転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第118話 ゴブリン討伐部隊(1)

公開日時: 2021年2月11日(木) 17:30
更新日時: 2023年10月30日(月) 22:09
文字数:3,385

   

「もう! ニーナちゃんに続いて、バルトルトくんまで!」

「ギギ……?」

「うん、びっくりしちゃったね。大丈夫だよ、ギギちゃん。私たち、ギギちゃんのお父さんのこと、名前だけ聞いたことあって……」

 アルマとギギが話をするかたわらで、クリスタとカーリンも言葉を交わしていた。

「これで確定したわね。この事件に魔族が関わっていることが」

「うむ。あの改造ゴブリンが出てきた時点で、薄々わかっていたことだが……。あれの生みの親が昨日の森にいる、というわけだ」

 カーリンの『生みの親』という言葉を耳にして、僕も会話に参加してみる。

「そういえば、アルマが通訳した中にもありましたね。その『お父さん』がギギの生みの親だ、って話が。つまり……」

「そういうこと。改造ゴブリン同様、ギギちゃんも『怪物いじりマッド・ドクター』に作られたモンスターだったのね」

 ゴブリンのギギに対して、クリスタが向けた視線は、哀愁を帯びていた。

 その名の通り『怪物いじりマッド・ドクター』は、おそらく、モンスターの生体改造を専門とする魔族なのだろう。これでゴブリンの特殊性も説明できるわけだから、スッキリした気分になってもおかしくないのだが……。

 むしろ僕は、少し暗い気持ちになってしまう。アルマや子供たちと楽しく遊ぶこのゴブリンは、いわば人造モンスター。自然に生まれたのではなく、何らかの目的で作り出された命だったのだ。

『難しく考えるなよ、バルトルト……』

 ダイゴローは、慰めの言葉を口にしようとしたのだろうか。

 だが、そちらに意識を向けている場合ではなかった。

「そうなの? じゃあギギちゃんのお父さん、ちょうど今、おうちにいるの?」

「ギギッ!」

 アルマの問いかけに、首を縦に振るゴブリン。

 モンスターが「もちろん!」と言っているのが、言葉のわからぬ僕たちにも、ハッキリと伝わってきた。


「ねえ、アルマ。ギギちゃんに聞いてもらえるかしら?」

 いつもの微笑みを浮かべて、クリスタがアルマに声をかける。

「お父さんのところまで、今から私たちを案内してもらえないか、って」

「村まで来たのは、やっぱり子供たちと遊ぶためなのかな? そうなると、無理なお願いになるけど……」

「うん、頼んでみる!」

 ニーナが心配そうな顔を見せるが、アルマは笑顔で引き受けて……。

「どうかな、ギギちゃん?」

「ギギッ! ギギ、ギギギッ!」

「大丈夫だって! 私たちのお願い、優先させてくれるって言ってるー!」

 こちらへ振り返ったアルマの表情は、さらに明るくなっていた。

「私たちがお父さんのこと知ってるって聞いて、ギギちゃんも興味が出たみたい。早く私たちを引き合わせたい、ってワクワクしてるよー」

「決まりだね! じゃあ早速、森にある魔族のアジトへ……」

 ニーナが力強く宣言しようとした、その瞬間。

 騒々しい音を立てて、一台の馬車が、クラナッハ村に入ってきた。


 僕たちが乗ってきたような小型馬車とは違うし、もちろん大陸横断の乗合馬車とも違う。馬が牽引しているのは、旅人を乗せるキャビンではなく、屋根のない台車だった。

『荷馬車ってやつだな、これは?』

 ダイゴローの言う通りだが、大きな積荷に混じって、人の姿も見える。台車の上に座らせる形で、荷物と一緒に人間も運んできたらしい。

 僕たちは広場の真ん中に立っていたから、

「ギギちゃん、後ろへ下がろうね!」

 モンスターの手を引くアルマと共に、邪魔にならないよう場所をける。そこまで馬車は進んできて、まるで僕たち目当てだったかのように、すぐ目の前で停車した。

「おう、ちょうど良かった。これが問題のゴブリンと冒険者たちだろ?」

「そうです、親方。夜通し馬車を走らせた甲斐がありましたね」

 御者台に座っていた二人が、そんな言葉を交わしている。

 五十代か六十代くらいと、三十代前半くらいの男性二人組。二人とも職人の作業着のような格好だが、年上の方は――『親方』と呼ばれていた方は――さらに赤茶色のチョッキを羽織っており、商人という雰囲気もあった。

