スキルイータ

北きつね
北きつね

第二十一章 密談

第二百十一話

公開日時: 2023年11月12日(日) 11:04
文字数:6,676


 パレスキャッスルとパレスケープに、ドワーフ族だけではなくエルフ族の難民が発生し始めている。

 アトフィア教の大陸や中央大陸からも人族だけではなくいろんな種族がチアル大陸を目指して助けを求めてやってきている。


 チアル大陸に向かう船や港が混雑し始めている。チアル大陸が難民の受け入れを表明したからだ。乗船料は、チアル街が貸し出す事にした。弱った身体で無理して港で仕事をして死なれても気分がわるい。


 受け入れが始まっている。仕事をしない人にはそれなりの待遇が用意されている事も伝えるようにしている。

 人族だろうが、エルフ族だろうが、ドワーフ族だろうが、大陸や集落での役職で優遇する事がない事を明言した。


 ルートガーが、ホームに愚痴を言いに来た感じだと、かなりの文句が出たようだが、それなら帰ってくださいと伝えた所、渋々だが従ったようだ。別の大陸に来たのだが、ゼロからになるとなぜ考えない。


 住む場所が狭くなってきている事もあるし、種族的な問題も出てしまっている。シャイベを使って、パレスキャッスルとパレスケープとロングケープのダンジョンを拡張した。

 階層を増やす事にしたのだ。面倒なので、勝手に行う事にした。


 それぞれの港町と同じ大きさの階層を増やした。

 草原と森林フィールドを作成した。草原フィールドに、小山をいくつか作ってランダムに鉱石が埋まっているような場所を作成するようにした。


 ルートガーには、作った物を報告したが、どう使うのかは各代官に任せる事にした。

 魔物は出ないようにしてあるが、両方のフィールドに川が流れているので、食べる事ができる魔物が湧き出すポットを数種類配置した。何が好まれるのかを知りたいからだ。合わせて、スライムが湧き出すポットも配置しておいた。全部が、寿命の設定なしになっているので、狩りをしないとどうなるか想像できない状況になってしまう。スライムは、使いみちがある益虫ならぬ益魔物なのだ。


 転移門は隠しているから見つかる事は無いだろう。

 人の出入りが激しくなれば見つかるリスクも高くなるのだが、ホームへの転移部屋は見られても入ってこられないから、大丈夫だと割り切る事にしよう。


 ミュルダとサラトガとアンクラムとユーバシャールのダンジョンも同じ様に拡張した。

 こちらは、人が増えるまで、眷属たちが定期的に掃除を行う事になった。


 人口も徐々に増えている。

 難民も最初の受け入れ場所から内陸部に移動し始めている。


 特に、中央大陸から流れてきた人族は、チアル街を目指す傾向にある。

 エルフ族はダンジョン内だと割り切って森林フィールドに住むことにしたようで、ドワーフ族は草原に家を建てて小山を開拓することに決めたようだ。


 いきなり自給自足ができるわけもないので、支援する事になるのだが、支援方法を考える必要が出てきてしまった。

 代官ごとに考え方が違っているのだ。


「それで、マスター。ルートガーは何を望んでいるのですか?」

「簡単にいうと、ダンジョンを持つ代官との面談・・・。いや、密談だな」

「密談?」

「俺が、ダンジョンを操作したり設備を作ったりできる事は、ルートガーと元老院のメンバーだけのはずだ。簡単に言えば、ホームに出入りできるメンバーだけだ」

「そうですね。あと・・・」

「どうした?」

「いえ、多分ですが、イサーク殿たちも勘付いているとは思います」

「そうだな。でも、奴らはこの際別枠にしておこう。いろいろ面倒になる」

「わかりました。それで、密談とは?」


「そうだったな。簡単に言えば、ルートガーが、ある程度ダンジョンをいじられるようにできるかも知れないという事で、代官に要望を聞く事になる」

「え?それは、今までも同じ様な状況だったのではないですか?」

「大きくは違わない。今度はより具体的な指示をもらう事になる」

「指示ですか?」

「そうだな。階層を増やすことができる事を提示する」

「そうなのですか?」

「それで、草原や森林や山を配置できる事を伝えるつもりだ」


「マスターは、難民が増えると思っていらっしゃるのですか?」

「そうだな。新種の魔物が、どこからやってくるのかわからない状況だからな。判断は難しい」

「・・・」

「難しいが、最悪の場合を考えておく必要があるだろう?」

「最悪ですか?」

「そうだ、チアル大陸以外・・・。多分、最後まで残るのは、アトフィア教の大陸だと思うけど、全部の大陸が新種に侵略されるのが最悪なシナリオだな」


「賄えるのですか?」

「ダンジョンの機能を使えばできるだろうな」

「わかりました。マスター。これからどういたしますか?」

「ん?お前たちか?」

「はい」

「何もしなくていいぞ?俺も、ダンジョンの階層を増やすだけで、なにかするつもりは無いからな」

「そうなのですか?」

「面倒だろう?」

「・・・」

「少しドタバタはすると思うけど、それだけだな」

「わかりました。それで、密談はどこで行われるのでしょうか?」

「うーん。ミュルダにしてもらおうかと思っている」

「誰がお供いたしましょうか?」

「シロととシャイベを連れて行く」

「かしこまりました。準備をしておきます」

「ゆっくりでいいぞ?どうせ、半月近くあとになるとおもうからな。それに、偽ツクモと偽シロをつかうからな」

「はい」


 オリヴィエに今後の事を簡単に説明した。

 これから、暫くは密談が増えるだろう。


 代官と個別に会いたくない。特別な状況を作り出したくないからだ。

 緊急避難で行った処理が、緊急避難処置ではなくなってしまうのを避けたいからだ。


「そう言えばシロは?」

「例の・・・」

「フラビアとリカルダと行っているのか?」

「はい」


 例のモンスターをハントする物が形になってきた。

 実験体をばらして内臓以外を作り直した。アイボールはドローンを改良する事にした。あのゲームに慣れてしまうと、ゲームとして考えてしまう。逆転の発想でもないが、人を操作するのではなく、武器を操作するようにすれば、人の強度はそれほどなくてもいいのではないかという結論に達した。

 人の身体は模写して作るが、武器の方を操作する作りになった。

 したがって、アイボールは武器から一定の距離で浮遊する形にして、コントローラーで見える位置を調整する事ができる形になる。


 問題が無いわけではない。

 まずは、ホームの中に作った空間でしか動かすことができない。実際には、できるかも知れないが、空間をかなりの濃度の魔素で満たすか、大きな魔核を配置する必要がある。魔核でも良かったのだが、武器は切り替えて強化していく物なので、魔素で満たす事にした。


 本体が武器になってしまったので、研ぎができるわけではない。

 珠を付けて、千里眼や高級耳栓を付けたりする事ができない。


 そして、同時にできる人間の数が4人までとなってしまっている。原因は不明だが、もともと4人でやるハントだから問題は無いだろうと思っている。


 そんなゲームの微調整を行っている。シロも調整できるようになってきた。

 俺の手から、シロがメインで調整を行っている。主に、武器のアクションを調整している。


 そして、ホーム以外ではロックハンドのダンジョンに配置してみた。

 まだ、イサークたちには告げていないが、フラビアとリカルダには教えた。そして、シロと一緒に調整をしてもらっている。


 コントローラーの操作は案外なれるのが早かったが、投影された物を見るのになれていない印象がある。


 武器は、一般的にも使用できる物にしている。

 そこに操作用の珠とアクション用の珠をつけてコントローラーを使って操作を行う。


 ホーム内は、カイやウミたちのストレス発散と凶悪化したモンスターが出ているために、現在はゲームでは使用していない。


「わかった。行ってみる」

「はい」


 ホームからロックハンドに出た。


 3階層に作ったゲーム会場に向かう。

 まだパーミッションが設定されていて、許可した者しか入られない場所だ。


「ツクモ様」

「どうだ?」

「はい。奥様に教えてもらって、なんとか操作は問題ないです」


 フラビアは問題ないようだ。

 それにしても、シロもフラビアやリカルダからの奥様呼びに照れなくなってきたな


「そうか、受け入れられると思うか?」

「どうでしょう?なれるまでの時間が必要ですが楽しいですよ」

「それはよかった」

「でも・・・」

「ん?なにかあるのか?」

「いえ、私達は意義を教えられていますから受け入れはできますし、生活にも余裕があります。しかし、そうでない人には難しいと思います」

「そうだよな。でも、遊びってそういう物だろうからな」

「はい」


 このゲームでは、素材の持ち帰りができない。

 実際にはできるのだが、フィールド内に入られるのがパーミッションを設定した者だけなので、モンスターを倒しても、得るものが何もないのだ。実際には剥ぎ取りもできるのだが、ゲームなのだから素材の持ち帰りができないほうがいいだろうと思っている。

