何とか人ごみを掻い潜り、受付カウンターに到着した。
カウンターの奥には受付嬢と思われる端麗な顔立ちの女性が立っている。
「ようこそ、プリンシアの街の冒険者ギルドへ! プレイヤーの方ですね、本日はどういったご用件ですか?」
カウンターのまえでまごまごしていると、受付嬢が笑顔でそう話しかけてきた。
プレイヤーの方と言っているあたり、どうやらNPCとプレイヤーの見分けがついているらしい。
で、この受付嬢も本当に人間みたいだ。
頭上にプレイヤーを示すアイコンが存在しない場合はNPCで間違いないのだけれど。
……黙っていても話が進まないし、返事をしないとだよな。
俺が黙ったままでいるので受付嬢も「……?」といった顔をしている。
「あ、あの。冒険者登録をしたくて……」
「冒険者登録ですね、かしこまりました! それでは、登録手続きをいたしますね」
何とか言葉を発することができた。
しかしながら、やはり人との会話は緊張する。
受付嬢はカウンターの奥から何やら宝石のような物を取り出し、俺の目の前に差し出した。
俺の身長が足りていないので、受付嬢はカウンターからかなり前のめりになっている。
「こちらのクリスタルに触れれば冒険者登録は完了となります、詳しいご説明は必要ですか?」
「あ、お願いします」
「かしこまりました! 冒険者はランク制度が導入されており、DランクからSランクまで存在します。
スタート地点はDランクからとなり、ある程度Dランククエストをクリアしますと昇進クエストを受けることができ、
この昇進クエストをクリアすることでCランク冒険者への昇進が認められます。
各ランクによって受けられるクエストの難易度が違いますので、頑張って上位ランクを目指してください!」
「は、はひ……」
またもやマシンガントーク攻撃を受けてしまった。
ゲームの中だけど心臓に悪い。仮想のアバターだけど、心臓が脈打っている感覚があるぞ。
ひとまず、一番下のランクから始まって、クエストをこなしながら上を目指していくってシステムだな。
受付嬢が差し出すクリスタルにそっと手を触れると、カッと眩い光が放たれた。
「これで登録は完了しました、現在のランクはメニューのステータス項目から確認できますよ。
クエストを受ける場合は総合掲示板に貼ってあるクエストシートを受付までお持ちください!」
どうやら無事に登録が完了したらしい。
メニューからステータス画面を確認してみると。
プレイヤーネーム:ナギサ
レベル :1
性別 :♀
種族 :ヒューマン
ジョブ :マジシャン
ギルド :冒険者ギルド(new)
Dランク(new)
HP :30/30
MP :60/60
STR:2
VIT:2
AGI:2
DEX:20
INT:25
装備
■初心者のローブ
■初心者の杖
スキル
■初級炎魔法LvⅠ
■初級風魔法LvⅠ
■初級水魔法LvⅠ
称号
■ベータテストプレイヤー
■駆け出し冒険者(new)
■邂。繝ェ縺励c蛟吶⊇Ⅰ
ギルドの項目にしっかりと冒険者ギルド、Dランクと記載されていた。
ついでに称号欄にも駆け出し冒険者が追加されている。
文字化けは……相変わらずか。
それは置いといて、さて。
準備ができたのなら、早速冒険に向かうとしよう。
またもや人ごみを掻い潜り、クエストシートが張り出されている総合掲示板へと移動した。
うん、間近で見ると掲示板大きいな。高さにして三メートル程はあるんじゃないか?
冒険者ギルドの天井ギリギリの大きさである。
これじゃあ上の方にあるクエストに手が届かない……と思いきや、何やら掲示板の上を軽やかな身のこなしで移動しているNPCがいた。
あれは、ギルドの職員か?
先ほどの受付嬢と似た服装をしている。そして小さい、めちゃくちゃ身体が小さい。
少女のようになってしまった俺よりも身長が低くないか?
かといって、幼い顔立ちというわけでもない、青年のような顔立ちをしている。多分、そういった種族なのだろう。
マニュアルの種族リストに小人族……ハーフリングという種族があった気がする。
「はいお兄さんはこのクエストね、でお姉さんはこちら! おや、そこの新顔さん……んや、プレイヤーさんはDランク冒険者かな? 受けられるクエストを持ってくるからちょっと待っててよ」
ギルド職員と思われる小人は、俺の顔を見るやいなやそう言って掲示板の上を跳ねまわる。
さながら忍者のようだ。
どうやら冒険者たちに適切なクエストシートを渡すNPCなのだろう。
勝手に選んでくれるのならば、膨大にあるクエストシートを前にどれを選べばいいのか迷う必要が無くなる。
「はーい、お待たせ! Dランクで受けられるのはこの三つだよ。どうする、全部受ける?」
そう言って小人の職員が差し出したクエストシートに目を向けると。
『★ ゴブリン五匹の討伐』
『★ スライム五匹の討伐』
『★ 薬草十個の納品』
ゴブリンにスライムに薬草。お決まりというか、初心者向けの内容だな。
星のマークが一つだけ記されているが、掲示板に張り出されているクエストシートを見ると星が六つの物も存在する。
この星が多くなればなるほどクエストの難易度が高くなるというやつか。
三つとも受けたとしても、クエストクリアにそこまで時間はかからないだろう。
「……全部受けます」
「それじゃあ、これを持って受付で登録してね! 華々しいルーキーに祝福を!」
何とか会話できたな……。
場の雰囲気にのまれてた感じもするけど。
まだこれを受付まで持っていく必要があるから終わっては無いのだけど、あともう一息。
はやく会話が必要ないフィールドに移動したい。
受付に戻り、先ほどの受付嬢にクエストシートを渡すと、「パーティープレイを希望されますか?」と質問された。
どうやらプレイヤー同士でパーティーを組まなくてもNPCをパーティーに入れて冒険をすることができるらしい。
ぼっち救済システムだな。
ふと後ろを振り返ると……生身の人間にしか見えない冒険者NPCがサムズアップしていた。
あ、だめだ、これはNPCパーティーでもコミュニケーション能力を求められる奴だ。
ぼっちにはこの救済システムですら辛い。
「……ソロでいいです」
パーティープレイはもう少し後かな……。
現実と本当に変わらない世界だけれど、ファンタジー要素がかなり強いからそのうち慣れそうな気がする。
ともかく、クエストの受注は無事に完了したらしい。
視界の端にログメッセージで三つのクエスト受注内容が表示されていた。
受付嬢に「よいユートピアを!」を声を掛けられ、冒険者ギルドを後にした。
この世界の挨拶みたいなものだろうか。
メニュー画面から目的地を冒険者ギルドから受注クエストに変更を行う。
設定できるのは場所だけでなく、フレンド登録したプレイヤーや、クエスト討伐目標のモンスターにもできる。
ミニマップが更新され、モンスターが蔓延る街の外へと向かうべく足を進めた。
冒険者ギルドは街の端っこに存在するのか、すぐに外へ繋がる大きな門に到着した。
街の真ん中にあったらクエストを受ける度に結構な距離を移動する必要があるもんな。
そのうちワープ機能とかも開放されるのかもしれないけど。
そんなことを考えながら街とフィールドを繋ぐ門の下をくぐると――
生い茂る緑を揺らす広大な草原が目の前に広がった。
これより先はプレイヤーに襲い掛かるモンスターが蔓延る危険なエリアだ。
もはや作り出されたコンピュータグラフィックスとは思えないほどの圧巻。
高揚する気持ちを感じながら、足を踏み出した。
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