転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第18話 ひとりでできるかな(7)

公開日時: 2020年10月19日(月) 17:30
更新日時: 2023年5月6日(土) 16:15
文字数:3,895

   

「あなたも無事だったのね! 良かったわ……」

 僕を見て、最初に言葉を発したのはクリスタだ。その顔には、安堵の色が浮かんでいる。

「わーい!」

「キミも来てくれたの? ありがとう!」

 アルマとニーナも声を上げ、カーリンは言葉の代わりに笑顔を見せていた。


「バルトルトくんがね、助けに来てくれたんだよ! モンスターに向かっていったら、一発で吹っ飛ばされちゃったけど」

 気を失っていたニーナとカーリンに、アルマが事情を語る。それから僕の方を向いて、説明を続けた。

「変な服着た大きな人が来て、強いモンスターをやっつけちゃったのー!」

 なるほど、僕は今まで茂みの中にいたから、その辺りの事情は知らないことになっているのだ。

「へえ、そうだったのか……」

「不思議な人だったよ! 森の原住民かな? 最後に『ジャッ』って鳴き声みたいなの出してたから、人じゃなくてモンスターの一種かも……?」

「こら、アルマ! 命の恩人に、そんな言い方は失礼でしょ!」

 アルマとニーナのやりとりを見て、苦笑してしまう。

 別れ際の挨拶として――「それじゃあ」の短縮形で――「じゃっ!」と言ったつもりなのに、鳴き声扱いとは……。

 倒れて見ていなかったニーナやカーリンには、本当に『モンスターの一種』として刷り込まれてしまうかもしれない。

 でも、その心配は杞憂だった。すぐさまクリスタの訂正が入ったのだ。

「通りすがりの冒険者だったみたいね。昨日あなたを助けたのと同じ人かしら?」

「赤青銀の三色スーツなら、たぶん同じ人でしょう」

 クリスタに対して、肯定を返す僕。既に見られた以上、あの格好を恥ずかしがって隠す必要もなくなったのだ。

「そう、それよ。やっぱり、あの人なのね」

 納得しながらも、クリスタは少し眉間にしわを寄せていた。まだ何か腑に落ちない点があるらしい。

「ところで……。あなたはどうして、こんな森の奥まで一人で来たの?」


「ああ、それは……」

 この話題を振ってくれたのは、僕としても好都合だった。

「これを返そうと思って、カトック隊を探していたのです」

 首から下げたままだった、星型ペンダントに手を触れる。

 クリスタは、ニーナの方にチラッと顔を向けた。ジト目というのだろうか、呆れたような視線だった。

「ニーナ……。昨日のうちに、返してもらってなかったのね?」

「えへっ。忘れちゃった」

「嘘おっしゃい。わざとでしょう」

 追加のような言葉は小声であり、ニーナも特に反応を返さなかった。

 何か意味ありげだが、深く掘り下げない方が良さそうだ。敢えて流して、僕は言葉を挟む。

「とにかく僕は、これを返しに来たので……」

「待って!」

 ペンダントを首から外そうとした途端、ニーナに止められた。

「それでキミはどうするの? 次に入る冒険者パーティー、もう決まった?」

「いや、いっそ一人で気ままにやっていこうかな、って……」

 隠す必要もないから、素直に今後の予定を口にしたのだが。

「それはダメだよ!」

「ええ、オススメできないわね」

 ニーナとクリスタ、二人がかりで却下されてしまった。

「失礼な言い方になるけど……。あなたのレベルでは、まだ一人パーティーは無理だわ。さっきだって、私たちに加勢しようとしてくれた心意気は買うけど、でも無謀な行動だったでしょう?」

「行くとこないなら、もう少しカトック隊で面倒みるよ。今のキミを放り出したら、すぐモンスターにやられるだろうし……。それじゃ私たちも寝覚め悪いもの」

 そう言ってくれたのは、クリスタとニーナだけではない。

「二日続けて一緒に戦った縁だもんね! わーい!」

「一人でやっていける力がつくまで、俺が鍛えてやろう」

 と、無邪気なアルマや、無口なカーリンにまで歓迎される。

『良かったじゃねえか、バルトルト。今晩からは、寝床の心配もなくなったな!』

 いやいや。

 女の子たちが暮らすところに、男一人で混ざって構わないのか……?

 僕の心配は顔に出ていたらしく、クリスタが優しく笑う。

「ふふふ……。あなたって、わかりやすいわね。大丈夫よ、うちには空き部屋もあるから。男性メンバーが加入した時のために」

「ああ、それなら……」

 僕の言葉は、ニーナに遮られた。

「キミも異存ないみたいだね? じゃあ、決まり! カトック隊にようこそ!」

 こうして。

 カトック隊から抜けるために来たのに、逆に、仲間入りが正式に決まるのだった。


 まだ午前中だが、本日の冒険は切り上げる形になった。ニーナとカーリンを回復魔法で癒したのは応急措置に過ぎないから、きちんと専門の魔法医に診てもらおう、という話になったのだ。

