転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第84話 いたのは誰だ(2)

公開日時: 2021年1月2日(土) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:26
文字数:3,229

   

「ハハッ! 魔王による人間支配だって? やっぱり、誇大妄想や大言壮語のたぐいだねえ。あんた、悪魔崇拝者だったのかい」

 マヌエラがカトックを嘲笑あざわらう。驚いて言葉が出ない僕とは大違いだった。

「あんたに教えといてやるよ。魔王とか魔族とか、そんなの伝説に過ぎないんだよ。だから早く目を覚まして……」

「そこまで愚かなのですか。目を覚ますのはあなたの方ですよ、マヌエラさん」

 再びマヌエラの言葉を遮るカトック。

 彼は胸元に手をやって、銀色の紋章を掲げてみせた。カトック隊の星形ペンダントとは微妙に異なる、三本の棒を組み合わせた形状のやつだ。

「これこそが、魔族実在の証です!」

 チャラチャラと振ってみせるが、意味がわからない。話の流れ的には、魔王や魔族を信仰する邪教のシンボルマークなのだろうか。だから同じものを大量に用意させて、自警団の連中に配ったのだろうか。

 僕はそう考えたし、クリスタも似たような思考だったらしい。

「なるほどね。どうしてカトック隊のペンダントではなく、わざわざ変えたのか不思議だったけど……。特別な思い入れがあったからなのね。私たちと同じペンダントにしておかないと、カトックのふりをする上ではマイナスなのに」

 改めて、部屋で二人で話し合った場面を思い出す。彼女がカトックを偽物と考える根拠の一つが、あのペンダントだったのだ。

 そうやって、僕が頭を整理しようとする横で、

「カトックのふり……? いったいクリスタは何を言ってるの……?」

 ようやく最初の絶句から立ち直ったニーナが、思いっきり混乱している態度を示した。

 見かねたような顔で、アルマが彼女に声をかける。

「ニーナちゃん、そろそろ気づこうよ。この人、ニーナちゃんの探してるカトックくんじゃないよ。全く別の人だよ」

 今まで黙っていたアルマだが、事情はきちんと理解していたようだ。

 ならば、もう一人無言だった仲間はどうなのだろうか。ふとカーリンの方を見ると、彼女は槍を構えたまま、モンスターや自警団の者たちを厳しく睨みつけていた。それだけで抑えられるとは思えないが、話の途中で彼らが襲ってこないよう、少しでも目で牽制しておこう、というつもりらしい。

「これはこれは……。ニーナさんが混乱するのも無理はありません。私はカトックの姿を借りていますからね」

 その言葉は、偽物だと宣言しているに等しかった。

 彼は改めて自己紹介する。

「名前を騙るのは終わりにしましょう。本当の私は、仲間から『機械屋メカ・アーティスト』と呼ばれる存在。あなたがたの分類で言えば、魔族の一人です」


「おいおい! 魔王や魔族の存在を信じるどころか、自分がその一員だと思い込むとは……」

「あなたがたは、アーべラインという街から来たのでしょう?」

 また馬鹿にするマヌエラに対して、やはり言葉を被せる偽カトック。もはや否定の言葉すら出さず、完全に呆れた表情をしながら、口調としては淡々と説明していく。

「ならば『毒使いポイズン・マスター』の噂を聞いていませんか? 神々が用意した設備の一つを破壊するために、あの辺りの森で活動していたはずですが……」

「『回復の森』にいた、黒フードの怪人ね」

 ポツリと呟いたのはクリスタだ。彼女はチラッとマヌエラに視線をやる。

 泉の汚染事件において僕たちが戦った怪人だが、もともとはマヌエラからの目撃情報だった。

「おお! やはり知っているではないですか!」

 偽カトック――自称『機械屋メカ・アーティスト』――は、嬉しそうな声で、ニッコリとした笑顔をクリスタに向ける。

「そうです。彼も私の同輩、つまり魔族ですよ」

「人間じゃないのはわかっていたけど、まさか魔族だったとはね。でも……」

 クリスタは一瞬だけ難しい顔をしてから、自問自答するかのように、小さく頷いた。

「……納得できるわ。モンスターは普通、あんなにペラペラおしゃべりしないもの」


 怪人が人間の言葉を発していたこと。

 あの緊迫した現場においても、僕が気になっていた点だった。どう見ても人間ではないのに、しゃべる以上はモンスターとも思えない。ならば何者なのか、という問題だ。

『ああ、覚えてるぜ。お前、毒の泉で朦朧とする中、それが頭に出てきてたよな』

 僕が引っかかったくらいだから、他の仲間たちも――特に聡明なクリスタならば――当然、同じく疑問に思ったはず。しかし、システム的に経験値や討伐料が入ってきたことで「怪人もモンスターだった」と、みんな納得してしまった。

