僕は、SNSを消すのに必死だった。
この自殺志願者を募っていた側の僕は確実に調査される。
「どうしよう」
汗で携帯が今にも滑り落ちそうだった。
そんな時一件の通知が表示された。
ダイレクトメールだった。
僕は焦った。
まさかもうここまできたのか?
いや、そんなはずはない。
大丈夫、大丈夫。
無理やり自分でそう言い聞かせながらダイレクトメールを開いた。
相手は、名前もない人だった。
警察じゃない事が分かって少し安心した。
「どうせまた冷やかしだろう」
そう思いながらも、勇気を出して開いてみた。
「こんにちは、宮川彰介さん。
こちらは人間引退事務局です。
自殺志願者を募る投稿を拝見し、連絡させていただきました。
いきなりですが、宮川さんは電気のスイッチを消すように
人間も消せたらいいのにと感じた事はございませんか?
詳しいことは、来週水曜日に○○駅近くの雑居ビルにてお話させていただきます。
もし、少しでも興味がありましたら
ぜひお越しください――――――。」
そして文章の最後には、丁寧に雑居ビルの住所が記されていた。
いやいや、まてまて。
どういう事かさっぱり分からない。
まず、何故僕の名前を知っているんだ。
どこからか流失したのか?
いや、もしかするとこれは警察の罠なんじゃ。
それに、電気を消すように人間を消すなんて無理に決まっているじゃないか。なんてうさんくさい事務局なんだ、行くわけないじゃないか。
それに僕はもう死ぬつもりはないんだ。
僕は、そのメールを閉じて人生について考えることにした。
やっぱり、死にたいと思った一番の理由は生きている意味が見つからなかったからだった。
「よし、生きる意味を見つけよう」
とは、いってもなにをしたらいいのかが分からなかった。
僕には、これといった特技さえなかったからだ。
考えても考えても、これといった物は見つからなかった。
「あぁ、何がいいかな」
そう考えながら、朝食で出た洗い物をしていると、ハッとした。
僕は自分に向いている物を見つけたんだ。
人間の本能で何か食べなくては、という理由で毎日こなしていた朝食作り。
気付いたら僕は、料理の才能がどんどん開花していたのかもしれない。
「たしかに、最近献立の種類も多くなった気がするな」
これだとおもった。
僕に残された道は、料理しかない。
そうと決まったら、さっそく求人を探した。
生きる意味だけを探していた僕には、時給なんて関係なかった。
とりあえず、家から自転車で通える圏内に絞って探し続けた。
あ、これだ。
なんとなく見つけた最寄の駅ビルの定食屋に申し込んだ。
時給は最低賃金だし、なにもいいところはなかった。
ただ何故か、ここだと感じた。
翌日、その店の店長から面接の日程を決める電話が来た。
僕の面接日は、明後日の午後二時に決まった。
よし、明後日から僕は人生を再出発させる。
そう意気込んで眠りについた―――――――。
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