転生変身ダイゴロー 〜パーティーを追放されたら変身ヒーローになった僕〜

烏川 ハル
烏川 ハル

第93話 いたのは誰だ(11)

公開日時: 2021年1月13日(水) 17:30
更新日時: 2023年5月8日(月) 16:28
文字数:3,078

   

「アーベントロートにいたのは、結局、カトックではなかったのね」

 馬車の中。

 この辺りの景色も見納めだろうと思って、なんとなく窓に視線を向けていたら、ニーナの呟きが耳に入った。


 しんみりとした彼女の声が気になって、ハッとした僕は、ニーナの顔を見つめる。

 落胆しているようには見えないが、もちろん満足の表情ではなかった。とはいえ、無理に笑顔を作るよりは、この方が良いのだろう。

「ええ。ここにいたのは、魔族だったわ。でも……」

 と、クリスタがニーナに応じる。

「……それなりに収穫、あったんじゃないかしら」

「そうだね。ここのカトックは偽物だったし、本物のカトックが今どこにいるのか全くわからない。それだけだと、話は振り出しに戻ったみたいだけど……」

 ニーナの口元に、微かな笑みが浮かんだ。

「……あの魔族の言い方からして、カトックは生きている。それだけは確実になったよね?」

「そうよ、ニーナ。いったんカトックは魔族の手に落ちたけれど、ちゃんと逃げ出したんだわ」

 そこまで偽カトックは明言しなかったけれど、クリスタの考え方は、僕にも理解できた。

 魔族がカトックの名前と姿を借りていた以上、少なくとも一度はカトックと会っているはず。それなのに現在の居場所を知らないのだから、捕らえたカトックに逃げられた、と解釈するのが妥当だろう。

