スキルイータ

北きつね
北きつね

第三百十話

公開日時: 2023年11月12日(日) 12:14
文字数:3,111


 デ・ゼーウに情報を提供するために、ルートガーが部屋から出て行った。

 方針も決まったのだし、もう大丈夫だろう。

 もういい加減にチアル大陸に戻りたい。差し迫ってやることは思いつかないが、適当な理由を考えて帰ってしまおうか?


 ルートガーが戻って来るまで、新種に関して、解っていることを考察しておこう。考えるだけしかできないけど・・・。

 中央大陸は安定してくれた方が嬉しいが、荒れたら荒れたで接し方を変えるだけで、チアル大陸への影響は少ない。少なくなるように動けばいい。


 そうなると、安全面や今後の動きを考慮すれば、”新種”はしっかりと考えておく必要がある。

 チアル大陸が安全だと言い切れるまでは、可能性を潰していく必要が出て来る。その可能性も、”新種”が産まれる可能性を考えなければ、潰すこともできない。


「カイ」


 俺の足下に居たカイが身を起こして、俺の横に座る。

 反対側には、ウミが座っている。


 他に眷属がいない時には、カイとウミは俺に甘えるように寄りかかることが多い。


 ルートガーが居なくなった事が解って、ソファーの上でも大丈夫だと判断したのだろう。


『はい』


「新種は、今のところは、ゴブリンからの進化だよな?」


 俺が見た”新種”はゴブリンを残していた。

 ”できそこない”は形が崩れているが、”ゴブリン”だったと思える。


 今回も、”ゴブリン”が素体となっていると思えた。


『はい』『カズ兄。巣を攻めた時には、オークが進化したような奴らも居たよ』


 カイの返事を、ウミが上書きするように、オークも居たと言ってきた。


「ウミ!他には?」


『うーん。解らない』


 ”蟲毒”をするのに、複数の種類の魔物を使ったのか?


 オークがゴブリンの巣に居るのは・・・。無理がある。人為的に集められたと考えるのが妥当だ。


「そうか・・・」


『カズト様。何か懸念があるのですか?』


「あぁカイは気が付いているかもしれないけど、進化にはかなりの討伐が必要だ」


『はい』


「ゴブリンだけを集めることができたとして、同族同士で殺し合うような場面でも、一体が勝ち続ける状況になるのか?」


『それは』『カズ兄。巣を見ると、いくつかのグループに分かれていたよ?』


 ウミの言うことは理解ができる。


「でもな。ウミ。進化した奴が率いていたのなら解るけど、ただ強いだけの個体が率いることはあるのか?」


 派閥に分かれるまでは理解ができる。

 このあとが解らない。


 結局、一つの派閥しか生き残らなかったのか?

 それとも吸収していったのか?


 一つの派閥だけが生き残ったとして、残った派閥のゴブリンが、全て”新種”になったのか?

 俺の様に、”名付け”が行われていれば、繋がりができるから可能なのか?


 実験してみないと解らない。


 でも、ダンジョンで発生する魔物を同じ所に閉じ込めても、同士討ちは行わない。


 モンスターハウスのような罠を作った事がある。

 数種類の属性も戦い方も違う魔物を同じ部屋に詰め込んだ罠だ。


 コアが同士討ちを禁止していることもあるが、禁止しなくても、ダンジョンの魔物同士での戦闘は回避される傾向にある。

 仲間意識なのか、同族でない者の場合でも戦わない。攻撃が当たることはあるが、それだけだ。


 ダンジョンの外に居る魔物を集める?

 それとも、ダンジョンから魔物を大量に移動させる?


 どれも現実的には難しい。


 増えた魔物を閉じ込める方が現実的だろう。


『カズト様。ウミの言っているオークは、新種ではありません』


『え?カイ兄。違うよ。あれは、新種になっていたよ!』


『違う。あれは、俺たちと同じように、正統進化をしたオークだ』


 珍しく、カイがウミの言葉を遮るように否定する。

 間違っていることを正すというよりも、自分の考えを押し通すような雰囲気だ。


 カイも自信はあるが、確証がないのだろう。


 カイの言い方で、気になる言葉がある。


「ちょっとまった。カイ。正統進化と新種は違うのだな」


 俺の考えでは、新種は”進化体”の一つだと思っていた。オークは、新種ではなく、通常進化になったのなら、納得ができる。

 しかし、カイの言い方では、進化と新種は違うとなってしまう。


『はい。新種は、進化の系譜から外れたイレギュラー体です』


 イレギュラー?

