違うのだ。一直線に向かってくるように見えるが、必要ならば空中で軌道を変えることも可能だった。

 こちらの迎撃をヒョイッとかわして、キング・ドールの右手は、僕の顎にヒット。頭の中がグワングワンと揺さぶられるような衝撃であり、意識が飛びそうになるが、かろうじて僕は耐えた。

 同時に、左手の方は、みぞおちに叩き込まれる。こちらも強烈な一撃であり、思わず体が前屈まえかがみになってしまう。

 しかも間髪を入れずに、横から頬を殴られ、後ろから背中を叩かれ……。

「ちょっと待て! おかしいだろ?」

 つい僕は叫んでしまう。

 両の手首が飛んできたにしては、攻撃の手数が多すぎるのだ!

『よく見ろ、バルトルト。左右のパンチだけじゃねえ!』

 次から次へとやってくる痛みに耐えながら、改めてキング・ドールに視線を向けると。

 機械人形は、すっかり姿を変えていた。腕が飛び出し、足が飛び出し、頭が飛び出し……。

 残った胴体部もバラバラになって、全てこちらに向かってくるところだった。


「くっ……!」

 前後左右、時には斜め上からも、重い石礫いしつぶてのような攻撃が襲いかかってくる。あらゆる方向から襲われて、まさに逃げ場もなければ避けようもない状態だった。

『こいつは凄いぜ! 全方位攻撃オールレンジ・アタックだ!』

 先ほどの『ロケット噴射のパンチ』発言の時もそうだったが、なんだかダイゴローの声は嬉しそうだ。僕が一方的にやられているというのに、なぜだろう?

『ああ、すまねえ。漫画やアニメでお馴染みのやつを実際に見れて、ちょっと興奮しちまった』

 と、すぐに素直に謝るダイゴローだった。

   

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