召喚勇者は人類から追放されました!

~全ての人類に復讐する。そこに慈悲はない~
夜夢
夜夢

第5話 魔剣ダーインスレイヴ

公開日時: 2020年9月6日(日) 23:51
文字数:2,302

 ダンジョンに籠り数ヶ月、俺のレベルは四桁に達し、ダーインスレイヴのレベルはその半分まで伸びていた。かつて俺が勇者だった時のレベルが今のダーインスレイヴくらいだ。そして人類の平均レベルは二百前後、これで全ての人類に復讐する事が可能となった。


《グガァァァァァァァァァァァァッ!!》

「【縮地】、奥義【朧月】」


 目の前に現れたイビルドラゴンを一刀で斬り伏せ、俺は剣に付いた血を払った。


「うん、もうレベル上げは良いかな。ダーインスレイヴ、そっちは?」

《うむ。我も十分だ。あぁ、一つ言っておこう。我のレベルが千に達した時、我は新たな力に目覚める。これは過去の所有者の誰も到達しておらぬ。敵を屠るには今のレベルで十分だがな。一応心に留めておくが良い》

「お前なぁ、レベル千とか何年かかると思ってんだよ」

《なに、そうかからぬ。我は魔物より人の方がレベルが上がりやすいのだ。それが強者なら経験値補正がつく》

「どれくらい?」

《二百パーセントだ》


 つまり人を斬れば六割経験値が入るのか。


「お前さ、そういう事はもっと早く言ってくんない? ここで魔物を狩るより人間狩った方が早かったじゃん!」

《聞かれなかったのでな》

「こいつは……」


 頭の固い剣だった。

 俺は最下層での修行を非効率と切り上げ、地上へと戻る事にした。


「おっと、そういやまだ宝箱全部開けてなかったな。ま、これは帰ってからで良いか」

《お主は食材にしか興味なかったな》

「そりゃそうだろ。腹が減って死んだらどうすんだよ」

《肉体があるというのは難儀なものだな》


 俺はダーインスレイヴ片手に地上へと引き返していった。だんだん弱くなっていく敵に何の面白味も感じず、ひたすら流れ作業のように階段をかけ上がる。ダンジョンは勇者時代から何度も挑んできた。仲間達のために強力な装備品を集めなければならなかったからだ。俺には聖剣があったが仲間達にはなかった。


「そうだ! 忘れていた!」

《なにかだ?》

「聖剣だよ聖剣。俺が勇者だった時に使ってたやつ!」

《まだ持っておるのか?》

「ああ、ストレージに入れてある。聖剣は強力だからな。間違っても人間の手には渡せないから持ってたんだよ」


 俺は一旦地上へと向かう足を止め、ストレージから聖剣を引っ張り出した。


「……あれ? おかしいな」

《なにがだ?》

「いや、聖剣って俺の魂と結びついててさ、純白だったんだけど……」


 魔族の仲間入りをした俺の聖剣は純白ではなく漆黒と化していた。ダーインスレイヴが真紅なら聖剣は暗黒だ。


《あ、久しぶり~。あれ? 感じ変わった?》


 そう話し掛けてきたのは聖剣【デュランダル】だ。


「久しぶりだな、デュランダル。変わったと言えば変わったよ。俺も色々あってな……。もう人間ではなく魔族。さらに、勇者ではなく魔王になっちまったんだ」

《魔王に? ふ~ん……。あれ? じゃあなんで私を持てるの? 私を使えるのは勇者だけなんだけど?》


 そこにダーインスレイヴが口を挟む。


《ふん、まだわからんのか。お前の身体をよ~く見てみるんだな》

《はぁ? 魔剣の分際で聖剣の私に意見するわけ?》

《見ればわかる》

《なんなのよ全く……。ユウキ、鏡出して》

「はいよ」


 俺はストレージから鏡を取り出しデュランダルを写してやった。


《なっ!? ななな……なによコレェェェェッ!? え!? わ、私の光り輝く純白の身体はっ!?》


 そのセリフを聞いたダーインスレイヴが大声で笑った。


《くくくっ……くはははははははっ!! ようこそ魔剣の世界へ。デュランダル、お前はもう聖剣ではない! 魂とリンクしていたのが間違いだったな! ユウキが魔王になった瞬間貴様も魔に堕ちたのだっ!》

「……ほう?」

《い、いやぁぁぁぁぁぁっ!? 私もしかして魔剣になっちゃったの!? イヤよっ! 返してっ! 私の美しい身体を返してよぉぉぉぉぉぉぉぉっ! あ……》


 俺はデュランダルがあまりに煩かったので無言でストレージへと放り込んだ。


「……さて、帰るか」

《何気に酷いなユウキよ》

「あいつは昔からああだったんでな。使えば戦いが終わった後綺麗にしろだ、気持ち悪い魔物は斬るなだ本当にワガママでな。その度にストレージに放り込んでたんだよ」

《……そいつは昔からそうだったぞ》

「もしかして知っているのか?」


 俺はダーインスレイヴの口ぶりからもしかしたらデュランダルの事を知っているのではないかと尋ねた。


《当然だ。名のある魔剣や魔槍などの製作者は神々だからな。我らは神界で会った事がある》

「ふ~ん」

《デュランダルはその美しさを誇っていたようだがな、くくくっ、よもや純白から漆黒になっていたとは……。これが笑わずにいられようか! くははははははっ!》


 ダーインスレイヴはデュランダルが堕ちた事がツボにはまったらしい。先ほどから笑いが止まらなかった。


「俺が魔族になったからデュランダルも魔剣になっちまったのか。って事は普通に装備出来るのか?」

《そうだな。先ほどのデュランダルからは聖なる気は微塵も感じなかった。問題なく装備可能だろう》


 魔剣ダーインスレイヴに魔剣デュランダル。この二つの剣を使いこなせればもはや勝てる相手など現れないだろう。


「やれやれ……。後で機嫌でもとってやるとするか」

《ふん、我さえおればこの世に敵などおらんわ。あんな駄剣使うまでもないわ》

「そう言うなよ。アレはアレで使いやすいんだよ」

《それは以前のあいつだろう? 魔剣となった今、性能まで同じとは限らないのではないか?》

「……あ、そうか。う~ん……。面倒だから帰ってから考えよ。さ、あと少しで地上だ。帰ったら今後について色々考えなきゃな」


 こうして俺は無事修行を完了し、入り口で待っていたデュールに熱く出迎えられるのであった。

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