スキルイータ

北きつね
北きつね

第二百六十七話

公開日時: 2023年11月12日(日) 11:54
文字数:3,237


 港に到着する前にやっておきたいことがある。


「モデスト。ステファナ」


 二人が、俺の前に来て、跪く。


「二人には、俺とシロから離れて、隠れてもらうよ」


 二人の顔に不満を示す|印《マーク》が浮き出る。


「二人は、港を制圧する仕事があるから、俺たちと一緒にいる所は見られないほうが、最初はやりやすいでしょ?」


 ステファナとモデストは、お互いに顔を確認して、ステファナが前に出る。


「旦那様。私とモデストは、離れまして、夫婦として港に入ります」


「そうだな。その方が目立たないな。モデストの眷属を、従者として残してくれ」


「もちろんです」


 ステファナが、モデストに目で合図を送る。お互いの表情からは、すでに夫婦としてやっていけそうな雰囲気が漂っている。


 眷属が二人、俺とシロの後ろに移動してきた。

 従者になるようだ。名前は、モデストから聞かないで欲しいと言われている。モデストの眷属だと認識をしていればよいのだろう。呼びかけの必要があるときにも、モデストを名前として利用したい旨が告げられた。どうやら、眷属も同じ名前で問題はないようだ。

 シロが可愛く、”?”の表情を浮かべるので、頭を撫でておく。


 ステファナとモデストが、簡単に引継ぎを行う。

 シロの従者が居なくなるが、モデストの眷属がシロの従者の役割も行うようだ。眷属の二人は、男性と女性のペアになっている。


「シロ。大丈夫か?」


 女性のモデスト?と、話をしている。

 俺の問いかけに、頷いて答えるので、まだ少しだけ不安なことがあるのだろう。ステファナがシロの態度を見て、近づいていく。


「旦那様」


「どうした?モデストは、引継ぎはいいのか?」


「従者の仕事は、ほとんど・・・」


「そうなのか?」


「旦那様。お考え下さい」


「え?」


「お着替えは、旦那様が自分で為されますし、食事もほとんど、ご自分で準備をされます。従者の仕事は、カイ様とウミ様のお世話ですが、それも必要になることは少ないです」


「・・・。そうだな。基本、自分でやったほうが・・・。そうか、それで、従者としての仕事がないのだな」


「はい。他の方との連絡係のような者です。”旦那様と奥様のお側にいる”のが仕事になっています」


「そうか、なんか悪いな」


「今更なので、大丈夫です」


「そうか・・・。おっ。ステファナの引継ぎも終わったのか?」


 ステファナとシロが頭をさげる。

 シロの引継ぎは、荷物の引継ぎが多いようだ。外に出していない荷物もあるから、それらの調整はステファナの仕事だ。


 細々した引継ぎも終わって、モデストとステファナは、一度、俺たちから離れる。

 新しく、今までは隠れて護衛していた二人が従者に変わる。


 俺とシロと二人の従者は、歩いて港に入る。

 ステファナとモデストは、馬車を使う。


 カイとウミは、まだ持ってきていない。二人なら大丈夫だろうと、気にはしていないが、シロが少しだけ心配になってきているようだ。


「カズトさん。カイ兄とウミ姉は?」


「森の探索をしているからな。港で落ち着いたら、合流してくるだろう」


「そうですね」


 シロが後ろを振り返ると、遠くに森が見えるだろう。

 カイとウミが何をしているのか解らないが、好きにさせておこう。


 ステファナの里帰りという意味合いもあるが、カイとウミの里帰りの意味合いもある。


「心配しなくても大丈夫だろう」


「はい」


 シロが、俺の横に来たので、頭を撫でておく、手を出すと腕を絡めてきた。


「どうした?」


「いえ・・・」


「ん?」


「”帰る”場所が有って、待っている人が居るのが嬉しくて・・・」


 ”帰る場所”

 確かに、俺たちの帰る場所だ。


 皆が待っている。待っていてくれると嬉しい。


「そうだな。早く帰らないと、文句を言い出しそうな連中が多いな」


「・・・」


 ルートは確実に文句を言ってくるだろう。

 他にも、数名の顔が浮かぶ。


「ルートとか、遅いとか平気でいいそうだ」


「そうですね。あと、意外なところで、カトリナ嬢も文句をいいそうですね」


 そうだな。

 カトリナには、何か”ネタ”になりそうな物を与えないと納得しない可能性がある。遊戯施設は作っているだろうから、今度は”おもちゃ”でも作るか?


