人間引退します。

人間引退スイッチがあるとしたら、あなたはどうしますか?
白樺玲
白樺玲

私と一緒に死にませんか?

***

公開日時: 2020年9月10日(木) 07:30
文字数:1,193

 僕が自殺志願者を募ってから早一時間が経過した。


ピコン。


聞きなれない音と共にそれはやってきた。

 ダイレクトメールの通知が、一件と表示されていた。


「あ、本当に来るんだ。」


 僕はさっそく来ていたダイレクトメールを開いた。


「一緒に死にませんか」


 正直本当に来るものだとは思っていなかったため驚いた。

世の中にはこんな簡単に自殺する人がいるのか、と考えていた時もう一通連続して届いた。


「性別は、女です」


女性も自殺するものなのか。

 

 何が原因で彼女は自殺したいのだろうか。

ちょっとした好奇心で僕は、


「なぜ自殺したいのですか」


そう送ってしまった。

 

 案の定結果は既読無視だった。

あぁ、こういう事を聞くのはナンセンスなのか。

学ばなくてもいいことを、僕は学んでしまった。


 それから、しばらくまっても自殺志願者は現れなかった。

意外と少ないものなのか。

それともなにか条件が合致していないとだめなのか。

無知な僕はとりあえず自殺方法を記す事にした。


 僕の検索エンジンの履歴は再び、自殺関連一色になった。

綺麗に死ぬ方法。

苦しく死なない方法。

迷惑をかけない死に方。

いろいろなものを見漁った。


 そんな中、自殺方法がいくつも紹介されているサイトを見つけた。


「これなら簡単に、手間取らず死ねるだろう」


 自殺方法を決めた僕は、さっそく改めて自殺志願者を募った。

自殺志願者からの反応が多いものを見るとすべてが、「苦しまないで死ねます」と書かれた物だった。

 みんな死にたいのに、苦しんで死ぬのは嫌なのか、不思議なもんだな。

僕はそう思いながらも、

「苦しまないで死ねます」

と記し自殺志願者を募った。


 前回とは違い、すぐに反応がきた。

ダイレクトメールの通知は時間が経てば経つほど、二通三通と溜まっていった。たしかな手ごたえを感じた。


 一時間が経過した頃、通知は10件に溜まっていた。

まさかこんなにくるとは思っていなかった事もあり、とても驚いた。

そしてなにか罪を犯しているのではないか、という気持ちになった。


 待たせるのも悪いと感じた僕は、さっそくダイレクトメールを開いた。

ダイレクトメールの相手は、ほとんどが名無しだった。

偽名を使用している僕が言えたことではないが、やっぱり名前が無い人は信用できない。

ただ一緒に死ぬだけなのかもしれないが、一応人生を一緒に終えるものとして、信用は不可欠だ。


 内容もすべて目を通した。

一時間待ったにも関わらず、本気で自殺したいと考えている人はいないみたいだった。

どうやったら綺麗に死ねますか。

苦しまずに死ぬ方法知りたいです。

ほとんどがそんな内容で、中には誹謗中傷ともとれるものもあった。


 なんだ結局自殺したい人なんて僕だけじゃないか。

自殺志願者を本気で探していた僕の時間を返してくれ。

そんな気分だった。

 馬鹿らしくなった僕は、布団に寝転がりそのまま夢の中におちてしまった。


 翌朝、何気なく携帯を開くと一件と表示された通知が届いていた――――。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート