百霊夜行の青年と呪物にされた美少女

彼女の秘密を暴いたら、彼女を救わずにはいられなくなっていた……
相枝静花
相枝静花

第35話 オカルト界の一族3

公開日時: 2020年11月25日(水) 12:44
更新日時: 2021年2月10日(水) 16:07
文字数:1,984

 神園神社の敷地は、そんなに広くない。ここは、こじんまりとした神社だ。

 それでも参拝に訪れる人は、まばらにあり、売店には巫女さんが、本殿に行くと神主が手入れをしているところだった。


「こんにちは」


 俺が声をかけると、神主は振り返り、目を見開いて俺と沙希を凝視した。


「二人とも、呪いが濃くなっているじゃないか……兄に連絡は取らなかったのか?」

「いえ、連絡は取りました。それで今朝まで一緒に行動していたんです」


 俺はつらつらと経緯を話し、お礼を言う。まだ普通の人間に戻れてはいないが、沙希の母親になりすましていた呪霊を殺すことも出来たし、沙希の素性がもう少しで明らかになりそうな所まで来たのだ。ここまで来るには、門真義さんの力がかなり大きい。


「そうか……。由美さんは、無事に見つかったんだねぇ。良かったよ。しかし、沙希さんはともかく、なんで君まで呪いが濃くなっているんだ?」

「だから、呪い神を倒すためだって言ったじゃないですか」

「他に方法はなかったのか? 二人共、最も強力な呪物になってしまって……」

「沙希の素性が明らかになって、落ち着いたら、人間に戻る方法を探しますよ」


 神主は低く唸り、腕を組む。


「そういうことなら私も出来る限り、力になろう。非売品の札を特別に売ってあげることにするよ」

「本当ですか?! 助かります」


 神主は苦笑すると、こっちへきなさい、と言って俺達を本殿の奥の建物に誘導した。


「私の住まいだよ。攻撃札と結界札、それに守り札もある。兄の勤める会社で働くつもりなら、いくつあっても足りないぐらいだろう。いつでも買いにきなさい」


 神主は玄関口を開けて、中に入った。俺達も中へ入り、奥の部屋へと通される。そこには、きれいに並べられた新しい札が、びっしりと置かれてあった。


「兄専用に作っている札でね。まぁ、君たちに売るのも構わないだろう。これが値段表だよ。今日も買っていくか?」

「はい。集落で使い切ってしまったんで、必要な分を買えるだけ買わせてください」


 俺は、並べられた様々な札を見る。神主に効力や使い方を説明してもらいながら数十枚を、二万円ほど使って購入した。

 そして神社を後にした俺達は、駅前で昼食を済ませ、沙希の家へ戻った。沙希を家まで送った俺も自宅へ戻り、自室で札を眺めていく。


「守り札なんか、必要ないとも思ったけどな……」


 独りごち、買い込んだ守り札をまたボディバッグに入れ直す。もしかしたら沙希を守るために使うかもしれないと思って購入したものだ。門真義さんの勤める会社で働かせてもらえるようになるのは嬉しいが、今まで以上の危険があることも予想しておかなければならないだろう。

 俺は気を引き締め直し、沙希を守らなければと胸に誓った。




 


 門真義さんから電話がかかってきたのは、翌日の昼下がりだった。

 外では話しにくい内容の話があるという門真義さんの要望で、俺たち三人は沙希の家に集まったのだが……。


「古いカセットテープだったが、幸い会社には聞くための機械があってね。内容を聞くことができた。出来たんだが……」


 まだ回収されていないコタツに座り、門真義さんは煙草を取り出す。何か言いにくいことでもあるのか、タバコをふかすばかりで言い出そうとしない。


「今までだって、色々あったんです。よほどの事でないと、傷つきません。私」

 沙希は覚悟を決めたような目を門真義さんへ向け、「話してください」と促した。

「余程の事なんだ……話しても、いいかい?」

 門真義さんは、まだためらっている。しかし、沙希は力強く頷いた。

「君の母親と、呪破の一族の人間が言い争う会話が、録音されていた」


 門真義さんはそれだけ言うと、一呼吸おいて――。


「沙希さん。どうやら君は、呪破の一族にとってかなり重要な存在らしい」

「――え?」

「何故なら君の家は、長い歴史を持つ呪破じゅはの一族の家で、君は呪破の力を受け継ぐ女の子だからだ」


 門真義さんは難しい顔を浮かべつつも、真実をつらつらと述べていく。


「まず、オカルト界の名のある一族は、みな神職と近い職業なんだ。でも、時代のせい……って言うのかな。西洋文化が日本に入ってきた辺りから、色々と事情があって表舞台から身を引いた。簡単に言うと、呪破の一族は、悪霊の類を専門に退治する人達で、未だ政界とも深く繋がっている」


 沙希は、「私は、なぜ、あの集落にいたのですか?」とストレートに問う。

 門真義さんは答えなかった。 


「先に、僕の話を順に聞いて欲しい。呪破の力を持って生まれる可能性は、男が九十九パーセントで女が一パーセント。ただ呪破の力は、女性の方が圧倒的に強いらしい。そして君は、奇跡的に力を継いで生まれてきた。とても強力な力だ。継いでいれば、体に家紋の模様の蒙古斑がつくらしいんだが……沙希さんが生まれて家中が喜びに包まれたのもつかの間、沙希さんのお母さんと呪破の一族を束ねる者が揉め始めたようでね」

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