魔法少女のアルビレオ

─私の幼馴染が〈世界を滅ぼす力〉を持ってた話─
射水航
射水航

1-5 舞台

公開日時: 2021年10月19日(火) 22:33
文字数:2,413

 その後。

 

「「〈アルビレオ☆★〉でした! ありがとうございましたー!!」」

『ワアアアアーッ!!!』

 

 衣装に着替えた私たちは、アイドルユニットとしての仕事をきっちり果たしました。

 なんだかんだ言ってずっと不安だったし緊張だってしていましたが、それよりもお客さんの歓声を浴びる心地よさの方が大きくて。

 気がついたら四十五分の持ち時間が終わってしまっていました。本当に、楽しいといつの間にか時間が過ぎてしまうものなのです。

 ……いや、本当に楽しかったなあ。機会があるならまたやりたい……。

 マリナの衣装も可愛かったし。だってほら、見てくださいよこの魔法少女風の赤と白の服。本人は当初『いやさすがに魔法少女はキツイよ……』とか言っていたけどもうそんなこと全然ないんですから。

 こういう可愛い服をこの子が着てくれるならいっそ一緒に本物のアイドルとして芸能事務所からデビューを──

 

【おーい、二人とも~】

 

 ──閑話休題。

 そうですね、今はまだやるべきことが残っています。

 マリナが可愛かったエピソードはまたいつか話すとして、まずはそちらをやり遂げなければなりません。

 ANNAの魔法使いとして、このフェスで良からぬことが起きないか最後まで見届けないと。

 

【とりあえずはお疲れ様。楽しい四十五分間だったよ】

 

 舞台袖へはけた私たちの頭の中に、フスタさんの声が響いてきます。

 

【でも気持ちを切り替えて。事前の打ち合わせ通り、上手と下手に分かれてステージの監視をお願い】

【【了解!!】】

 

 下手側担当のマリナはその場に居残り。

 上手側担当の私はステージ裏を通って移動。

 ぐるりと回って持ち場へ来ると、そこではディープ・マーメイドの二体──ミハルとマキと、お揃いのTシャツを着た若いエンジニアたち十名ほどが円陣を組んでいました。そのシャツには【PROJECT DEEP MERMAID】というチーム名と、〈背中を合わせた二人の人魚姫〉というロゴがプリントされています。

 中でも少し年長っぽいリーダーらしき男性が、音頭を取りました。

 

「ディープ・マーメイド、ファイトーッ!」

「「「「「オーーーッ!!!」」」」」

「よーし行って来ォい!」

 

 円陣からミハルとマキが飛び出して、ステージへ走っていきました。その背中をじっと見守るエンジニアたち。

 まるで子供を見守る親のようなその眼差しから、邪気は一切感じられません。あんな目をする人たちがテロリストと共謀しているだなんて、とてもじゃないけど信じられません。

 

「……ん?」

 

 ふとこちらへ目をやった主任エンジニアと目が合いました。白髪交じりの短髪に無精ひげ。頬は少しこけてますが、不思議とやつれた印象は受けません。

 人懐っこそうな主任さんは、ニカッと笑って手招きをしました。

 

「もっと近くで見ていきなよ。ウチの自慢の娘たちだよ」

「あっ、はい、どうも」

 

 お言葉に甘えて主任さんの横──ステージが一番よく見える位置に立つと、ちょうどディープ・マーメイドの出番が始まったところでした。暗転していた照明が二体を照らし、桜と蒼のレーザーライトが未来的なステージを演出しています。

 その真ん中で堂々たるパフォーマンスを披露しているミハルとマキは……息を呑むほど、美しいものでした。

 

「あいつらと喋ったんだってね。喋ってみてどうだった?」

「えっ? えっとその、すごく受け答えとか自然でしたし、あとは……素直でいい子だなって思いました」

「だろだろ!? そう言ってもらえると頑張って教育した甲斐があるな~。あっいけね、オジサンなんだか涙が……」

 

 そう言って目頭を押さえる主任さん。近くにいた若手の人からハンカチを受け取りながら、年は取りたくねえなあ……と声を震わせています。

 

「あれを作ろうって言い出したのは社長でね。昔から思いつきでモノを言う奴だからさあ、初めは『またなんか言ってやがる』としか思ってなかったんだ。自律ロボットのアイドルを作って宣伝なんていくらなんでも割に合わねえだろってな。だがお前が言うなら仕方ねえって、嫌々ながら調教をおっ始めたら、だんだん俺のほうが愛着湧い゛でぎぢゃ゛っ゛でな゛ぁ゛……」

「主任さん……」

 

 とうとう泣き崩れた主任さん。周りの若手さんたちも貰い泣きを始めてしまいます。

 その様子を見た私の頭に、ある考えが浮かびました。……テロなんて、無いんじゃないかなあ。ネオ・バプテストとロケットスターの共謀なんて勘違いなんじゃないかなあ、という。

 だってここまで調べたのに怪しいものは見つかってませんし、魔法使いも私たち以外にはいませんし、ロケットスターのエンジニアさんはこの通り善良としか思えませんし。

 唯一見つかったと言えば〈強制接続器〉ですけど、それにしたって一体なにが危険かって言われたら判然としませんし……。

 だったらもう、ミナミさんが言ってた疑惑自体が何かの間違いで、ネオ・バプテストは今回なにも関係ないし、ロケットスターは清廉潔白なホワイト企業っていうのが事の真相なんじゃないかなあって……。

 

〈征こう! 天を超えて、見果てない進化へ〉

 

 ステージの上では代表曲〈エンタリング・アドレッセンス〉がサビに入って大盛り上がり。

 歌と踊りと光が、お客さんを熱狂の渦へ巻き込んでいきます。ロケットスター・テクノロジーズという企業の理想──先端技術を使いこなし、月へ、火星へ、木星へ……ゆくゆくは星間航海へ漕ぎ出していく人類という夢のビジョンに、見る者全てが巻き込まれていくようです。

 率直にすごい……。そう思った時。

 

「主任、少しよろしいですか」

 

 涙を滂沱と流し続けている主任に、若い男性がおずおずと話しかけました。パソコンで機体の様子をモニターしていたエンジニアさんです。

 

「ずびっ……どうした?」

「なんかバックグラウンドで変なプログラムが走ってるんですよ」

「な、なんだとォ?」

「ほらこれ……この〈Forcibly Connector〉とかいうヤツ。こんなんインストールしましたっけ?」

 

 ────!?

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