 倒したモンスターが持っていた魔素量を測定する方法を考えている。

 ゲーム内で倒したモンスターの魔素量で商品を出そうと考えている。


 死なないダンジョンなんかが作られたら最高なのだけど、現実的には難しい。

 ならば、スキルを利用して疑似体験ができるようにならないかと考えているのだ。


「改良を頼むな」

「はい!」

「シロは?」

「奥様なら、ナーシャさんに連れて行かれました」

「・・・。わかった。フラビアとリカルダは引き続きゲームの調整を頼むな」

「はい」


 フラビアとリカルダが調整に使っているのは、プログラムで作り出した調整用のツールだ。

 ゲームの調整をしてもらいながら、調整用のツールの使い勝手も見てもらっている。実際に使ってみてからでないと調整するのも難しい。

 俺が使っているだけでは気が付かない用語の問題も多く発生している。


 ロックハンドダンジョンから抜けて、イサークとナーシャが使っている屋敷に移動する。


「ナーシャ!イサーク!」


 奥から、パタパタと音が聞こえてくる。


「ツクモ君!」

「ナーシャ。シロは?」

「奥で手伝ってもらっている」

「わかった。それで?」

「うん。もう大丈夫だと思う。イサークやピムでも作られることは確認できたよ」

「ん?お前は?」

「え?もちろん、使えるよ」


 怪しいが・・・。まぁいい。

 俺が、イサークたちに頼んだのは、調理器具の調整だ。IHのシステムキッチンではないが、あれを目指している。


 シロは、なんだかんだと俺と居る時間が長くなっていたので、プログラムができるようになっていた。そこで、シロが教える形で、イサークとピムとナーシャに、システムキッチンの作成を依頼した。


 さしずめ。

 スキルキッチンとでも呼べばいいだろうか?


 ナーシャに案内してもらって、工房に移動する。


 |執事《エント》や|メイド《ドリュアス》も働いている。俺からの命令で、プログラム部分は触らないようにさせている。雑用や素材の加工のみを行ってもらっている。


 扉をノックする。

 中で作業している二人が振り向いた。


「ツクモ様!」

「カズトさん」


 シロが俺に駆け寄って抱きついてきた。

 今日はより甘えたい気分なのだろう。


「どうだ?」


 シロの頭をなでながら、イサークに状況を聞く。


「問題はありませんよ?でも、この温まる板は解るのですが冷える板に使いみちが有るのですか?」


 IHクッキングヒーターの事を言っている。IHに対応する鍋やフライパンはガーラントに発注済みだ。


「あるぞ?使ってみるか?」

「えぇお願いします」

「確か、鉄板があったよな?」

「えぇ表面を磨いただけの物ですがありますよ」

「持ってきてくれ。俺も材料を用意する」

「わかりました」


「僕、手伝います」


 簡単なアイスを作ろうと思っている。

 注文通りにできていれば可能だろう。牛乳と生クリームと卵黄と砂糖だけで大丈夫だろう。食生活に関しては、かなり満足できる所まで来ている。他にも、隠れて作っている物があるが、徐々に出していこうと思っている。

 甘味の材料になるものは隠していると、女性陣からすごい圧力がかかるので、試作段階から頼むようにしている。

 間違った方向に進んだ先に美味しい物ができる事があるのも面白い変化だと思える。


「シロ。材料をしっかり混ぜてくれ」

「はい!」


 泡立て器も、スキル道具化している。

 プログラムでイサーク達に作ってもらった物だ。回転するだけの物だが、一定の回転と速度調整を行わなければならないので意外と難しい物だが、なんとか実用できるレベルの物が出来上がってきた。

