東京コロニー南西部、第二フロート・ネオ台場。
私たちが初めて魔法を目撃し、魔法使いとなった場所。
そして私たちが属する国際連合特務機関〈ANNA〉の本部がある場所です。
内田の身柄を担当の部署へ引き継いで、私たちは十九階の〈第一秘書官室〉を訪れました。ナツミ教官が部隊を代表してドアをノック。
「深川1佐よー、任務完了したわ」
『お入りくださーい』
生真面目そうな女性の声がして、すいーっと滑らかな動きでドアが開きます。
中はちょうど社長室みたいな感じの広い仕事部屋になっていて、奥には執務用のデスクが、手前には応接用のテーブルとソファーが。
その白くてふかふかのソファーには、ANNAの白制服を大胆に着崩した金髪の白人女性と、黒い髪をツーサイドアップにした私服姿の(つまりそもそも制服を着てない)日本人女性が、隣り合って腰掛けていました。ガラステーブルにはお紅茶と、チョコやクッキーといった甘いお菓子が。
「お疲れさまー、よく頑張ったねえ」
と気さくに労ってくれた金髪の人が、任務中ずっと通信越しに話してたオペレータのフスタさん。
「初出撃お疲れさまです。それと初勝利おめでとうございます」
そして慇懃に祝ってくれたこの私服の人が、この部屋の主にして私たちの上官──事務局第一秘書官にして作戦統括官の月島ミナミさん。今年で二十五歳になる1佐です。
ミナミさんは私たち三人の分のお茶も直々に淹れて、座るよう促してくれました。
「それじゃ、初めての実戦を採点しましょうか」
「「採点ですか?」」
「ええ」
私たちがちょっと戸惑うと、ナツミ教官がいきなりパチン! と指を鳴らしました。
するとそれを合図に天井からホログラム画面が三つ降りてきて、一つがナツミ教官の前に、一つがミナミさんの前、そしてもう一つが私とマリナの前で固定されました。
「「戦闘記録……?」」
「はい、戦闘記録です。任務中に戦闘が起きた場合、オペレータが色々とデータを取って僕に提出することになってるんです」
と、ミナミさんが教えてくれます。
「具体的には戦闘の勝敗、決着までにかかった時間、使った魔法とその回数、受けたダメージと与えたダメージ、戦闘中の精神状態やバイタル、装備品の損傷やその他器物の損壊、〈致し方ない犠牲〉の有無や程度などなど……まあ本当に色々です。で、戦いぶりを総合的に評価して〈バスティングレベル〉をつけるんですよ、1からSまでの十一段階で」
「まあ要するに、高いバスティングレベルを取れる奴は、優秀で才能のある魔法使いってわけ」
と、ナツミ教官が補足説明。
でも何に使うんだろその数字。人事評価とか?
私がそう思っていると、フスタさんが答え合わせをしてくれました。
「バスティングレベルは魔法使いの人事評価に使われるの。で、年平均レベルの高い魔法使いは……お賃金が死ぬほど貰える!」
「「お、おおー……」」
「……ってあれ? なんだか反応薄いね……もしかして煩悩断ち切ってるタイプ?」
私とマリナの反応が拍子抜けだったのか、きょとんとした顔をしたフスタさん。……ちょっと申し訳ないな。
いやね、そういうわけじゃないんです、そういうわけじゃ。そりゃ私だって煩悩はあるし、お金が欲しくないと言えば嘘になるけど……だって、ねえ?
「わたしはただ責任感じてるだけですし……」
「私はただこの子を護りたいだけですし……」
「そ、そう……最近の若い子って殊勝なんだね……」
「ま、戦う理由はなんでも結構。お金の話はこの辺にして、とりあえず終わったことの総括をしましょうか」
ミナミさんはそう言って指を鳴らし、ホログラム画面をもう一つ呼び出しました。
【戦闘記録をここにシュゥゥゥーッ!!】とだけ書かれた簡素なそれは、どうやらバスティングレベルを算出するプログラムのようで。
「ではここに戦闘記録を放り込んで、と。お二人のレベルは……」
ミナミさんが画面の指示に従い、ホログラムを掴んで動かすと、戦闘記録の画面が吸い込まれて消えていき。
算出プログラムの方には昔ながらの進捗メータが表示され。
それが満タンになると画面が切り替わって……結果は?
【バスティングレベル:S 超!エキサイティン!!】
「百点です」
「「……おおー!!」」
すごい!
……すごいすごい、私たち百点だって!
ああ、思わず大きな声を出しちゃった。他の部屋の迷惑だったかもしれない……。
けどまあいいよね。だって初出撃で百点だもの。これってとってもすごいことじゃない!?
「見てよマリナ百点だよ!」
「わたしだって百点だよ!」
「「私すごくない!? めっちゃすごいよ!!」」
ぱちーん☆★ と景気よくハイタッチ。
それを見たフスタさんは、「やっぱりお金欲しいんじゃん?」とニヤニヤ笑い。相方のナツミ教官は「そういうわけじゃなさそうだけども」と苦笑いしています。
そしてミナミさんはにっこりと微笑んで言いました。
「お二人は新米ですから、色々と補正は入っています。だとしてもこれはずば抜けた好成績ですよ。これからもこの調子で、それぞれの目的のため頑張ってくださいね」
「「はいっ!!」」
……こうして、魔法使いになった私とマリナの初めての仕事は終わったのです。
魔法とかネオ・バプテストのことを知ったあの日から今まで、不安とか困惑とかは沢山ありました。だってほんのちょっと前までは、魔法なんてのはアニメやマンガの中だけのものと思ってたんですから。まさかそれが実在してただなんて露ほども思っていなくて。
だから、本当に上手くやっていけるのかなと思ってたんです。マリナと一緒にいたいならやるしかないんだ、と言い聞かせつつも。
でも今ちょっと自信が持てました。
たぶん私、上手くやっていけると思います。マリナのこと、護っていけると思います。
だから……月並みだけど、これからも頑張ろうって。
(初章 魔法の世界:おしまい)
【次回予告】
時に、西暦2050年5月。
今度はナツミ教官のサポート無しで、自分たちだけでの出撃を命じられた私たち。
でもそれは「アイドルになりすましてフェスへ潜ってこい」というもので……。
でもこのフェス、実はなんだかとんでもない現場だったみたいで。
会場に魔力爆弾が仕掛けられてるって!?
次回『第一章 究極の魔法』!
読んでくださいね!!
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