第1夜
長野県のとある廃墟には首を吊った女性の幽霊が現れるという。
幽霊の正体は学校でいじめられて自殺したA子さんだという噂である。
幽霊の目撃例はいつも一緒で、
午後4時ごろ、廃墟の側を通ると2階の部屋のカーテンに首吊りの影が見える。もしやと思い中に入ると長い黒髪に白いTシャツ、デニムのジーパンを履いた女性が首を吊っている。大慌てで警察を呼ぶと、いつの間にか首吊り死体は消えている、というのものだ。
A子さんの自分をいじめたクラスメートたちへの怨念は今なお残り続けているのかもしれない。
さて、この怪談には実はおかしな点がある。
というのも、A子さんの死因についてだが、警察の調べによれば、これは首吊りによる即死ではなかった。
一酸化炭素中毒である。
彼女の両親によると、事件の前の晩、A子さんはいつものように夕飯を食べ、風呂に入り、そのまま床につき、両親が寝静まるのを待って家を出たようだ。
そしてどうやら廃墟の2階へ向かい、窓を閉め、部屋を密閉し、ボロボロのベッドに横になり、そこで練炭を焚いたようなのだ。
彼女は翌朝、犬を散歩中だった老人が廃墟から漏れ出た練炭の匂いに気づき、2階に上がったところで発見された。
老人によれば彼女は長い黒髪に白いTシャツでデニムのジーパンを履いており、まるで眠っているようだったという。
そもそも、彼女は首を吊っていなかったのだ。
そしてもう一つおかしな点は、彼女の霊が目撃される時間帯である。
首吊りの影は決まって午後4時ごろ、廃墟を通りかかった人によって目撃されているのだが、前述の通り、A子さんが死んだのは真夜中であり、その死体が目撃されたのは翌日の早朝である。
では、夕方現れる首吊りの影はいったい何なのだろうか。
もちろん、A子さんではないという線もある。だが目撃者による白いTシャツにジーパン姿というのは、確かにA子さんが最初に発見された時の服装で間違いない。
死因と時間帯が何故か変わっているのだ。
警察への度重なる誤報により、元々貼られていた進入禁止のテープは有刺鉄線へ変わり、2階のカーテンは影ができないよう黒色のものへと取り替えられた。だが今度は、廃墟の側を通った近隣住民から、縄がキシむようなギシ、ギシ、という音が多数報告されている。
A子さんは今でもまだ、あの廃墟で首を吊っているのだ。
だが、それが何故なのかは、未だにわからない。
はじめまして、二階堂次郎と申します。まずは読んでいただいてありがとうございます!
「怪談∞(エイト)」では1話ごとに私が見聞きした話と、私の頭の中の話の、どちらかをお送りします!
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終わらない恐怖をお楽しみください!
それでは、明日もまたこの時間にお会いできれば!
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