 忘れては”ダメ”な二人を思い出す。


「そうだな。シロ。フラビアとリカルダへの土産を買って帰ろうな」


 シロを慕っている二人なら、シロから渡せば、問題はないだろう。


「はい!クリスティーネにも・・・」


 すっかり忘れていた。

 シロに言われて、思い出した。ルートと対になるような物でいいかと思うけど、エルフ大陸に、そんな都合がいい物があるか?

 土産物屋なんて見なかった。商店はあるが、どう見ても”仕入れ”が、主な業務に見えた。


 そりゃぁそうだよな。

 ”観光”なんて考えられない世界だし、”土産”も同じだ。


「解っている。ギュアンとフリーゼにも買っていこう。それにしても、関係者が増えたな。」


「?」


「最初は、俺とカイとウミだけだったからな。それから、ライが来て・・・」


 最初は、どうなるかと思った。

 カイとウミが居なかったら、それから・・・。


「はい」


 昔はなしなど、意味がないと思っていたが、いろいろあった。

 物語の最終回が近づいてきたときの演出だが・・・。


 まぁ考えても仕方がない。


 シロと一緒に、港を目指す。


 港が見えてからが遠い。

 徒歩だから、当たり前と言えば、それまでだが、移動手段くらいは確保しておけばよかった。


 もう、遅い。

 今から確保しても、馬車を待っている時間で、港まで到着してしまう。


「カズトさん?」


「あぁ・・・。馬車が必要だったかな?と、考えただけだ」


「うん。ぼくは、カズトさんと歩けるので、馬車がなくても・・・。ないほうがいいです」


「そうか?」


「はい!」


 シロが嬉しそうにしている。

 疲れていないのなら、問題はないな。


「そういえば、シロは、訓練は続けているのか?」


「もちろんです!カズトさんを守る、最後の砦がぼくです。カズトさんが強いのは解っていますが・・・」


「そうだな」


 エルフ大陸に来てから、身体を重ねた時に、シロにお願いされたことがある。


 心境の変化なのかわからないけど、シロは俺には一秒でも長く生きて欲しいと伝えてきた。

 凶刃に倒れるのなら、自分が先に死ぬ。一秒でも、俺が居ない世界で生きていたくない。だから、死ぬときは一緒だとは言わない。”1秒でも、1分でも、1時間でも、1日でも、1年でも、長く生きて欲しい”らしい。

 俺も、むざむざシロを死なせるようなことはしない。

 俺も同じ気持ちだ。だけど、シロの言葉を尊重する。実際には、その時になってみないと・・・。俺はシロよりも長く生きるつもりはない。


 そのうえで、死ななければならない状況になっても、みっともなくても、汚くても、どんな方法でも、二人で生き残る方法を考える。


 俺の考えは、シロには伝えていない。

 だけど、二人で生き残る道を探そうとだけ伝えた。シロが納得しているか解らないが、”死”を選択して欲しくない。”死”を選ぶよりも、難しく、困難で、醜く、汚く、みじめかもしれないけど、シロとなら大丈夫だ。すべてを失っても、シロが居れば・・・。


「あ!」


 シロが指さす方向に、港の柵が見え始める。

 この大陸では、港を襲う勢力は皆無だ。


 港以外は、エルフが治めている。治めていた。力が無ければ、無条件で殺される。そんな場所だ。


 最初に感じた違和感は、森でわかるのだが、魔物が極端に少ない。小動物が少なくなっているから、捕食する魔物も少なくなっているのだろう。生態系が崩れたのは、森だけではなかったようだ。島全体がおかしくなっている。


 森エルフも、草原エルフも、農業をしているようには見えなかった。

 ”森の恵”だけで生活していたのか?


 根本から、変えないとダメかもしれないな。

 これだけの土地があり、水がある場所で、農業をするという発想にならなかったのか?


 豊かな森ならよかったのだが、どこかでバランスが崩れたのだろう。最初は、些細なことだったのかもしれない。

 それが、大きなうねりになって、エルフ大陸を覆いつくすまでに大きくなってしまった。


 ん?

 港が騒がしい?


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