今日もまた僕は、いつもと変わらない朝のルーティンを行った。
いつもと同じく朝食の献立を決めて、今日は豪華に魚も焼いてみた。
日本人が憧れるこれこそ朝食だという物を食べた。
今日で献立を考えるのも最後かと、朝食をとっていると通知が入った。彼女からだった。
「自殺当日ですね。夜七時に南ヶ丘公園で待ち合わせましょう。」
あぁ、ついに今日僕は自殺をするんだ。
分かっていた事なのに、いざ自殺するとなると緊張してきた。
今日死ぬというのに服まで悩んでしまった。
まるで初デートに行く前の少女のようだった。
これからいけない事をします。
と宣言しているようでとても胸が高鳴った。
そんなこんなで準備をしていたら既に時計は、午後四時を回っていた。
死ぬ前に母の手料理を食べたかった事もあり、夕食の時間をいつもより早めてもらった。
自殺することは未だ告げてない。
ただ友達と遊んでくるとだけ伝えてあった。
食卓を囲む僕ら家族の会話は、いたって普通だった。
姉の職場の話や、父のどうでもいい話を聞いて楽しんだ。
いつもはつまらない父の話でも、最後となるとなぜかおもしろく感じた。
「あら、今日はやけに笑うわね」
いつもはあまり笑わない僕を見て母が言う。
そりゃ笑うさ。
なぜならこの会話も今日で最後だからだ。
笑ってないと涙が零れてしまう。
自ら選んだ道なのに涙を流すのはすごく矛盾している。
本当は自殺したくないのか。
まだ後悔でもあるのか。
何度考えても正解は見つからなかった。
午後六時。
居間で団欒している家族に向けて最後の挨拶をした。
「いってきます」
少し鼻の奥がツンとした。
大丈夫。
大丈夫。
そう言い聞かせながら駅に向かった。
待ち合わせ場所は山上にある静かな公園だった。
電車とバスを併用し、到着までは、一時間かかる予想だ。
バスに乗りながら考えた。
今日で僕は自殺するのか。
もう家族には会えないのか。
もう朝食の献立を決める時間もないのか。
空を見ながら雲について考えることももうないのか。
心で吐き出される言葉は、すべて今死んでいいのかと、自問自答する様な内容だった。
もしかしたら僕は、まだ死ぬべきではないのではないか。
そう考えていると公園のひとつ手前の停留所に通り過ぎた。
公園の木の下に立つ女性が見えた。
彼女だった。
降りなきゃ。
降りなきゃ。
「通過致します」
車内に運転士の声が響く。
僕は、降車ボタンを押す事は出来なかった。
直前で僕は、足が震えて動けなかった。
結局僕には、死ぬ勇気なんてなかったんだ。
横目で彼女をみながら、僕は頭が真っ白だった。
ただ、彼女だけを見つめていた。
僕は結局家までとんぼ返りしてしまった。
「ただいま」
何事もなかったかのように帰宅した。
「あら、早かったわね」
そりゃ、そうだ。
ただとんぼ返りしただけなんだから。
内心バクバクだった。
心臓の鼓動が早かった。
なのに、母の声を聴いた瞬間安心してしまった。
僕は、まだ死ぬべきじゃない。
そう改めて思い直した。
人間思いつきで命を捨てるべきじゃないんだな。
また僕は、学ばなくていい事を学んでしまった。
その日の夜は、いつもより深くぐっすりと眠ることができた。
翌朝いつも通り朝のルーティンと始めようとしていたら、テレビの音がした。
「あぁ、今日は週末だったか」
携帯をいじりながら朝食ができるのを待っているとニュース速報が流れた。
「○○市 南ヶ丘公園にて死体が発見されました。自殺と思われます」
聞いた瞬間背筋が凍りついた。
「もー、どうしたのよ」
母が言う。
いやそれどころではない、確実にあの人だ。
バスの窓からはっきりと見た。
彼女しかいない。
焦った。
「とっとりあえずSNS消さないと」
巻き込まれるととっさに察知した僕は、彼女との唯一のつながりであったSNSを消そうと必死だった。
どうやって消すんだ。
消し方が分からない。
元々ネットに弱かった僕は手間取ってしまった。
そんな時、一件の通知が届いた―――――。
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