 その前に、進化の系譜の確認をしなければ・・・。


 進化を深く考えていなかった。

 スキルだけではなく、スキルカードが進化に関係している?


「カイ。進化の系譜とは?」


『はい。フォレスト・キャットでした。そこから、進化を繰り返しています』


「そうだな」


『新種は、フォレスト・キャットが何かの因子を取り込んで、例えば、シー・キャットに変ったような者たちです』


 カイの説明で、一つだけ気になった事がある。

 系譜とは違う”因子”を組み込めば、もしかしたら・・・。


「そうか、新種は、進化した魔物だと思ったのだが、特殊進化だと考えればいいのか?」


『わかりません。しかし、新種は通常の進化の系譜ではないと思います』


「なぜ?」


『はい。進化の系譜なら、戦い方が大きく変わることはありません。また、進化の失敗もありません。そして、意思を持つことはあっても、失うことはありません』


 カイが言い切っているのなら間違いはないだろう。

 意識を獲得することがあるのは、経験しているから解っている。コアも、コアの状態では、意識を持つことはない。名付けて、眷属にすることで、個性が産まれる。その時に、意識を獲得しているの。

 そう考えれば、獲得した意識を失うのは、進化とは違う仕組みだと考えられる。


「ん?カイとウミは・・・。あぁ俺と契約したからか?」


『はい』


 カイの言っている内容なら、検証が可能かもしれない。

 ゴブリンを進化させてみて、新種にならなければ、進化と新種は別な可能性が高い。


 問題は、”できそこない”の方だけど、カイの説明だと、進化の失敗に該当するのだろう。


 あとは、”因子”だが・・・。


「カイ。因子に、心当たりはあるか?」


『ありません』


 言い切ったが、今までと違っている。

 何か、心当たりがあるのだろう。言い難いとは違う。確証が持てないのだろう。


『ゴブリンの巣は一か所だけだけど、エルフの島にいる時に襲ってきた”できそこない”たちとは、違う感じがしたよ?』


 ウミの”感”は、よく当たる。

 同じ”できそこない”に見えても、違う?


「ん?ウミ?違う?何が違った?」


『うーん。うまく言えないけど、元は同じゴブリンの弱い奴だけど、あ!そうだ。シロ姉とステファナの違いみたいな?』


 ウミも確信は持てないようだが、もしかしたら・・・。


「人の因子を組み込んだゴブリンか?」


 カイも、この結論には達していたのだろう。

 ただ、確証が持てないのと、証拠がないので、”ありません”と答えたのだろう。


『うーん。よくわからないけど、同じだけど、違うみたいな感じ!』


 ウミの言い方では、因子の問題では無いようにも思えるけど、的を射ているのかもしれない。


 ”因子”をDNAと考えればいいのか?

 子供を産むのではなく、自らに取り入れて進化の時に、DNAが進化に作用する?


 生殖行為だと考えるのが一般的だけど、取り込むと考えると、生殖行為ではないと思う。

 そして、摂取でもないだろう。それなら、もっと前から”新種”や”できそこない”が現れていてもいいはずだ。


 やはり、人為的にDNAを打ち込まれた可能性を考えるのが妥当だ。


 もし、俺が考えているような方法だとしたら・・・。

 実際に行った奴らを許すことができない。許しては行けない。どんな理由があっても・・・。だ。


 新種の考察は、チアル大陸に帰ってから、本格的に調べないとダメだ。

 シロにも、フラビアにも、リカルダにも確認をして、あとは教会勢力にも確認を行おう。


 あと、奴隷商のメリエーラにも確認をしたほうがいいかもしれない。


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