「この『回復の森』って、あんな危険なモンスターも出るダンジョンだったのね……」

「僕も知りませんでした。巨人ギガントゴブリンの亜種でしょうか? 初めて見るモンスターでした」

 帰り道は、昨日と同じく、前列がニーナとアルマで、後列がカーリンと僕とクリスタ。だから自然と、僕はクリスタと言葉を交わす形になる。

「どうかしら? 見たことも聞いたこともないモンスターだったけど……」

 彼女くらい経験ある冒険者が言うのだから、よほど特殊なモンスターだったに違いない。

「……肝心の泉が『回復』っぽくない件も含めて、この森って、何やら色々ありそうね」

「いっそ私たちで、少し調べてみようか?」

 前を歩くニーナが、軽く振り向いて言うと、

「賛成! いつも適当にモンスター狩るだけじゃ、飽きちゃうもん!」

 と、アルマが喜びの声を上げた。

 モンスター・ハンティングに対して『飽きる』と言ってしまうのは、冒険者として相応しくないかもしれないが……。

 その気持ちはわからないでもない、と僕は思うのだった。


 森を出るまでの間、モンスターとの遭遇は二回だけだった。どちらも後列からの魔法攻撃が主体で、剣や槍による直接攻撃は最低限に留める戦い方だ。ニーナとカーリンの負担を減らすためなのだろう。

 森から街までの草原地帯では、一度も戦闘はなく……。

「それじゃあ僕は、いったん『赤天井レッド・ルーフ』へ寄って、預けた荷物を取ってきます。みんなは、先に帰っていてください」

 アーベラインに入ったところで、そう言ってみたのだが、

「私たちも一緒に行くよ。あそこなら医務室もあるし……。それに、たまには冒険者組合に顔出さないと、倒したモンスターの換金も出来ないからね」

「そうね。しばらく行ってなかったから、いい機会じゃないかしら」

「わーい! どれくらいもらえるのかな? 楽しみー!」

 ということで、五人全員で向かうことになった。


 いざ冒険者組合に着くと、

「掲示板、見てくるー!」

 受付窓口へ直行するのではなく、掲示物のコーナーへ走っていくアルマ。誰も「待ちなさい」すら言わない。

「まだアルマには、冒険者組合の存在自体が物珍しいみたいね」

 と、微笑むクリスタ。

 なるほど、僕のように毎日ここへ通うのではなく、カトック隊は、たまにしか来ないようだから……。そういうパーティーで冒険者を始めると、アルマみたいな反応になるのだろう。

 僕も初めてきた頃は、掲示板に貼ってある依頼状とか私信とか、自分には関係ないものばかりだったのに、食い入るように読んでいた気がする。

「私たちは、先に窓口に並んでましょう」

 と、リーダーのニーナが言っているそばから、バタバタと足音を立てて、早くもアルマが戻ってきた。

「面白い依頼があったよ! ちょうど『回復の森』に関するお仕事!」


 少し予定変更。

 僕たちも窓口ではなく、掲示板の方へ。

「ほら、これ!」

 アルマが指し示したのは、ベッセル男爵という貴族からの冒険仕事だった。貴族が関わるというだけで、僕などは気後れしてしまうが……。子供っぽい無邪気さを持つアルマにも、冒険者としての先輩である他の三人にも、物怖じしている様子は全く見られなかった。

 ベッセル男爵は『回復の森』を管理する貴族であり、森の泉が汚染される原因を突き止めて元通りにしてほしい、というのが依頼内容だ。

「ちょうどいいよね? さっきニーナちゃんも『森を調べてみよう』って言ってたから!」

 アルマの言葉に、僕たちは顔を見合わせた。勝手に調べるよりも、仕事として報酬を得られる方がいいに決まっている。

「みんな同じ考えみたいね? じゃあ、決まり! 久しぶりに、冒険仕事を引き受けましょう」

「わーい、お仕事、お仕事!」

 ニーナの宣言に、アルマが喜びの声を上げた。


 というわけで。

 窓口でも、少しだけ予定変更。

 冒険者の記章を渡してモンスター討伐分のお金をもらう前に、まずは仕事を引き受ける手続きだ。

「掲示板に貼ってあった依頼書の番号一五八九、『汚染された泉の調査』、カトック隊で引き受けます」

「はい、わかりました。依頼番号一五八九ですね。それでしたら……」

 受付のお姉さんは、ニーナの言葉をすんなり受理しそうになったが。

 窓口カウンターの向こう側で、隣の事務員からチョンチョンと腕を叩かれて、言葉を飲み込んだ。

「……?」

「その件なら、あっちの窓口でも、ちょうど今、他のパーティーが……」

「あら、競合バッティング? じゃあ二組とも依頼者のところへ行ってもらって、そこで要相談かしら……?」

 冒険者に聞かせるためではなく、内輪の話だから、小声でやりとりされていたが……。

 僕たちにも聞こえてしまった。

 なので、その『あっちの窓口』の方を見る。

 二つ隣だった。

 受付の窓に首を突っ込む勢いの冒険者パーティーが、やはり競合バッティングの件を耳にして、ちょうど僕たちの方に顔を向ける。

「あっ!」

 驚きの声を上げる僕。

 競合相手は、若い男女の四人パーティーであり……。

『おい、バルトルト。もしかして、お前の知り合いなのか?』

 そう。

 カトック隊と同じ仕事を引き受けようとしていたのは、昨日まで僕が所属していたパーティー、エグモント団だったのだ!

   

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