怪談∞(エイト)

二階堂次郎
二階堂次郎

「駐車場の子どもたち」

公開日時: 2020年9月11日(金) 20:00
文字数:1,728

神奈川県に住むUさんからきいた話。

Uさんは大学の心霊サークルに所属しており、部員たちで怖い話をしたり心霊スポットに行ったりしているそうだ。

これはとある居酒屋にある駐車場の心霊スポットに行った時の話。


その駐車場は車が横に5台、縦に2列で計10台が停められるようになっている。

噂によれば向かって左側の列の、奥から4台目の場所に、真夜中に車を止めて、車の中からフロントガラスを見ると、無数の手形が浮かび上がるというものだった。

これは怖そうだ、ということで噂を聞いて来てくれた女の子と、Uさんと、カメラを持っている男の子の3人で行くことになった。

 

週末、メンバーの中で唯一免許を持っているAさんの運転でその居酒屋に向かい、無事に深夜2時、駐車場に到着した。

だが、見ると日曜日ということもあって小さな居酒屋の駐車所はその半分くらいが埋まっている。

さらに運の悪いことに件の場所、左側の列の奥から4番目の場所にもボロボロの軽自動車が止まっていた。

噂ではその場所で車の中からフロントガラスを見ないと無数の手形を見ることはできない。

だがそこに車は停められない。

助手席の女の子の提案で、週末ではなく平日であれば利用する客も少ないのではないか、ということになり、仕方なくUさんたちは平日に出直すことにした。

 

次の水曜日の深夜、同じメンバーで駐車場に向かったそうだ。

確かに女の子の予想通り平日の居酒屋の駐車場はすいていた。だが、残念なことにあの噂の場所にだけ、また車が止まっている。

しかも以前来た時と同じ軽自動車のようだった。

これではまた噂を確かめられない。しかし、もう1度出直してくるのは流石に面倒くさかったらしい。

なので仕方なく、左の列の奥から4台目ではなく3台目の場所に車を止め、そこでフロントガラスを見てみることにした。


後部座席の男の子がフロントガラスをビデオで撮影し始めた。運転席にいるUさんもフロントガラスを観察する。

だが、何も起こらない。

噂通りやっていないせいか、噂自体がデマなのか。それはわからないが、1時間ほど見張っても何も起こらなかった。

これにはメンバーも脱力感が否めない。

助手席の女の子も、諦めてしまったのか、はたまた深夜で眠いのか、フロントガラスを見ずに窓の外を見ている。

Aさんも、せめて左隣で試せれば、と思っていたが、ふと、あることを思いついたそうだ。

ビデオカメラを使って左隣の車のフロントガラスを外から撮影してみてはどうだろうか。

噂だとフロントガラスを車の中から見なければならない、となっていたが、このまま帰るよりはマシだ。

後部座席の男の子もこれに賛同し、ビデオカメラを片手に一緒に車から降りようとした。


その時だった。


「車から降りちゃダメ!」

突然、助手席の女の子が叫んだ。

Uさんも男の子もその声に驚いて車のドアを離し、女の子のほうを向いた。

見ると、ブルブルと震えている。

「どうしたの? 何か見えたの?」

Uさんが半ば心配しながら、半ば好奇心で尋ねると

「いいから! 早く車出して! 急いで!」

と叫ぶ。

Aさんも男の子も、女の子の叫び声に、これはただ事ではないな、と思い、車から降りるのをやめ、諦めて家に帰ることにした。

Uさんは車のエンジンをかけて居酒屋の駐車場をあとにした。


帰り道、Aさんたちが女の子に何があったか尋ねると、先ほど見たものについて話してくれた。

女の子は途中からフロントガラスではなく窓の外を見ていたのだという。

すると、気づいたら小学生くらいの子どもたちが窓の外から女の子をじっと眺めていたのだという。

だが女の子は不思議なことに、はじめは恐怖感などはなく「なんで居酒屋の駐車場に子どもがいるのだろう」ぐらいしか思わなかったそうだ。

そこで何分か子どもたちと見つめあって、ようやく、こんな時間に子どもたちだけで出歩いているのはおかしい、と気づき、二人に知らせようとしたのだそうだ。

その時、Uさんが車の外に出ると言い出した。すると、無表情だった子どもたちが突然、にやり、と笑ったので、恐怖に駆られ、慌てて二人を止めたのだという。


あの子どもたちはなんだったのか、生きている人間だったのか、それともこの世のものではない何かなのか、それは今でもわからないそうである。





それでは、明日もまたこの時間にお会いできれば!

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