人間引退します。

人間引退スイッチがあるとしたら、あなたはどうしますか?
白樺玲
白樺玲

プロローグ

***

公開日時: 2020年9月10日(木) 07:30
文字数:1,067

 X月X日 午前十時起床。


 いつも通り洗面台に向かい洗顔と歯磨きをし、最低限度の身だしなみを整える。

 朝食は、冷蔵庫にある物を適当に選んで食べる。今日の献立は、昨日の夜の残り物にした。


「あぁ、つかれたな」


何をしたわけでもないのに、毎回口から出る言葉はこの言葉一択だ。


 僕なりの朝のルーティンを終えた後、水の入ったグラスを片手にソファーに寝転がる。そのあとは、ただただ時間を潰すだけの一日が僕の生きる一日である。


  ふと窓のカーテンを開け空を見上げた。


「綺麗な雲だな」


「あ、さっきそこにいた雲はどこにいった」


最初はそんなどうでもいいことを心の中で考えていた。


「あぁ、死にたいな」


 その言葉は、口から自然と出た。

雲に浸っていたのに、いきなり自殺願望だなんて馬鹿馬鹿しい。

ただ、あまりにも自然に口から出た言葉を僕は忘れられなかった。


 昼食をとる時も、夕食の時も僕の脳裏には、「死にたい」という言葉が焼き付いて離れなかった。

 もしかしたら、僕は本当に死にたいのかもしれない。精神病かなにかなのだろうか。

 気付いたら僕の検索エンジンの履歴は、すべて自殺関連の内容だった。


 僕は、本当に死にたいのだろうか。

死にたいとするならば、果たしてそれはなぜなのか。

頭をフル回転しながら考えた。

行き着いた先は、生きる意味がないという理由だった。


 たしかによくよく考えてみれば、僕は生きている意味がない。

雨風を防げる家もある。

快適な睡眠をとれる布団もある。

なんなら、家族にも友人にも恵まれている。

 では、なぜ死にたいのか。

簡潔に言うと、これらには生きる意味がないからだ。

生きるための条件には最適なのかもしれないが、生きる意味という意味では、圧倒的に何かが欠如している。


「やっぱり、死にたいかも」


 この瞬間で僕の中の何かが変わった。

僕は、死にたいんだ。

そう考えたら、心にあった何かが軽くなった。

僕の知らない何かが居座っていたみたいだ。


 そう考えたら、僕の行動は早い。

意外かもしれないが、僕は即決断即行動の部類だ。



 さっそく自殺について調べた。

内心とても楽しかった。

さっきまで雲について考えていたのが嘘かのように、胸が高鳴った。


    自殺について調べていくうちに、もっとリアルな世界を見たくなった僕はSNSを作成した。

 僕には新境地だった。

もちろん自殺自体が新境地なのだが。

 後々、めんどうになることを恐れて適当に偽名を使った。

 そして、自殺志願者を募る内容のものに片っ端から反応した。

反応するだけでは、意味がないとも感じた。

試しに、僕自身も自殺志願者を募ってみた。


 一時間後

一通のダイレクトメールが届いた――。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート