スキルイータ

北きつね
北きつね

第百九十六話

公開日時: 2023年11月12日(日) 10:57
文字数:6,164


 ログハウスに戻ると、|執事《エント》が一礼して迎い入れてくれる。


「大主様。オリヴィエ殿が庭園でお待ちです」

「ありがとう」


「カズトさん。今更ですけど・・・」

「ん?なに?」

「なんで、執事やメイドは、カズトさんのことを『大主様』と呼ぶのですか?旦那様やご主人様でいいのでは?」

「ん?あぁそうか・・・。シロ。スーンは知っているよな?」

「うん。僕も何度か有っているよね?」

「そうそう、あのスーンは、俺の眷属じゃなくて、ライの眷属で、スーンの眷属が|執事《エント》や|メイド《ドリュアス》だからな」

「え?あっ」

「ご主人様は、ライのことを指すから、そのライのご主人様って事で、大主様って呼ぶようになっている・・・。けど、そうだよな。旦那様や奥様と呼ばせたほうがいいな。ありがとう。シロ!」


 今まで、通してきたけど、旦那様や奥様と呼ばせたほうが、他の者が疑問に思わないだろう。


「マスター」

「待たせたな」

「いえ大丈夫です。他の・・・」

「起こさなくてもいい」


 エーファも狐の姿になって、庭園で丸くなって寝ている。

 エリンもアズリもクローン・クローエまで寝ている。


「オリヴィエ」

「はい」

「いい。それよりも、スーンたちに連絡しておいて欲しい、これから、俺の事を大主と呼ばないで、ただ単純に旦那と呼ぶように、シロは今までどおり、奥様でいい」

「はい。かしこまりました。マスター」

「お前はブレないな」

「もちろんです。多分・・・」


「私も同じです。ご主人様」

「わかった。大主様の呼称の禁止を徹底しろ」

「はい」「かしこまりました」


 2人が立ち去った。

 エーファたちはこのまま寝かしておいてもいいだろう。


「シロ。クローン・クローエを持って、ログハウスに入ろう」

「はい。エーファたちは?」

「そろそろ起き出すだろう。庭園なら気温も一定だし問題ないだろう」

「はい」


 シロが寝ているクローン・クローエを持って、ログハウスに戻る。洞窟に戻ろうかと思ったが、今日はログハウスで休むことにした。

 クローン・クローエの事もあるが、眷属たちがログハウスに集まってきているからだ。


 どうやら、洞窟には直属の眷属だけが入って、あとは世話係が入るだけで、それ以外で固定の仕事を持たない者たちは、ログハウス周辺やチアルダンジョン内で過ごすことが多いようだ。

 そのために、俺がログハウスに居ると解ると皆がログハウスに集まってくる。


 人族と違って謁見を求めてくるわけでもなく、近くに居たいという雰囲気を醸し出している。

 無碍にできる雰囲気ではないので、|執事《エント》と|メイド《ドリュアス》が世話を焼きたいが近づけないでいる感じが面白くなってくる。シロが1人になると、シロには声をかけて世話を焼いている。


 少しだけ理不尽に思ったのだが、シロが聞いてきた所だと、俺は何でも自分でやってしまう印象が有るのだと言っていた。


「気にしてもしょうがないだろう」

「そうですね。カズトさんの代わりに、僕の世話を焼いてくれるから、僕としても嬉しいですよ」

「そうか、シロの負担になっていないのなら、このままでも問題はないか」

「はい。それに・・・」

「それに?」

「メイドさん達に言われたのですが・・・」

「あぁ?」

「ふぅ・・・あのですね」

「ん?」

「あの・・・夜を過ごして・・・カズトさんを・・・それで、子どもができたら、動けない時期があるから・・・。慣れておいた方がいいって・・・」

「あぁそうか!子どもかぁ」

「はい」


 耳まで赤くして、可愛いな・・・。本当に、知識としては持っているのだろうけど、恥ずかしいという思いが強くなってしまっているのだろう。

 布団の中で全裸になって迫ってくる姿とのギャップを感じてしまうのだが、どちらもシロで間違いはない。言葉にするのが恥ずかしいのだろう。でも、そうか・・・。シロが妊娠した時には、|メイド《ドリュアス》に頼る必要がありそうだな。

