「『太閤御物刀絵図』って……たしか、豊臣秀吉が名刀を書き残したっていう刀剣書……」
それも、実物大の刀剣の写し絵や、当時の作刀状況や関わった人まで、事細かに書かれている。全てで五つ存在し、『刀剣改番』の中で選ばれた誰かが管理しているらしい。それも五人が一冊ずつ管理しているのか、一人が複数管理しているのか、団体で一冊を管理しているのか。全てが謎に包まれている。
分かっている事は一つ。物が人の価値を決めるこの時代において、表に出たら暴動が起きる程の代物だって事。
(たしか、誰が持っているのか不明なのも、それを防ぐためなんだよね?)
それだけではなく、写しも何冊も存在するらしいが。
「まあ、といっても、これはその内の一枚に過ぎないけれど」
「写しって事?」
「半分正解で、半分間違いかな」
そう雛菊さんは僕に答えた。
「これは『太閤御物刀絵図』の内の一冊の中から一枚を写したもの。つまり、写しといっても、中身は本物って事」
『太閤御物刀絵図』の写しは、混乱を防ぐために一部間違った情報をあえて書いているらしい。だけど、本物から正確に写し取ったものなら、これはほぼほぼ本物だ。
少なくとも、鷹巣宗近についての情報は――。
「ま、待て。何で、そんな物を、お前みたいな……」
「分からない坊やね」
動揺しながら言った桂さんの言葉に、雛菊さんは呆れながら答える。
「そんなの、お姉さんが『太閤御物刀絵図』を継承している一人と知り合いで、その人の頼みで、そこから鷹巣宗近の写しを貰ってきたに決まっているでしょう」
「本物だと!?」
「そうよ、あなたが持っている、偽物の『太閤御物刀絵図』と違って、ね」
「……っ」
空気ががらりと変わった。
桂さんは、明らかに動揺した様子で後ろに下がった。しかし、狭い部屋だ。逃げるどころか逆に追い詰められる形で壁際に追いやられた。
「いや、その……」
「はぁ、もうこうなったら仕方ねえ。白状するよ」
吉原さんが両手を挙げた。
「吉原、貴様! 裏切るつもりか!?」
「そもそも、俺はあんたに雇われたわけじゃない。俺の取引相手は、あくまであんたの父君だ。そこをはき違えるなよ。それに……」
と、吉原さんは一度僕を見た後――
「俺にも、『刀剣改番』としての誇りが、まだ残っていたようだからな」
「『太閤御物刀絵図』って……たしか、豊臣秀吉が名刀を書き残したっていう刀剣書……」
それも、実物大の刀剣の写し絵や、当時の作刀状況や関わった人まで、事細かに書かれている。全てで五つ存在し、『刀剣改番』の中で選ばれた誰かが管理しているらしい。それも五人が一冊ずつ管理しているのか、一人が複数管理しているのか、団体で一冊を管理しているのか。全てが謎に包まれている。
分かっている事は一つ。物が人の価値を決めるこの時代において、表に出たら暴動が起きる程の代物だって事。
(たしか、誰が持っているのか不明なのも、それを防ぐためなんだよね?)
それだけではなく、写しも何冊も存在するらしいが。
「まあ、といっても、これはその内の一枚に過ぎないけれど」
「写しって事?」
「半分正解で、半分間違いかな」
そう雛菊さんは僕に答えた。
「これは『太閤御物刀絵図』の内の一冊の中から一枚を写したもの。つまり、写しといっても、中身は本物って事」
『太閤御物刀絵図』の写しは、混乱を防ぐために一部間違った情報をあえて書いているらしい。だけど、本物から正確に写し取ったものなら、これはほぼほぼ本物だ。
少なくとも、鷹巣宗近についての情報は――。
「ま、待て。何で、そんな物を、お前みたいな……」
「分からない坊やね」
動揺しながら言った桂さんの言葉に、雛菊さんは呆れながら答える。
「そんなの、お姉さんが『太閤御物刀絵図』を継承している一人と知り合いで、その人の頼みで、そこから鷹巣宗近について書かれた頁の写しを貰ってきたに決まっているでしょう」
「本物だと!?」
「そうよ、あなたが持っている、偽物の『太閤御物刀絵図』の写しと違って、ね」
「……っ」
空気ががらりと変わった。
桂さんは、明らかに動揺した様子で後ろに下がった。しかし、狭い部屋だ。逃げるどころか逆に追い詰められる形で壁際に追いやられた。
「いや、その……」
「はぁ、もうこうなったら仕方ねえ。白状するよ」
吉原さんが両手を挙げた。
「吉原、貴様! 裏切るつもりか!?」
「そもそも、俺はあんたに雇われたわけじゃない。俺の取引相手は、あくまであんたの父君だ。そこをはき違えるなよ。それに……」
と、吉原さんは一度僕を見た後――
「俺にも、『刀剣改番』としての誇りが、まだ残っていたようだからな」
少しだけ、瞳が優しくなった――ような気がした。
「ちょっと、どういう事? ちゃんと説明しなさいよ」
お姉ちゃんが吉原さんと雛菊さんを交互に見ながら叫んだ。
「ああ、そうだったわね……簡単にいうと、全ては繋がっているって事」
雛菊さんが、壁によりかかりながら言った。その何気ない仕草すら、少し色っぽい。
(痛い!)
またお姉ちゃんにつねられた。
「アヤメちゃんには、話したでしょう? 最近、巷でとある刀帳に書かれていた刀剣ばかりが狙われているって……そこの坊やに」
「……っ」
雛菊さんに流し目で見られ、桂さんは顔を青ざめた――けれども少しだけ頬が紅い。
「脅迫に買収、ありとあらゆる手を使って、とある刀帳に書かれた刀剣を収集していた。そして、その内の一つが、その脇差……」
「その、とある刀帳って……まさか……」
お姉ちゃんは何か察したように、桂さんと、何故か笠の男を見た。
「ええ、『鑑定協会』が管理している、この世に存在する名刀が記載された『太閤御物刀絵図』。その内の一冊の……写し、でしょう?」
「……っ」
雛菊さんの挑発するような言葉に、桂さんは視線を逸らした。
「写しっていうと……模写って事ですよね?」
「いいや、違うな」
ふいに、笠の男が呟いた。
「え?」
「『太閤御物刀絵図』は、外部に漏れる事や紛失する事がないように、厳重に管理している。それこそ、誰が本物を持っているのか分からないくらい、徹底的にな。本来なら、写しすら存在しない。なのに、何故、その写しがあると思う?」
「えっと、外部に漏れたって事ですか?」
僕が自信なく問いかけると、彼は少し残念そうに溜め息を吐いた。
「惜しいな、ボク。答えは……本物を護るために、偽物を作ったからだよ」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!