転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第116話 ゴブリンは友だち(12)

公開日時: 2021年2月8日(月) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:09
文字数:3,277

   

 暗くなってきた森の中、僕たち五人は、来た道を戻る。

 しばらく歩くと、転移してきた地点に辿り着いた。

 少し開けた場所であるが、最初に来た時よりも、鬱蒼とした雰囲気は濃くなっている。それだけ暗さが増してきたという証であり、まだ魔法陣の存在は見えるものの、改めて僕は時間の経過を感じるのだった。

「一応、試してみようか?」

「そうね。村側と同じで、どうせ無理でしょうけど……。試すだけなら、それほど時間もかからないわ」

 ニーナの言葉に応じて、クリスタは早速しゃがみ込み、転移魔法陣に手をついた。

 これでニーナの「試す」の意味を理解して、僕もクリスタの真似をする。他の仲間たちも、同じく魔法陣に触れて……。

「じゃあ、魔力を込めよう! せーのっ!」

 ニーナの号令で、僕たちは魔法陣を作動させようと頑張ってみる。だが、何も起きなかった。

「まあ、仕方ないよね。こっち側も、やっぱりモンスターじゃないと動かせないか……」

 口調にも表情にも落胆した素振りはなく、ニーナはスッと立ち上がる。

「それじゃ、地道に歩いて帰ろう! みんな、さらに気をつけてね!」

 このまま進めばクラナッハ村に辿り着く、と聞かされてはいるけれど、実際に通るのは初めてなのだ。いっそうの警戒心と共に、さらに暗くなっていく森の中、僕たちは再び歩き始めるのだった。


「わあ! お星様、きれいー!」

 森を出た頃には、完全に夜になっていた。

 アルマの言う通り、空には星々がまたたいている。もしも真っ暗闇だったら困っただろうし、雲ひとつない澄み切った夜空なのは、不幸中の幸いなのかもしれない。

「さてと。村の南側にある森、って話だったけど……」

「その話、間違ってなかったみたいね」

「ニーナちゃんもクリスタちゃんも、ひどーい! ギギちゃんが言ってたこと、信じてなかったのー?」

 三人とも、冗談を言い合うような、軽やかな口調だ。帰るべきクラナッハ村が視界に入って、安心したのかもしれない。

 キョロキョロと辺りを見回すまでもなく、少し離れた斜め前方に、集落の灯りが見えていたのだ。

 小さな村だから、クラナッハ村には、夜でも煌々とした歓楽街なんて一つもないはず。それでも遠くから眺めれば、家々の魔法灯の光が集まって、大きな存在感を示す形になっていた。

『さっきバルトルトは、今夜が晴天なのは不幸中の幸いだ、って言ってたが……。暗い夜だからこそ、民家の灯りも目立つんだろ? じゃあ真っ暗闇だとしても、困るどころか、かえって見えやすくなってたんじゃないのか?』


 クラナッハ村はブロホヴィッツの北側に位置しており、僕たちは三日前、南から村へ来る形だった。しかし途中で大きな森の中を通った覚えはないから、今夜の森は村の真南ではなく、南南東あるいは南南西の方角だったのだろう。

『馬車も初めてじゃないから、いちいち意識しなくなったが……。窓の外に森が見えることは結構あるもんな。そういう森の一つが今夜の森、つまり魔族の隠れだったんだろうさ』