『改めて考えると、凄い話だよなあ。相手は魔族だぜ? 俺たちでも苦労する強敵だ。そこから一人で脱出するとは……。さすがはカトック隊の前リーダーじゃねえか!』

 感心するダイゴローに、僕が内心で頷いているうちに、ニーナとクリスタの会話へ、カーリンも加わってきた。

「二人とも、普通に『魔族』という言葉を使っているが、その点は良いのか?」

「ええ、もちろん。黒フードの怪人の件もあったでしょう? 魔族が実在するのは、もう紛れもない事実よ」

「ついでに言うと、魔族が『魔王』と呼ぶ存在もね。ほら、今回『魔王様の加護』ってやつがあったわけだし」

 ニーナがクリスタの言葉を補足すると、二人に対してカーリンは深々と頷く。いかにも「納得した」と言わんばかりの仕草だった。

「クリスタの言う通り、カトックが魔族に捕まってた時期があるなら……」

 ニーナの声が、だんだんと明るくなってきた。こうして話す間に、前向きな気持ちになれたのだろう。

「……カトックを探すには、魔族がらみの事件を追うのがいいかもね」

「私も賛成。どういう関わりかは別にして、カトックと魔族が無関係じゃないのは確かだもの。それと、もう一人、魔族に関わるって判明した人がいるわ」

「誰のことです?」

 黙って聞いているのも何なので、この辺りで僕も口を挟んでみた。あまり意味のない合いの手のつもりだったが……。

 こちらに笑顔を向けた彼女の言葉に、僕はドキッとする。

「あなたが言うところの『森の守護者フォレスト・ガーディアン』よ」


「えっ……」

「ほら、魔族が言ってたでしょう? 神が差し向けた戦士、みたいなこと」

 微妙に表現は違う気もするが、それっぽいことを言われたのは、僕も覚えていた。

「『神』の側なのだから、あの人、魔族と敵対しているのよ。おそらく……」

 彼女の笑顔のニンマリ感が強くなる。

「……魔族を倒すために世界中を飛び回っているのね、『森の守護者フォレスト・ガーディアン』は」

「そっか! だから、こんな遠くの森にも現れたんだね!」

 納得の声を上げるニーナ。

 確かに、今までは、アーべラインの『回復の森』で強敵を狩っているという認識だったはず。ならば、アーベントロートの森に登場したのは不自然だったのだ。

「そういうこと。私たちがカトックを探そうとして魔族を追うのであれば、また彼にも出会うでしょうね」

 クリスタはニーナの言葉を肯定してから、僕に対しても微笑みかけた。

「ああ、そうですね」

 と、曖昧に返すしかないのだが……。

『良かったじゃねえか、バルトルト。これで今後は、いくら変身しても大丈夫だぜ。「なぜカトック隊のところにだけ現れるのか」みたいな詮索、されずに済むからな!」

 そう考えると、このクリスタの解釈には、深く感謝するべきなのだろう。


「『森の守護者フォレスト・ガーディアン』といえば、もう一つ。アーべラインの『回復の森』からアーベントロートの森まで、どうやって来たと思う?」

「それは……」

 そこまで考えていなかった、という態度のニーナ。

 僕も同じ表情を見せておく。

「私が思うに、ワームホールを使ったのよ。この世界には、森と森とを繋ぐような、ワームホールのネットワークがあるんじゃないかしら?」

「あっ! それじゃザルムホーファーの森も……」

「そうよ。カトックが消えた例のあれ、やっぱりワームホールだったのよ!」

 クリスタとニーナは、二人で盛り上がっている。

 前提である「『森の守護者フォレスト・ガーディアン』はワームホールで移動した」という説が、そもそも間違っているのだが、僕の立場では指摘するわけにはいかなかった。

 少しもどかしい気分になっていると、

「クリスタちゃんもニーナちゃんも、いつまで『森の守護者フォレスト・ガーディアン』って呼ぶのかな? ちゃんとダイゴローくんって呼んであげようよ」

 アルマの言葉で、僕は思いっきり驚かされる!


「えっ、ダイゴロー?」

 思わず、聞き返してしまった。

 それまでアルマは会話に参加せず、外の景色を眺めていたはずなのに、いきなりの爆弾発言とは……。

「そうだよ、バルトルトくん。あの人、自分で言ってたもん」

「あら。彼は昨日、名乗ったかしら?」

「違うよ、クリスタちゃん。『ダイゴロー光線』って言ったの」

 なるほど、そちらを耳にしたのか。

 とりあえず正体がバレたわけではないとわかり、僕はホッと一安心。

「最後にビームみたいな魔法、使ったでしょ? あの時、そう叫んでたよ!」

「言われてみれば、私も聞いた気がする。そんな言葉、口にしてたかも」

「なるほどね。あの人、呪文詠唱なしで魔法が使えるみたいだけど……。それなら、わざわざ『ダイゴロー光線』って言ったのは、必殺技の名前でしょうね。おそらくは、自分の名前を冠した技の」

 と、ニーナもクリスタも、アルマの話を受け入れた。

「残念だったね、バルトルトくん。バルトルトくんが『森の守護者フォレスト・ガーディアン』って名付けたの、もう却下だよ!」

「ははは……」

 僕はアルマに、乾いた笑いを返す。

 こんな形で名前を言い当てられて、少し複雑な気持ちだった。


 話が一区切りついたところで、僕は視線を窓へと戻した。

 といっても、外の景色を眺めたいわけではない。ただ、少し考えたいことがあったのだ。

『どうした、バルトルト。今の話で、何か気になることでも?』

 気になるというほどでもないが……。

 改めて、魔族や魔王の実在を意識させられたのだった。

『ああ、それか。お前、最初は「そんなもの伝説だ」って俺に言ったくらいだからなあ』

 そう、その話だ。

 僕がダイゴローにそう説明したのは、そもそも彼が『いつの日か、魔王のような親玉を倒してみたい』と言い出したからであり……。

 あの時は絵空事に過ぎなかったダイゴローの発言が、その実在を知った今、現実味を帯びてきたのだ!


 僕だって、世界平和のためにモンスターを一匹でも多く始末したい、みたいな夢を語ったこともある。でも改めて考え直すと、『世界平和』を言い出すのであれば、魔王こそが倒すべき親玉ではないだろうか。

 つまり、僕とダイゴローの気持ちは重なっていて……。

『なあバルトルト、俺は今、心の底から思えるぜ。この世界に転生できて良かった、お前と出会えて良かった、ってな!』

 僕たちの最終目標は、魔王を滅ぼすこと!

 その決意を胸に秘めて。

 大切な仲間たち――僕の中にいる相棒ダイゴローとカトック隊の女の子たち――と共に、僕は帰路の馬車に揺られるのだった。

   

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