第4夜
父の友人のFさんが社員旅行で群馬県に行った時の話
Fさんの会社では毎年部署ごとに社員旅行に行くのだが、運転手をその年の新卒が引き受けるのが習わしだった。
その年はちょうどFさんがドライバーで、Fさんはひどくうんざりしていた。
というのも、ただでさえそこまで楽しくもない社員旅行で、ハンドルキーパーであるドライバーは酒を飲むことができないからだ。
幸い、小さな会社だったので部署のメンバーは6人ほどと、それほど大所帯ではない。
Fさんは仕方なく運転手を引き受けた。
夕方に宿に着き、荷物を下ろし、温泉に浸かると、すぐに宴会が始まった。
みんなでビールを飲み、仕事の愚痴に花を咲かせる。
最初は嫌々参加していたAさんも、旅先の開放的な空気に当てられて、羽を伸ばすことができ、宴会もそれなりに楽しむことができた。
やがて、皆が顔を赤くして笑っている中で、ひとり素面のFさんは、ふと、先輩の1人が虚空をボーッと見つめていることに気がついた。
酔いが回って頭が働かないのか、電球がぶら下がった天井を何も言わずにジッと見ている。
気になったFさんが話しかけても応答はなく、ただ視線を、何もない空中に注いでいる。
やがて他のメンバーもその様子に気がついたのか、どうした? と一緒になって天井を見た。
するとその先輩たちも、あ、と素っ頓狂な声を上げて、天井を眺め始めた。
それに釣られて天井を見始め、気づけば部屋にいる全員が天井の虚空を眺めていた。
どうやら先輩たちにはそこに何かが見えるらしい。
だが、どんなに目を凝らしてもFさんには何も見えない。
それはとても奇妙な光景だった。
恐る恐る、何か見えるんですか? と先輩たちに尋ねるも、あー、とか、うーん、という返事しか帰ってこない。
奇妙な時間はしばらく続き、やがて先輩のひとりが、そろそろ寝るか、と照明を落とした。
いったい先輩たちは何を見ていたのか、気になるAさんは寝るに寝られず、まんじりともせずに朝を迎えた。
翌朝、酔いの覚めた先輩たちに朝食の席で、昨晩はいったい何を見ていたのかを聞いてみた。
だが、覚えていない先輩がほとんどだった。何かを見ていたとは思うのだが何を見ていたかまでは思い出せないらしい。
ただ1人、1番最初に天井を見始めた先輩だけが覚えており、そこに何があったのか教えてくれた。
それは傘だった。
真っ黒い傘が天井から1本、取手を上にしてぶら下がっていたのだそうだ。
やがて傘はゆっくりと開いたかと思うと、次の瞬間にはパッと消え、まるでそれが何かの合図だったかのように、我に返った先輩が電気を消したのだそうだ。
その話を聞いた他の先輩たちも、そういえば傘だった気もする、と口々に呟いた。
その後は特にこれといって変わったこともなく、社員旅行は終わった。
結局あの傘がなんだったのかは未だに謎のままである。
こんばんエイト〜! 私です!
本作は体験談かフィクションか、どちらか明記していないのですが、ホラーに詳しい人にはわかりそうですね〜
もしわかった! という人がいらっしゃいましたら是非コメント欄で教えてください〜
それでは、明日もまたこの時間にお会いできれば!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!