 まだ魔族そのものを見ていないのに、ダイゴローは、あの森に魔族がいると断言する。まあ僕もほぼ確信しているので、特に異論はないわけだが。

『とりあえず、魔族云々じゃないだろ? お前が、改めて位置関係を気にし始めた理由は』

 そう、ポイントは、もともと僕たちが南から村へ入ったこと。つまり、村の入り口に相当する広場は、クラナッハ村の南端に位置しており……。

 まっすぐ進んで村に到着すると同時に、泊まっている宿屋が視界に入ってくる。

「帰ってきたー!」

 嬉しそうに叫びながら、建物へ駆け込むアルマ。

「さすがに、ちょっと疲れたわ……」

「特にクリスタは、魔法いっぱい使ったもんね。みんな、今夜はグッスリ眠ろう!」

 ニーナに率いられて、僕たちも宿屋へ入るのだった。


 翌朝。

 食事の席で、クリスタが面白い提案を持ち出した。

「今日は、村の探索はめにしない?」

 僕は最初、クリスタの意図がわからなかった。だが、それは僕だけではなく、

「もしかしてクリスタ、まだ疲れてる? 今日一日、ゆっくり休みたい?」

「クリスタちゃん、あんなにグッスリ眠ったのにー? 寝ている間に悪戯いたずらされても気づかない、ってくらいだったよねー」

「そうじゃないわ」

 クリスタは微笑みながら、ニーナとアルマの言葉を否定する。

「一応確認しておくけど、寝ている間の悪戯いたずらって、言葉のあやよね? アルマもバルトルトも、私に変なことしてないでしょうね?」

「大丈夫だよー」

「ちょっと待って。なんで僕の名前が出てくるんですか」

 そんな軽い冗談を挟んでから、クリスタは本題に入った。

「私が言いたいのは……。村の中を調べるのではなく、直接あの森へ行くのはどうかしら、って話なの」


 そもそもカトック隊の目的は、村を訪れるというゴブリンそのものではなく、その背後にいるかもしれない魔族だった。

 人間には使えない魔法陣とか、魔族が改造したメカ巨人ギガントゴブリンとか、魔族関与の可能性はどんどん高くなっている。魔族がいるのであれば南の森の中だ、というところまで特定できた。

 昨日はゴブリンのギギに案内してもらう予定であり、案内役がいなくなった時点で引き返したが……。

「今日は、昨日とは違うわ。一晩きちんと休んで私の魔力も回復したし、それはカーリンやバルトルトも同じはず。それに朝から行けば、暗くなる前に、かなり調査できるでしょう?」

 転移魔法陣の広場で感じたように、夕方と夜では、かなり雰囲気が違っていた。つまり、日の光が届きにくい森の中とはいえ、全く届かないわけではない。昼間ならば一応の明るさはあり、僕たちだけで探索するとしても、問題はないはずだった。

「ギギちゃんのこと、どうするのー?」

 アルマが疑問を差し挟む。

 その住処すみかがわかればゴブリンのギギは用済み、と言っているように聞こえたのかもしれない。その場合、問題のモンスターと仲良くなった彼女にしてみれば、薄情に思えるのは当然だった。

「それも放置するつもりはないわ」

 アルマを安心させるように、クリスタは彼女に微笑みかける。

「私たちが不在の間にギギちゃんが来たら、って心配よね。そうなったら、また大人たちが武器を持って追い回すかもしれない。でも……」

 ゴブリンの出現頻度は、これまで聞いた限り、一週間に二回か三回。実際に僕たちが遭遇したのも、昨日と三日前だ。二日連続で現れるというのは、今まで一度もなかった。

 だから今日は、ギギが村を訪れる可能性は極めて低いはず。つまり、僕たちが村を離れても、今日ならば大丈夫。それがクリスタの考えだった。

「そっか。私たちがいなくても、ギギちゃんが虐められる心配はない、ってことか……」

 アルマも納得したらしい。

 その様子を見て、ニーナが結論を出す。

「じゃあ、決まりだね。今日は、昨日の森へ行こう! ギギちゃんの案内なしでも、私たちだけで、魔族を見つけ出しちゃおう!」


 朝食の後。

 冒険者としての装備を整えて、一階へ向かうと、いつものように受付で声をかけられた。

 僕たち以外に泊り客はおらず、女将おかみさんも手持ち無沙汰なのだろう。

「また村の中を歩き回るのかい?」

「いえ、今日は村の外を調べてみるつもりです」

「おや、例のモンスターがどこから来るのか、何か手がかりでも得られたのかい?」

「まあ、そんなところです」

 ニーナは笑いながら、そう返していた。

 詳細は伏せたまま、最低限の情報だけは明らかにしておく形だ。正直に告げるのではなく「今日も村の中を調べて回る」でも構わないかもしれないが……。

 何か事件が起こって、村の誰かが――例えばカールやパトリツィアなどが――僕たちを探す可能性もある。その時になって嘘が露呈するよりも、あらかじめ言っておいた方がいい、という判断なのだろう。

 こうして、僕たち五人は宿屋を出て、朝の広場へ。

 昨日までは、ここから村の中心へ向かう形だったが、今日は反対方向だ。

「じゃあ、行こう!」

「行き先は、ギギちゃんのおうちだねー!」

 ニーナとアルマを先頭にして、歩き始めたのだが……。

 そんな僕たちを呼び止める声が、広場の中央から聞こえてくる。

 しかも、明らかに人間の声ではなかった。

「ギギッ、ギギギッ!」

   

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