第2夜
東京都の病院に勤める看護師のEさんは生まれてこのかた霊現象というものに遭遇したことがない。病院で仕事をしている以上、そういったことも覚悟していたのだが、不思議なことが起きたりはしなかった。
それが偶然なのか、そもそも霊というものがいないのか、はたまた自分には霊感がないのか、今までわからなかったが、それがはっきりする出来事があった。
転勤して新しい病院に勤務するようになった初日のこと、とある病室のナースコールが鳴った。
担当の看護師は2人いたが、1人は休みで、もう1人は休憩中だった。こういう時はたいてい新入りが行くことになっているので、Eさんが向かうことにした。
急いでカルテを見ると該当の患者さんは右足を骨折していたが、それ以外の外傷はなかったので、どうやら命に関わることではなさそうだった。
Eさんが向かうと、何故だかわからないが、患者さんは怒っている様子だった。
「病室を変えろ! 今すぐ!」
出会い頭にそう怒鳴ってきた。
こういう時はあくまで落ち着いて事情を聞き、なんとかなだめるのが常だ。
「落ち着いてください。どうしたんですか?」
「隣りの喋り声がうるさくて眠れないんだよ!」
Eさんは戸惑った。なぜなら隣の病室は現在使われておらず、何よりEさんには喋り声などまったく聞こえていなかったからだ。
「えっと、先ほどまで隣の病室で喋り声がしていたんですか?」
Eさんは患者さんに質問をした。
するとその患者さんは途端に真顔になり、逆にEさんに尋ねた。
「あんた、聞こえないのか?」
今度はEさんが真顔になる番だった。聞こえないとはどういうことだろうか。今も喋り声がしているのだろうか。
そうこうしていると先輩の看護師が病室に駆けこんで来て、
「すいません、隣の患者さんにはよく言っておきますので!」
と患者さんをなだめた。
Eさんはあとで先輩に呼び出された。
「ごめん、まだ教えてなかったね。あの病室だと時々ああいうことがあるの。ちょっと気持ち悪いと思うけど我慢してね」
「ああいうことって何ですか?」
「…………もしかしてあなた、聞こえないの?」
Eさんが戸惑いながら頷くと、先輩はそのまま婦長のところに駆けていった。
Eさんは翌日からその病室の担当になった。看護師が理由もなく急に病室を移動になるなんて初めてだったし、前任の看護師からは菓子折をもらうほど感謝されたが、Eさんにはよくわからなかった。
結局、結婚して退職するまでの2年間、Eさんはずっとその病室の担当だったが、何か喋り声などが聞こえることは1度もなかった。
こんばんエイト〜!
今夜もお会いできて嬉しいです!
こんな話を書いている私ですが、実は今まで幽霊を見たことはありません。
けれどというか、だからこそ、身の回りの人や、その知り合いの人に不思議な話があるかどうか、聞いてしまうのかもしれません。
それでは、また明日もこの時間にお会いできれば!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!