『彼女たちは知らないからな。転生戦士ダイゴローの正体がお前だ、って。モンスター換算なら、大物としては黒衣の怪人だけでなく、ヴェノマス・キングとかっていう怪物と、巨人ギガントゴブリンの分も入らないとおかしいんだが……。その点、みんなは勘違いしちまった』

 冒険者組合『赤天井レッド・ルーフ』の医務室で、ダイゴローと二人で考察したポイントだ。

 あの時、事件解決という穏やかな雰囲気でありながら、僕だけはスッキリできなかったのだが……。

 ようやく理解できた。

 あの怪人と怪物は、魔族だったのだ!

 分類上モンスターではなく、だから倒しても経験値などは得られない存在だったのだ!


『でもバルトルト、お前、言ってたよな? この世界に魔王や魔族なんていない、そんなもの伝説だ、って』

 ようやく胸のつかえが取れた気分の僕に、ダイゴローがツッコミを入れる。

 確かに、ダイゴローと出会ったばかりの頃、この世界の説明をする中で、そんな話も出てきていた。まだ僕が正式なカトック隊のメンバーではなく、でも一時的にパーティー入りしたせいでソロパーティーも設立できなくて、宿屋に泊まった晩の出来事だったはず。

 ぼんやりした目標としてダイゴローが『いつの日か、魔王のような親玉を倒してみたい』と言ったのに対して、僕がその存在を否定してしまったから、彼は少し根に持っているのかもしれない。

『そこまでじゃねえよ。気にするな、俺もわかってるさ。ほら、マヌエラだって、あれだけ呆れられながらも「魔王も魔族もいるわけない」って言い続けてるからな。それがこの世界の常識なんだろ?』

 そう言ってもらえると助かる。

 そして。

 僕とダイゴローが脳内会話をしている間に、現実では、偽カトックがクリスタ相手に話を進めていた。


「おお! 噂を聞くどころか、あなたがたは実際に彼と会って、話をしたのですね? ならば、この紋章を目にしているのでは?」

 偽カトックは、再び銀色のペンダントを強調してみせるが、クリスタは首を横に振る。

「見てないわ。黒フードの怪人は、全身すっぽりとローブに包まれていたから。もしかしたら中にあったかもしれないけど、私たちには見えなかった」

「それは残念」

 本当に悲しそうな顔で、偽カトックは、ブツブツと独り言を口にした。

「『毒使いポイズン・マスター』のやつ、ちゃんと持ってなかったのかな? だから魔王様の加護が届かなくて、人間ごときに始末されたのか……。あいつだけじゃ心配だから、私と『怪物いじりマッド・ドクター』とで共同開発した改造ゴブリンを、わざわざ貸してやったというのに……」

「共同開発した改造ゴブリン……だと?」

「あの特別な巨人ギガントゴブリンのことかしら? 金属鎧みたいなものが体に張り付いて、一体化していた……」

 偽カトックの発言に、珍しくカーリンが反応して、クリスタも続く。

 二人の言葉を耳にして、偽カトックは表情を変えた。

「おや? 知っているということは、私の改造ゴブリンと戦ったのですね! ならば『毒使いポイズン・マスター』を滅ぼしたのも、あなたがただったのですか!」

 彼は微妙に勘違いしているが、誰も敢えて指摘しなかった。

 その改造ゴブリンは――僕やダイゴローがメカ巨人ギガントゴブリンと呼んでいたモンスターは――、黒い怪人『毒使いポイズン・マスター』に使役されて現れたのではない。それより前に、勝手に『回復の森』を徘徊していたのだ。そして単独でカトック隊と遭遇した際、変身した僕に倒されたわけだが……。


「今さら! 黒ローブの怪人の話なんて、どうでもいいわ!」

 それまでの会話を白紙に戻す勢いで、突然、ニーナが大声で叫んだ。

「重要なのはカトックよ! 本物のカトックはどうなったの? 彼は今どこにいるの?」

   

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