「人の母親ダシにして盛り上がってんじゃねえーっ!」
ダァン!!! とドアをヤクザキックで破壊し、大教室へ真っ先に突入していったのは一体だれか。
そう、彼らが話題にしていた張本人──船橋マリナその人です。
「なーにが自由党重鎮の犯罪リストじゃ! わたしはそんなもん持っとらんわ!」
「ふ、船橋マリナ!? その白い制服は……!」
壇上の内田は呆気にとられ、口をパクパクさせながらマリナの方を見ています。亡くなったお母さんをネタにされてキレているマリナの方を。
湧き上がっていたオーディエンスも同じく、「船橋マリナ……」「写真より可愛いな」「隣の色白の子めっちゃ綺麗」「なんでここに……!?」などとざわつき始めました。
「その制服はまさかANNA!? クソッ、ANNAに取られたとかいう話はマジだったのか……!」
「マジよ! それより、よくも人の母親をしょーもない陰謀論のネタにしてくれたね!」
「それにしてもANNAが来たか、厄介だな……」
内田は逃げ道を探るようにキョロキョロと左右を見回しました。
そして教壇の脇にある非常階段に目をつけ、そこから逃げていこうとします。
しかしその時、マリナが〈杖〉を振り抜いて魔法を行使。その小さな体から冷気の魔力が湧き上がり、白い霧のようなエネルギー弾が飛んでいきます。
エネルギー弾は内田に先んじて非常階段のドアに着弾し、氷で固く閉ざしてしまいました。悔しそうに舌打ちする内田。
「逃がさないから!」
「……戦るしかないか……!」
すると内田もズボンのポケットから〈杖〉を引っ張り出して起動。私たちの方へ向けながら、同志たちに言いました。
「おい、みんな逃げろ! 今からここは戦場になる!」
「逃げろって!?」「どういうことですか内田さん!?」「ていうかなんですか今の光!」「まるで意味が分からんぞ!」「あんたを置いて行けるわけないでしょ!」
一方、それを聞いたナツミ教官も呼びかけます。
「アタシたちからも警告するわ。ここにいたら戦闘に巻き込まれるわよ。災害用の避難誘導プログラムを作動するから、それに従って逃げなさい」
【フスタ、学内ネットワーク経由でカタギの避難誘導をお願い。それと記憶処理班を下で待機させて。ここで見たものを忘れてもらうわよ】
【りょーかーい】
……裏でフスタさんにも指示を出しながら。
一流のハッカーでもあるフスタさんは即座に学内ネットワークへ侵入し、館内全ての非常ベルを作動。ジリリリリ!!! というけたたましい音が鳴り響くと、カタギの人たちもこれから起こることを本能的に理解したのか、列をなして速やかに出ていきました。
これから起こること──そう、魔法使い同士の戦闘。その火蓋が切って落とされることを。
最後の一人が出ていってこの場にいるのが魔法使いだけになったのを確かめると、教官はにやりと笑って腕組みしました。
「みんな逃げろ、ねえ。まだカタギの身を案じるだけの良心は残ってたのね」
「あれだけの人数が一度に死んだら、また人を集め直さなきゃいけなくなるだろ」
「そんな必要なかったのに。あんたはこれからこの子たちにボコボコにされて組織の情報を吐くんだからさ」
「吐いてたまるかよ……こうなったら最初から本気で行ってやる! うおおおおッ!」
すると内田は教卓に〈杖〉を突き刺し、両手で握り込んで力を込め始めました。ぞっとするほど莫大な魔力が励起し、その足元で液体の水が渦を巻き始めます。あいつの属性は水流か!
次第に水流の渦は巨大化し、瞬く間に内田の全身を飲み込むまでとなり、大教室の天井にまで迫っていきます。
そして水の塊から腕が生え、人の上半身の形を取り──内田は、筋骨隆々の水の巨人に変身したのです。
……で、デカい……。
「だったらこっちだって、人の母親を愚弄したこと後悔させてやる! 〈ニトロセイバー〉ッ!」
しかしマリナは全く怯むことなく、内田を睨みつけて吼えました。冷気の魔法を発動し、その〈杖〉に固体の窒素を纏わりつかせて刀に変えていきます。
そうだ。私だって敵からマリナを護り抜くんだ。
だったらまずはこいつを捕まえないと……! ビビってちゃダメだ!
【Main system: Activating Combat Mode】
女性の声のアナウンスが流れ、〈杖〉のシステムが戦闘モードに移行。インストールされた〈魔法式〉の一覧が頭の中に流れ込んできます。
懐に飛び込んだ敵は殴れないはず、自分を殴ることにもなるから。だったらインファイトを仕掛けて一気に畳み掛けてやる!
「〈プラズマセイバー〉ッ!」
【->”Plasma Sabre” engage】
その魔法の名前を叫んでセーフティロックを解除し、電撃の魔力を流し込む。すると〈杖〉の周囲で空気が電離し、紫色に輝くプラズマの剣となりました。
「行くよマリナ」
「うんっ」
机の上に足をかけながらマリナと目配せ。
息を合わせて机の端を蹴り、刀身を振りかぶりつつ一気に距離を詰める。
そして縦二文字に、叩きつけるッ!
「グオオオオッ……!」
「「もう一発!!」」
からの二撃目、今度は横二文字に薙ぎ払う!
超低温と超高温の同時攻撃をブチ込まれ、水の巨人は痛みに苦しみ悶えます。巨体を構成する水が凝固し、あるいは蒸発して内田の制御を離れ、体が揺らいで崩れかけます。
いける、このまま三発目でトドメを……!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!