転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第8話 捨てる神あれば拾う神あり(4)

公開日時: 2020年10月14日(水) 23:30
更新日時: 2021年7月28日(水) 22:36
文字数:3,211

   

 僕たちは予定の場所に陣取り、そこで足を止めた。

 少し先で、ゴブリンたちも姿を現す。全部で五匹だ。

 本来ならば、すぐ横を冒険者が通りかかるまで待って、茂みから飛び出して急襲するつもりだったのだろう。だが、隠れているのを見破られたとわかって、出てきたのだった。

『作戦失敗なら、さっさと逃げればいいのにな。しょせんモンスターの浅知恵、ってことか』

 冒険者でもないダイゴローが、わかったようなことを言う。

 でも、それに反応している暇はなかった。

 早速、戦闘が始まったのだ!


 先に動き出したのは、ゴブリンたちだった。ナイフを手に、こちらへ向かってくるが……。

 その出鼻を挫くかのように、鞭でビシッと大地を叩くアルマ。

 おお、さすがテイマーだ!

 モンスターたちはビクッとして、その場に硬直した。

 いやモンスターだけでなく、僕も一瞬、驚いて固まりそうになったくらいだ。もちろんモンスターの場合は、ただ驚いただけではなさそうだが……。

 それでも。

 モンスターたちが止まっていたのは、わずかな時間のみ。すぐに、また動き出す。こちらの味方になるゴブリンもいなければ、操られた様子も見られなかった。

 どうやら「さすがテイマーだ!」と感激するのは、早計だったらしい。

「まだアルマの力だと、この程度なのよ。ひるませることは出来ても、操ったり仲間にしたりは無理ってことね」

 横からサッと、クリスタが説明してくれる。事情のわからぬ新入りにとっては、大変ありがたい解説だ。

 つまりアルマの鞭は、本格的な戦闘開始前の、あくまで前座に過ぎないのだろう。

 そんな僕の考えを裏付けるかのように、ニーナが声を上げた。

「まずは魔法!」


 リーダーの指示に従って、僕の両隣から呪文詠唱が聞こえてくる。

「ファブレノン・ファイア・シュテークスタ!」

「ヴェルフェン・アイス・シュターク!」

 魔法士のクリスタが唱えたのは、超炎魔法だった。僕も使う弱炎魔法は第一レベルなので「ファブレノン·ファイア」となるが、そこに第三レベルを示す詠唱文句「シュテークスタ」を加えた形だ。

 一方、魔法剣士のカーリンは、強氷魔法。第二レベルだから、氷の基本詠唱に「シュターク」が加わっている。

 どちらも、僕には使えないレベルであり……。

 それぞれ、右の二匹と、左の二匹に直撃。

 クリスタに焼かれた二匹は、真っ黒焦げになって、その場に倒れ込んだ。ピクリとも動かないので、二匹とも絶命したらしい。

 カーリンの魔法を食らった二匹は、一瞬、氷漬けとなった。だがパリンと氷が割れると、中からボロボロのゴブリンが姿を現す。ダメージは与えたものの、氷と一緒に砕け散る、というほどの威力はなかったようだ。

 真ん中の一匹は、まだ無傷だが……。

 僕の受け持ちとして残されているのだろう。だから僕も呪文を唱える。

「ファブレノン・ファイア!」

 気のせいだろうか。いつもよりは大きな火球が飛び出した。

 それでも、ゴブリンの全身を包み込むサイズには程遠い。胸から腰にかけて火傷を与えたようだが、命を奪うほどではなかった。


「残りは三匹!」

 ここで再び、リーダーの声が響き渡る。

「今度は物理攻撃! 突撃よ!」

 剣を構えて、真っ先に走り出すニーナ。

 同時に、

「ヴェルフェン・アイス!」

 弱氷魔法の詠唱が聞こえてきたから、何かと思って左を見れば、カーリンが自身の槍に冷気を纏わせていた。

 その槍を振りかざして、彼女もモンスターに向かっていく。

 おお、魔法剣だ! 僕には出来ないけれど、これこそ、魔法剣士の本領発揮だ!

 ……いや、この場合は魔法槍と称するべきか?