 俺がシロの世話をするのは・・・。多分、ダメと言われるだろう。シロが気にするのだろう。|メイド《ドリュアス》たちが全員で反対しそうだ。


 今日は、このままログハウスで寝る事にした。

 |メイド《ドリュアス》たちに、風呂の準備と、軽めの食事を頼んだ所で、エーファたちが部屋に入ってきた。


 エリンもアズリも居る。

 お腹が減ったという事だが、アズリは減らないだろう・・・。無粋な事は、聞かないほうが良さそうだ。


 洞窟の清掃と足りない物の補充を頼んでいた、ステファナとレイニーも合流した。


 同じ事を、場所を変えて行う。

 それがどれほど難しい事なのか理解している。

 ダンジョンの中でも、洞窟の中でも、そしてログハウスでも、同じように生活できている。俺のわがままで始まった事だが、皆の努力はすごくありがたいと感じている。


 |秘密の小部屋《ディメンションホーム》の運用が開始できれば、もっと自由度が広がるだろう。

 俺自身が俺のスキルで作られた|秘密の小部屋《ディメンションホーム》に入る事に少しだけ矛盾を感じるのだが、そういうものだと理解しておけばいいだろう。


 となりでは、すでにシロが可愛い寝息を立てている。

 今日もいつものような格好だが、今日は何もしていない。少しだけプログラムで遊びたかったからだ。


 思った以上にいろいろできそうなのだ。

 それもセンサーの様な物が作れる事がわかった。


 侵入検知なんかもできる。イメージでの比較ができる事がわかった。そのかわり、温度などの比較が難しい事も判明した。したがって、部屋を24度に保つ様なスキル道具が難しいが、スキル道具を動かした人間が快適だと感じる温度に部屋を保つ事はできる。少人数で使う部屋なら問題はないが、大人数で使うのみは適さない可能性もあるが、それでも進歩には違いない。


 どれほど記憶できるかわからないが、認証にも使える事が解っている。

 魔力を記憶しておいて、記憶した魔力と同じだった場合にだけスキルを発動するとかが可能になる。

 比較で、NOTが使えるのが大きい。否定が使えると、途端にできる事が増える。


 そんなことをベッドに入りながらしていたら、シロから寝息が聞こえてきた。

 布団の中がシロの匂いで満たされる前に、俺も布団に潜り込んで寝る事にした。


---


「ご主人様。ご主人様」

「ん?あぁリーリア。どうした?」

「おはようございます」

「おはよう。もう、そんな時間か?」

「はい」

「シロは?」

「奥様は、庭園で休まれています」

「そうか、クローン・クローエと一緒か?」

「はい。他の者がついています」

「わかった。ありがとう。皆の食事は?」

「ご主人様を待っているという事です」

「わかった。庭園で食べる用意してくれ」

「はい」


 リーリアが差し出した服に着替えて、庭園に向かう。

 カイとウミとライも来ているようだ。


 |メイド《ドリュアス》が食事をしていくのを眺めている。


「旦那様」

「ん?ミュルダ殿が面会をお申し込みです」

「ログハウスに来ているのか?」

「いえ、下でお待ちです」

「うーん。わかった、迎賓館で待っていてもらってくれ、すぐに行く」

「はっ」


 |執事《エント》がその場を離れる。

 朝の時間帯に、ミュルダ老が来るのは珍しい。

 なにか有ったと考えるのが妥当だろうな。


「シロ!」

「はい」

「ミュルダ老が来た様だ。俺は、迎賓館に行くけど、どうする?ここで待っていてもいいぞ?」

「行きます!」


 カイとウミもついてくる事になった。

 オリヴィエとリーリアとステファナとレイニーに、皆のことを頼んだ。


 今日の夕方には、チアルがダンジョンコアを産み出しているはずだ。


 丁度よかったミュルダ老にも相談しておこう。

 ルートガーも呼び出しておけばいいだろう。


「オリヴィエ」

「はい」

「皆の食事が終わってから、ルートガーを迎賓館に呼び出してくれ」

「ルートガー殿だけでよろしいですか?」

「大丈夫だ。今日は、話をするだけだからな」

「かしこまりました」


---


「ツクモ様。朝から申し訳ありません」

「それは構わないのだが、どうした?なにか有ったのか?」

「具体的になにか有ったわけでは無いのですが・・・」

「なんだ、歯切れが悪いな」

「リヒャルトからの報告はお読みになりましたか?」

「あぁ」

「ワシも読みまして、少し気になったのですが・・・」

「そうか、帰還率だな?」

「はい」


 ゼーウ街のスラム復興を任せているリヒャルトから送られてきた報告書の事だったか・・・。


 ゼーウ街では、リヒャルトが主体となって、大陸の森に対する調査を行っている。

 魔物が居る事は確定しているので、慎重に調査を行ってもらっている。


 調査に赴いた者たちの帰還率が、徐々に悪くなっているのだ。

 森に向かう人数が増えてきて、最初の頃に比べて質が落ちてきているのだとしても、帰還率が9割を割り込んで、8割に近づいてきている。ちなみに、ペネムダンジョンの帰還率は97%だという事なので、それを考えると、低いように思える。

 ただ、チアル街で管理を始める前にサラトガに有ったダンジョンの帰還率は6割くらいだという事なので、それを考えれば十分高いと思うのだが、徐々に減っているのが気になる。


「ツクモ様?」

「あぁでも、まだ8割はあるのだろう?」

「そうですが・・・」

「老の危惧している所は解るが、リヒャルトからは何も言ってきていないのだよな?」

「はい」

「それなら、少し静観しておくのがいいだろうな」

「かしこまりました」


「それだけか?」

「いえ、あと・・・」

「なんだ?」

「ツクモ様!」

「ん?」

「クリスの事なのですが?」

「どうした?」


 ミュルダ老が俺の横に座っているシロをちらっと見る。

 あぁそういうことか?


「あぁそうか、シロのことを気にしているのだな?」

「・・・。はい」「え?僕?」


「いえ、奥様。奥様のことを忌避しているとかではなくて・・・、ですね」

「え?」

「シロ。ミュルダ老。老としては、玄孫が早く欲しいけど、クリスはシロを気にして、子どもができないようにしているのだろう?」


「はい。それに、種族の事も少し気にしていました」


「え?僕を気にして?なんで?」


 これはシロの責任ではない。

 俺のわがままから来ている事だが、ルートガーからいい出したとは思えない。クリスから出た話なのだろう。


「老。ルートには?」

「この話は、婿殿から聞いた話です」

「ほぉルートから?」

「はい。子どもは待って欲しいと言われました」

「そうか、それで老は、ルートがいい出した事ではなく、クリスがいい出した事だと思ったのだな」

「はい」


 そうなると、微妙な所だな。

 どちらが言い出しても不思議ではない。フラビアやリカルダが結婚して子どもができればまた話が違うのだろうけど、2人からもシロからもそんな話は上がってきていない。

 センシティブな問題にはしたくないのだけどな。特に、種族の問題はどうなるかわからないからな。


 しまったな。

 ルートガーを呼ばないほうが良かったかな?


「老。俺が、ルートに聞いてみる」

「よろしいのですか?」

「あぁこれから、ルートにはいろいろ頼むし、無理をさせるからな。そのかわり、ルートに頼もうと思っていた仕事を、老にやってもらう事になるかもしれないけど大丈夫か?」

「お任せください。老骨に働き場所を与えていただけるのなら喜んで働きますよ」

「ルートの次第だけどな。老には元老院を任せたいし、組織が動き出せば、まだまだやる事が出てくるだろう」

「かしこまりました」


「旦那様。ルートガー殿とオリヴィエがまいりました」

「わかった。入ってもらってくれ」

「はい」


 オリヴィエが先に入って来て、ルートガーがそれに続いた。オリヴィエは、そのまま奥の部屋に移動した。ルートガーは少し驚いた表情をしたが、ミュルダ老の隣に座った。


 俺とシロとミュルダ老の前に置かれていた少しだけ冷めたお茶を下げて、新しい物が用意された。


「老。少し違う話になるが、ルートと一緒に聞いてくれ」

「かしこまりました」

「ツクモ様?」


「ルートにも老にも話していなかったな。ダンジョンの事はどのくらい解っている?」

「ダンジョン?」「ダンジョンですか?」


 表面的な事と、俺が以前に説明したダンジョンコアとダンジョンマスターの事以外は知られていないようだ。


「ルート。チアルダンジョンを使っている時になにか聞いていないか?」

「いえ・・・。何も・・・」

「クリスも聞いていないと思うか?」

「だと思います」

「わかった。そうなると・・・。まぁ最初から説明するか」


 ルートガーには以前に軽く説明している為に重複説明になるのだが、もう一度聞いてもらう事にした。

 ダンジョンコアにはそれぞれ固有の能力がある事を説明した。

 その上で、ペネムダンジョンとティリノダンジョンとチアルダンジョンのコアに関して説明した。


 都度、ペネムとティリノからツッコミが入るが無視させてもらった。

 正確な部分で違いが出ても大まかな所で間違っていなければ問題ない。


「ツクモ様。ペネムダンジョンコアの能力は転移門の作成で、ティリノダンジョンコアの能力は支配領域の作成になるはわかりました。チアルダンジョンコアの能力は?」

「ダンジョンコアの生成だ。まだ確認が終わっているので、”らしい”という言葉が続くが、新しいダンジョンコアを生み出す能力だと思って間違い無いようだ」

「ダンジョンコアを作り出す?」

「簡単に言えば、ダンジョンを作れる能力だ」


「ツクモ様。それですと、ティリノダンジョンと何が違うのですか?それと、ペネムダンジョンでも複数のダンジョンを作っていますよ?」


 ルートガーが感じた事も当然のことだろう。

 個性があるとは説明していないからな。


「そうだな。ダンジョンコアには、それぞれ能力の違いと個性が産まれる」

「個性?」

「そうだな。産み出せる魔物が違うと考えてもらえばいいかな」

「??」

「そういう物だと思ってくれ」

「はい」「はい」


「それで、今チアルダンジョンに、新しいダンジョンコアを9個作ってもらっている」

「9個ですか?」

「コアを使って、ミュルダ/サラトガ/アンクラム/ユーバシャール/ロングケープ/パレスケープ/パレスキャッスル/ロックハンド/迎賓館の近くにダンジョンを作る」

「え?」

「小型のダンジョンを作れば、いざという時に困らないだろう?逃げ込める場所にもなるからな」

「魔物は?」

「どうしたらいいと思う?」

「どちらも可能なのですか?」

「可能だ」


 作る事は、消極的な賛成程度と考えておけばいいだろう。

 細かい調整は必要になるだろうが、各地に移動できる方法が確保できる。


「ミュルダ老。ルート。ダンジョンは作るけど、魔物はそこの代官が決める事にしよう。あとの細かい事は、お前たちに任せる」

「え?」「かしこまりました」


 ルートガーは躊躇したが、ミュルダ老に連れられて執務室から出ていった。

 ダンジョンを作る事は確定としても、内容までは決めていない。


 俺が決めてもいいが、代官に決めさせたほうが気持ち的にいいだろう。

 もしかしたら、魔物が出てくるような場所を望むかもしれない。


 全体会議の事を聞き忘れた・・・。


「マスター」

「ん?」

「クローン・クローエからの伝言です。ダンジョンコアが産まれたという事です」


 わかった。

 ここでスキルを使ってもいいが、様式美は大事だろう。


「オリヴィエ。皆を、庭園に集めてくれ」

「かしこまりました」


「シロ。庭園で、|秘密の小部屋《ディメンションホーム》に移動するぞ」

「はい!」


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