人間引退します。

人間引退スイッチがあるとしたら、あなたはどうしますか?
白樺玲
白樺玲

2***

公開日時: 2020年9月18日(金) 17:00
文字数:950

 あれから二日が経った。

今日は、人生の再出発をする記念日だ。

 何故か、いつもより早く目が覚めてしまった。

思っている以上に僕は緊張しているらしい。

 受からなかったらどうしよう、大丈夫かな。

そう思いながら、僕はいつも通り朝のルーティンを行った。

 すると母が言う。


「バイトの面接日今日よね。頑張ってね」


言われなくても分かっていた。

 その言葉で余計に緊張した僕は、朝食が初めて喉を通らなかった。

受験の日も、自殺を決意した日も、普通に食べれていたものを、食べることが出来なかった。

 気休めにもならない水を僕はがぶ飲みして、準備を始めた。


 午後一時。

あと一時間後だ。


「そろそろ、家を出よう」


 そう準備している時、履歴書に証明写真がない事に気づいた。

 僕は家を急いで出て、近くのコンビニエンスストアにある機械で証明写真を撮った。

 受験以来だな。そんなことを考えながらとった証明写真は、僕が想像していたよりも不細工な僕が写っていた。


「僕ってこんな顔だったっけ」


写真自体が久々だった事もあり、久々に再会した僕の顔は、僕が知っている僕ではなかった。

 そんなこんなで時刻はすでに一時半を回っていた。


 久々の登場でキュルキュルと鳴く自転車を、これでもかとフル回転させ、駅ビルについた頃には、もう予定の五分前だった。


「すいません。二時に面接の宮川です」


「はじめまして、こちらで面接を行います」


感じは良さそうだった。

綺麗めの店内で店長も良さそうな人だった。


 僕は、初めて面接というものに成功した。


「合格です」


その言葉が今までの人生で喜ばしいと感じたのは初めてだった。

 すっかり僕は、人生を再出発した気でいた。


「じゃあ、五時にまたきて」


 今、ちょうど面接は終わったはず。

僕は耳を疑った。


「五時ですか?」


「うん。五時にまた来て。じゃあお疲れ」


 面接日から働くのか?

いやそんなことはないだろう。

たぶん、契約書かなにかだろう。

 僕はそう思いながら、家に向かった。


 予定時刻まで僕はテレビをみながら時間を潰した。

家から少しある駅に向かうために、僕は四時半に家を出た。

 到着したのは、秒針があと数秒で五時を指す時刻だった。


「すみません!遅れました!」


「そんなんいいから、早く事務室いってきて」


事務室?

どこだよそこ。

そう思いながら僕は、事務室とやらを探しに奥に足を運んだ――――。


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