「危ない!」
「「!?」」
しかし教官の声が聞こえたのとほぼ同時。
私たちは背中から壁に叩きつけられました。巨人に服を摘まれて投げ飛ばされたのです。
訓練でもここまでされたことはありません。肺が一時的にカラになるほどの衝撃。そして吐き気と目眩。視界がチカチカして、立ち上がろうにも足がふらついて上手く立てない……。
『なあ、やっぱりやめにしないか?』
私たちがぜえぜえ言っていると、内田が話しかけてきました。
『僕も男だ。いくら魔力のおかげで頑丈とはいえ、女性に手を上げるのは辛いものがある。頼むからここは見逃してくれないか』
「なにが僕も男だー、よ……」
机に寄りかかって立ち上がりながら、マリナが声を絞り出しました。
「てか見逃すわけないじゃん、もしかしてばかなの?」
『なあ頼むよマリナさん、もう君のことを付け狙ったりしないしネオ・バプテストも抜ける。集めた手下も解散させるよ。電撃魔法の君も、どうかこの通り。痛い思いはしたくないだろ?』
「そ、そんな頼みが……聞けると、思うんですか……?」
何考えてるのかなこの男は。一度投げ飛ばされたぐらいで今更ビビると思ってんの?
絶対ここで捕まえてやる。ネオ・バプテストの魔法使いは一人だって逃しはしない。
私の幼馴染に危害を加える輩を野放しにするわけにはいかないんだ。
『そうか……それは残念だ』
私たちの返事を聞いた内田はわざとらしくため息をつきました。その声音には残念どころかむしろちょっと嬉しいという下衆な気持ちがちらつきます。
傷ついた身体をすっかり修復してしまった水の巨人は、その太い腕に力を込め、ボコボコと筋肉を隆起させました。己の力を見せつけるように。
『だったら心苦しいが、一発ずつだけ殴ることにしよう。悪く思わないでくれよ? 僕だって本当は嫌なんだから』
「チカイ!」
「うん!」
「「……来るなら来やがれ、ネオ・バプテスト!!」」
プラズマの剣に魔力を注ぎ直し、呼吸を整え、構えを直す。
敵の動きを観て、見通して、出鼻を挫く──先の先を取ってやる!
……今だ!
敵が動き出すより先にこちらが動く。
マリナと息を合わせて踏み出し、動作の起こりを捉えて叩く。
『なっ──!?』
先の先を取られた内田は居着いてしまい、飛びかかっていく私たちに大きな隙を晒す。
取った!
水の巨人の首を、両側から袈裟懸けに。
斬り、落とす!
『グオオオオオオオオオ────────ッッッ!!!???』
私とマリナの描いたX字状の光の軌跡。それが水の巨人の身体を侵蝕し、崩壊させていきます。
そして巨人を中で操っていた内田本体が支えを失い、重力に従って床へ落下。どさり、と力なく仰向けに倒れました。
「……これでわたしたちの勝ち」
「ちくしょう……」
「それじゃ、ANNA本部まで来てもらうから。〈ハンドカフス〉!」
マリナが魔法で内田の両手を麻痺させ、〈杖〉との脳波リンクを遮断。
私も手を貸して内田を立たせ、二人で引っ張っていきます。
出入り口のところまで来たとき、ずっとそこで腕組みして見ていたナツミ教官がニコッと笑って言いました。
「二人ともよくやったわね。カッコよかったわよ」
「「そ、それほどでも……」」
「さて、アタシたちの仕事はこれでお終い。あとは本部に戻って報告よ」
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