「ほら、あなたも。見とれてないで、いってらっしゃい」

「は、はい!」

 笑顔を浮かべるクリスタに、ポンと背中を押されて。

 腰のショートソードを引き抜いて、僕も走り出した。


 視界の隅で見えたのは、二人が一匹ずつ、モンスターを斬り伏せる姿だった。

 熟練の冒険者にとっては、ゴブリンなんて雑魚中の雑魚であり、本気を出せば一撃なのだろう。

 特に僕が「凄い!」と思ったのは、リーダーであるニーナよりも、カーリンの方だ。

 槍なのに刺突ではなく、斬撃を振るっていた。長い槍を剣として使うには、かなりのパワーが必要なはず。この戦い方ならば、剣の方が扱いやすいだろうに……。

『おい、バルトルト。のんきに見てる場合じゃねえぞ。最後の一匹は、お前の割り当てだろ?』

 わかっている。

 剣が届く距離に達した僕は、

「えいっ!」

 一刀両断をイメージして、ショートソードを振り下ろした。


「ギギッ!」

 ゴブリンのナイフで、僕の斬撃は受け止められてしまった。

 いや、弾かれた、という表現の方が正しいか。

 僕の背後からは、ビシッ、ビシッという音が聞こえてくる。アルマの援護なのだろう。僕と斬り結ぶゴブリンの動きを、少しでも止めようと試みているらしい。

 あいにく、僕と対峙するゴブリンは、普通に動き回っているが……。

 それでも、仲間の援護は、僕に勇気を与えてくれる。

 再び敵に斬撃を食らわすつもりで、僕は大きく、剣を振りかぶった。

 目の前のゴブリンは、最初と同じく、ナイフで対応しようとする。

 しかし。

 横合いから、ブーメランのように飛んでくる斧!

「ギッ?」

 ゴブリンの脇腹にグサリと刺さり、その体勢を崩した。

 これでは、僕の剣を受け止めることも、避けることも出来やしない。

「ギャッ!」

 頭からバッサリ斬り捨てられて、ゴブリンは命を落とすのだった。


「なるほど、そんな感じなのね。キミの腕前は」

 ゴブリンの死体に歩み寄り、斧を抜き取るニーナ。

 無意識のうちに、僕の視線はその斧に向けられていたらしく、

「……と、こうやって私は、剣が主体だけど斧も使うの。主に、仲間の援護射撃としてね」

 彼女はニッコリと笑って、説明を口にした。

 それを聞いて、僕はハッとする。そう、彼女に助けてもらったのだ。

「あっ、ありがとう。おかげで……」

「礼には及ばないわ。助け合うのがパーティーだからね」

 おお、なんと温かい言葉! 以前の友人たちを悪く言うのは心苦しいが、エグモント団とは大違いだ。

「バルトルトくん、剣より魔法が得意みたいだね!」

 近寄ってきたアルマが、そう評価する。いや、魔法が得意というのも語弊があると思うのだが……。

 でも剣技の優れたニーナとカーリンは、アルマの言葉に頷いていた。

 そして。

 いつも通りの笑顔を浮かべながら、クリスタも歩み寄り、僕に声をかけてくれる。

「おつかれさま。あなたの魔法、見せてもらったけど……」

 珍しく一瞬だけ笑みを消して、考え込むような表情を見せてから、また戻した。

「自分で思っているより、魔法に向いてるんじゃないかしら。最初の紹介で『使えるのは弱炎魔法くらい』って言ってたわね? でも弱炎であれくらいの炎が出せるなら、少し頑張れば強炎魔法も発動できると思うわ」

「えっ……」

 こんなふうに魔法を褒められたのは初めてだ。しかも、魔法の専門家である魔法士からの評価だ。

 嬉しいような恥ずかしいような、自分でも表現できない気持ちになってしまう。どういう顔をしたらいいのか、わからないくらいだった。

「あら、変に緊張しないでね。こういうこと、よくある話だから」

 僕の心をやわらげようと、安らぎ深い口調で続けるクリスタ。

「特に、始めて一年以内の冒険者。あなたもそうでしょう? そういう人って、自分でも気づかないうちに、最初の大きなレベルアップをしてる場合があって……。いつの間にか、使えなかった魔法が使えるようになってたりするの」

「ああ、なるほど……」

 今度は固まったりせず、すぐに素直に頷いておく。

 クリスタの説明は理路整然としていて、すんなりと頭に入ってきたのだ。


 そうか。日々の冒険者生活の中で、僕だって少しずつ経験値をゲットしてきたから、知らない間に成長していたのか……。

『いやいや。俺と融合した影響だろ? 変身状態ほどじゃないが、融合のおかげで、素の体力や魔力なんかも少しはアップしてるはずだぜ』

 頭の中で響くダイゴローの声は、僕の良い気分に水を差すものだった。

   

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