怪談∞(エイト)

二階堂次郎
二階堂次郎

「無霊感」

公開日時: 2020年9月2日(水) 20:00
文字数:1,041

第2夜

東京都の病院に勤める看護師のEさんは生まれてこのかた霊現象というものに遭遇したことがない。病院で仕事をしている以上、そういったことも覚悟していたのだが、不思議なことが起きたりはしなかった。

それが偶然なのか、そもそも霊というものがいないのか、はたまた自分には霊感がないのか、今までわからなかったが、それがはっきりする出来事があった。


転勤して新しい病院に勤務するようになった初日のこと、とある病室のナースコールが鳴った。

担当の看護師は2人いたが、1人は休みで、もう1人は休憩中だった。こういう時はたいてい新入りが行くことになっているので、Eさんが向かうことにした。


急いでカルテを見ると該当の患者さんは右足を骨折していたが、それ以外の外傷はなかったので、どうやら命に関わることではなさそうだった。

Eさんが向かうと、何故だかわからないが、患者さんは怒っている様子だった。


「病室を変えろ! 今すぐ!」


出会い頭にそう怒鳴ってきた。

こういう時はあくまで落ち着いて事情を聞き、なんとかなだめるのが常だ。


「落ち着いてください。どうしたんですか?」

「隣りの喋り声がうるさくて眠れないんだよ!」


Eさんは戸惑った。なぜなら隣の病室は現在使われておらず、何よりEさんには喋り声などまったく聞こえていなかったからだ。

「えっと、先ほどまで隣の病室で喋り声がしていたんですか?」

Eさんは患者さんに質問をした。


するとその患者さんは途端に真顔になり、逆にEさんに尋ねた。

「あんた、聞こえないのか?」

今度はEさんが真顔になる番だった。聞こえないとはどういうことだろうか。今も喋り声がしているのだろうか。


そうこうしていると先輩の看護師が病室に駆けこんで来て、

「すいません、隣の患者さんにはよく言っておきますので!」

と患者さんをなだめた。


Eさんはあとで先輩に呼び出された。

「ごめん、まだ教えてなかったね。あの病室だと時々ああいうことがあるの。ちょっと気持ち悪いと思うけど我慢してね」

「ああいうことって何ですか?」

「…………もしかしてあなた、聞こえないの?」

Eさんが戸惑いながら頷くと、先輩はそのまま婦長のところに駆けていった。


Eさんは翌日からその病室の担当になった。看護師が理由もなく急に病室を移動になるなんて初めてだったし、前任の看護師からは菓子折をもらうほど感謝されたが、Eさんにはよくわからなかった。


結局、結婚して退職するまでの2年間、Eさんはずっとその病室の担当だったが、何か喋り声などが聞こえることは1度もなかった。

こんばんエイト〜!

今夜もお会いできて嬉しいです!


こんな話を書いている私ですが、実は今まで幽霊を見たことはありません。

けれどというか、だからこそ、身の回りの人や、その知り合いの人に不思議な話があるかどうか、聞いてしまうのかもしれません。


それでは、また明日もこの時間にお会いできれば!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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