 よく見れば、若い方の顔には見覚えがある。三日前ゴブリンのギギが村に現れた際、僕たちを呼びに来た職人だった。確か名前はデニスだったと思う。

『ついでに言うと、もう一人の「親方」の名前がオーラフだろうな。あの時デニスが「親方の店」と言ったのを、パトリツィアが「オーラフさんの玩具屋」と言ってたから」

 ダイゴローは、僕より詳しく覚えていた。

 そのオーラフが、後ろの荷台に顔を向けて、乗っていた者たちに声をかける。

「それじゃ、頼んだぞ。依頼料に見合う分、きちっと仕事してくれよ」

「もちろんだ!」

 元気の良い返事と共に、三人の若者が荷台から飛び降りた。


 三人のうち二人は、二十代の半ばくらい。

 赤い髪の男は、髪色と同じ、真っ赤な鎧で身を固めていた。皮鎧ではなく金属鎧だが、ニーナの鎧よりも防御面積の広いタイプであり、鎧を着ているというより、装甲で覆われているというイメージだ。

 青い軽装鎧の男は、肌が少し浅黒く、全身の筋肉がパンパンに膨れ上がっていた。徒手空拳が得意と言わんばかりの鍛え方だ。

 最後の一人は、年齢不詳だった。格好は、裾を引きずるほどダボダボした紺色のローブと、つばの広い黄色のとんがり帽子。目を覆い隠すくらいに深々と被っている上に、ローブはローブで、口が完全に隠れるほど首回りを上げている。年齢どころか性別もわからないくらいに、顔も一部しか見えないのだが……。

 三人が一般市民ではなく冒険者であることは、一目瞭然だった。外見から判断すると、戦士と武闘家と魔法士に違いない。

「まずは挨拶しよう。俺たちはドライシュターン隊といって、こちらのオーラフさんに雇われた冒険者チームだ」

 赤髪の戦士が、僕たちの顔を見回しながら、よく響く声で宣言する。

 呼応するようにして、ニーナが一歩前に出た。

「カトック隊よ。私たちに何か用事?」

「用があるのは君たちではなく……」

 戦士の視線が向けられた先は、ゴブリンのギギ。新たな冒険者の出現に怯えたらしく、ギギは、アルマの背中に隠れるような態度を見せていた。

「……そこのモンスターだ。そいつを討伐するよう、頼まれたのでね」


 いずれブロホヴィッツの冒険者組合から、ゴブリン討伐部隊が派遣されるかもしれない……。

 ブロホヴィッツで、宿屋の主人から聞かされた話だ。ただし、依頼主は個人ではなくクラナッハ村そのものという話だったから、それとは少し違うらしい。

 今回は、オーラフという個人が勝手に雇った討伐部隊なのだろう。例えばカールとパトリツィアが対立していたように、村全体の意見は、まだ統一されていなかったのだから。

「そのゴブリンは村に何度もやって来て、つい先日は、オーラフさんの店を荒らしたそうだな? それで退治することになった」

 ドライシュターン隊のリーダーは、いきなりゴブリンに危害を加えようとはせず、まずは落ち着いて事情を語る。

 むしろ感情的な対応を見せたのは、こちらの方だった。

「ギギちゃんは、お店を荒らしたりしてない!」

 アルマが大声で叫んだのだ。

 確かに三日前、ゴブリンは玩具屋で暴れたわけではなく、ただ黙って木彫り人形の一つを手にしていただけだが……。

「ふざけるな! うちの店が、どれだけ被害を受けたと思ってる! あんたたちが弁償してくれるのか?」

 アルマ以上に大きな声で、オーラフが怒鳴り返してきた。アルマの一言が、彼を怒らせてしまったようだ。

「モンスターに居座られたら、商売にならないじゃないか!」

「それだけでなく、あとで見たら、陳列した商品もメチャクチャに散らかってましたからね……」

 親方の横から、デニスも言葉を加える。その場にいなかったオーラフより、実際にゴブリンの様子を見届けたデニスの方が、証言に重みがあった。

 破壊の痕跡がなかったので僕たちの目には「店は荒らされていない」と見えたが、店の者からすれば、整然と並べた品々が散らかされただけで「荒らされた」という認識になるのだろう。

「村の連中は手緩てぬるい! こんな危険なモンスターを、野放しにするなんて! だから私が、自腹で……」

「まあまあ、オーラフさん。落ち着いてください」

 雇い主の言葉を遮ってから、三人組のリーダーである赤髪が、再び僕たちに向き直る。

「依頼を遂行する前に、君たちに一つ確認したい。そちらにはテイマーがいるようだが……。そのゴブリンは、君たちの正式な仲間なのか? テイマーが調教済みの、パーティーの一員なのか?」

   

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