 イサークたちがプログラムを使えるようになってきて、次のステップに進んでいる。神殿区で文字を習った子たちが作り方をマニュアルに落とす作業を行っている。

 実際の物とマニュアルを、職人区で働いているメンバーに投げて、ルートガー手動の極秘プロジェクトとしてプログラムの技術者の育成を始めている。


 シロが使っているキッチングッズは職人区で作った物ではなく、ロックハンド特性のワンメイク品だ。


「こんな物でどうでしょうか?」

「うん。問題ないよ。味付けは、シンプルな物にしておこう」

「はい」


 シロもここに来て何を作ろうとしているのかわかったようだ。


 ナーシャが鉄板を持ってきたので、受け取って形を作っておく。


 最大限に冷やしてもらって、シロが作った溶液を流し込む。少しかき混ぜてから、暫く放置すると固まってくるので、それをヘラで擦り取って、鉄板の上で混ぜ合わせるようにする。


 できた物を小さなスプーンで掬って、シロとナーシャにわたす。


「これは?」

「アイス。まぁ食べてみろよ」

「はい」


 ナーシャはすでに食べて、スプーンでアイスを掬って食べている。

 いいけど太るぞ?


「カズトさん!」

「うまいか?」

「はい!」

「ナーシャは、聞かなくても・・・。大丈夫そうだな」

「ん?」


 ナーシャは、どこから持ち出したかわからない大きめのスプーンでアイスを掬って食べている。


「ツクモ君。レシピは?」

「あとで書いて渡す」

「ありがとう!」

「でも、生クリームはそんなに出回っていないぞ?ヨーグルトでやっても美味しいかな?ヨーグルトは作っていたよな?」

「うん。でも、そんなに甘くならない」

「蜂蜜もメイプルシロップもあるよな?」

「うん。でも、イサークがあまり出してくれない」

「それは、二人で話し合ってくれよ。レシピは渡しておく、あ!解っていると思うけど・・・」

「うん。カトリナにはまだ内緒だよね?」

「ロックハンドで作った物は売るつもりは無いからな。カトリナもその辺りの事が解ってくれたらいいのだけどな」

「うん。言っては居るのだけどね」

「まだ、どこか納得できていないのだろう?」

「うん」

「そんなに困っていないだろう?」

「うーん。ツクモ君。ここだけの話にしてくれる?」

「あぁ」


 ナーシャの話では、どうやらカトリナが焦っているのは、リヒャルトから商隊を任されて、売上が落ちている事にあるようだ。

 当然の事なのだが、カトリナは納得できていないようだ。俺が当然と考えるのにも理由がある。カトリナが任されたのは、チアル街での商活動だけで商隊の部分は、カトリナの兄が代理として活動している。

 兄が仕入れてきた物を売ったり、自分が仕入れてきた物を兄に売って居る状況なのだ。

 リヒャルトが何を考えているのかはわからないが、カトリナが金看板を掲げて磨いているのは間違いない。

 その状況なので、カトリナは新しい物や珍しい物が多い。ロックハンドや俺の周りに張り付いているのだ。


 そして、ナーシャが内緒話にしてほしいという理由が判明した。

 どうやら、カトリナは結婚したい相手が居るようだ。どこかの代官の息子なのだと話している。その息子を振り向かせるために、必死になるあまり周りが見えなくなっているようだ。


「わかった。ナーシャ。俺がカトリナと話をするよ」

「え?いいの?お願い。もう隠し事が面倒で・・・。あっクリスには話していいよね?」

「おまえ、さては・・・」

「う、ううん。まだ、そう、まだ大事な所は話していないし、物も見せていないよ」

「本当だな・・・。まぁクリスに聞けば解るからいいかな・・・。クリスとルートガーなら話して大丈夫だぞ。あと、フラビアとリカルダとギュアンとフリーゼとヴィマとヴィミとイェレラとラッヘルとヨナタンとイェルンとロッホスとイェドーアは大丈夫」

「え?え?え?多いよ。わかった。クリスとルートガー君とフラビアさんとリカルダさんとギュアン君とフリーゼちゃんだね。それ以外には話さないから安心して!」

「安心できないが、ナーシャの甘味への情熱を信用するよ」

「うん!」


 褒めていないのだけど、褒められた雰囲気を出すのは辞めて欲しい。

 こっちが恥ずかしくなってしまう。


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