俺はデュールに案内され、魔王城の地下にあるダンジョンに来ている。
「危なくなったらすぐに助けてあげるからね!」
「余計なお世話だ。そもそも危なくなる理由がないんでな」
俺のレベルは1だがスキルや戦闘技術まで失ったわけではない。ただ大幅に能力がダウンしているだけだ。更に言うならこの魔王の剣。これがその低下した能力の半分を補っていた。
「いや、ずりぃわ魔王。こんな剣使ってたなんてよっ!」
《ギアァァァァァァァァァッ!》
俺は迫り来る魔物を魔王の剣で一閃、どんどん階層を下りレベルを上げていく。
「……ああ、レベルが1になっただけで何も変わってないのね……」
「ああ。だから必要ないと言っただろう。ここから更に加速するぞ」
「あ、うん。先帰るね」
デュールは途中からついて来られなくなりリアイアした。敵の強さはそうでもないが、俺の進む速度について来られなくなったようだ。それでも四天王かとツッコミたいが、今は自分が強くなる方が大事だ。
「必ず復讐してやる……。俺を裏切った国、そして俺が仲間達と命を削ってまで築いた平和を享受している人間全て鉄槌を下してやるっ!! オラァァァァァァァァァァッ!!」
俺は一切休まず階層を駆け抜ける。最下層に到達してからはレベルが上がり辛くなるまでリポップする魔物を狩り続けていった。
「復讐……復讐!! 裏切った奴らは絶対に許さない!! 仲間を殺した奴らには仲間が感じた以上の地獄を味あわせてやるっ!! そのためには絶対的な力が必要だっ!! まだまだこんなもんじゃ全然足りねぇっ! お前ら全員俺の糧になりやがれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そんな時だった。突如魔王の剣の鍔にあった装飾の瞳が開眼した。
「……は?」
《くくく……っ、良い……良いぞ!》
「な、なんだ? 頭の中に声が……!」
装飾の瞳が開眼したと同時に頭の中に重苦しい声が響き渡った。
《新しい所有者よ、我は魔剣【ダーインスレイヴ】。主のその深き闇に誘われ我は再び覚醒した》
「ダーインスレイヴ……」
《そうだ。こうして目覚めるのはいつぶりだろうか……。主の闇は驚くほど心地よい……》
俺はその言葉を疑問に思った。
「待て、なら魔王が使っていた時は……」
《目覚めてはおらぬよ。我を覚醒させるためには深き闇の心と膨大な魔力、それと……我が主と認めるに相応しいルックスが必要なのだ。魔王はそのいずれも満たしてはおらんかった。魔王が使っていたのは閉眼した我の上部だけだ。それでも国一つ滅ぼす事は容易い》
「そうか、あの力を底上げされているような感覚はそれか」
《そうだ。そして……開眼した我を扱うにはリスクがある。主に問う。主は例えどうなろうと復讐を果たすか?》
俺はその問い掛けに悩む間もなく頷いた。
「もちろんだ。俺にはもう失うものなど何もない。復讐を遂げた後の事なんてどうでもいい」
《ふむ。だが一応説明しておこう。主は人が死んだらどうなるかわかっておるか?》
「はぁ?」
俺は剣が何を言いたいのかサッパリ理解出来なかった。
《人は死ぬと魂が輪廻の輪に入り、いずれ新たな命としてこの世に生を受ける。これを輪廻転生という》
「それが?」
《だが、我の所有者となった者の魂はその輪廻の輪から外れる。つまり、来世はない。主が死んだ時、その魂もまた完全に消え去る。と言うか、我の糧になる。これまでにも数人の所有者が我の糧となって今の力が発揮できておるのだ》
「なるほどな、死んだら次はないって事か」
《そうだ。手放すなら今の内だ。捨てるも使うも主の自由。捨てるならそれまで、使うなら本契約を結ぶ。選べ》
このままこの魔剣を使い続けて死んだら来世はない。
「来世なんて必要ない!! ダーインスレイヴ、契約だ。俺に力を貸せ」
《迷わぬか。よかろう、我ダーインスレイヴは今よりそなたを主と認め、あらゆる困難からそなたを守り抜いてみせよう。主が朽ちた時、その魂は我がもらい受ける。よいな?》
「ああ、死んだ後は好きにしやがれ」
魔剣から触手が伸び、手の甲にある血管から体内へと侵入してきた。
《おぉぉぉ……、これはなんと極上な……! これまでの主の中でも最高品質の血……! あぁ……満たされる……っ!》
触手から俺の血を吸った魔剣の刀身は黒から赤へとその色を変えていく。俺は益々魔王化していった。
《ふぅ、満腹だ。再び刀身が黒くなった時や、ないとは思うが刀身が欠けた場合は再び血をいただく。そうする事で我は復活するのだ》
「なるほどな、少々気持ち悪いがそれでメンテナンスが必要なくなるなら安いもんだ。で、開眼したお前は何ができる」
《何ができるか、今から説明してやろう》
魔剣いわく、開眼した魔剣には様々な能力が付与されているらしく、まず、念じて振れば闇の炎や闇の雷が敵を焼き尽くすそうだ。他にも、目があった相手を金縛りにしたり、誘惑、隷族化したりと割と何でも出来るらしい。
「めっちゃ有能じゃん」
《魂を贄にしているのだ、有能でなければ使われんよ。更に言えば、我にもレベルが存在しておる。主の得た経験値の三割を我がいただき、成長するのだ。我はレベルが上がれば我よりレベルの低い相手には百パーセント状態異常を与えられるようになる。真の意味で我を使いこなしたいなら我のレベルも上げる事だ。ちなみに、鑑定すれば我のレベルは見える。頑張るが良い》
「剣にレベルね、わかった。もうしばらく修行していくとしよう」
俺は開眼した魔剣ダーインスレイヴのレベルを上げるべく、ひたすら最下層で敵を狩りまくるのであった。
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