スキルイータ

北きつね
北きつね

第二百八十八話

公開日時: 2023年11月12日(日) 12:04
文字数:3,079


 湖の集落に行く前に、フラビアとリカルダから報告を受ける。


 湖の集落は、ギュアンとフリーゼが仕切っていたのだが、人が増えた。フラビアとリカルダも運営の手伝いを行ったが、限界が近いようだ。


 元々は、別荘地にする予定で整備を行っていた。

 そのために、交通の便や、移動のしやすさや、生活を行う為の設備が少ない。


 フラビアとリカルダは、馬車の本数を増やして対応を行っていた。


「そもそも、湖の集落は、別荘地だぞ?そこに、利便性を求めるような奴は、他に移動した方がいい」


 俺の言葉に、フラビアが反応した。

 どうやら、最初はそのつもりで受け入れを行っていたのだが、近くには自由区しかなく、商業区のような大量に購入できる場所がなかった。

 そのために、商業区まで買いに行くと、今度は荷物の運搬に時間がかかるようになってしまう。


 この循環が悪い方向に転がってしまった。


「そうか・・・。商店か・・・。ちなみに、”湖の集落”の戸数は?」


「把握できているのは、23です」


「ギュアンとフリーゼを入れてか?」


「はい」


 23。増えるとしても30位だ。限界集落よりも少しだけ多いと考えると・・・。辻馬車の本数を増やすよりも、移動販売を行う馬車を作った方がいいかもしれない。


「フラビア。リカルダ。これから、言うような施策を行ったとして、十分に満たせられるか考えてくれ」


「??」


 不思議そうな表情をする。二人に、移動販売を行う馬車を説明する。


 行商と同じ仕組みだ。

 それを、”湖の集落”と商業区を、往復させる。


「行商ですか?」


 行商と同じだが、同じ場所を繰り返し移動するのだから、移動販売がしっくりくる。

 途中の自由区に寄ってもいいけど、決められた時間に、決められた場所に行くように調整すれば、それは商店と同じような物だろう。


 代理購入に近いけど、比較的、購入頻度が高い物や消耗品は、常に仕入れておけばいい。

 これは、行商と同じだ。フラビアとリカルダもイメージがしやすいだろう。


「そうだ。行商は、荷馬車を使うけど、こっちは馬車を使う。人も一緒に運べるようにする。馬車を連結させる」


「連結ですか?」


 人を運ぶようにしておけば、”購入が出来なかった”と文句を言われた時に、商業区まで連れて行けばいい。そのための足として利用ができる。


「そうだ。しっかりとした道を作れば、馬の負担も少なくなるだろう」


 道の作成が大前提だけど、できるだけ直線にしておけば、負担も減るし、レールを引くことも可能になる。

 最終的には、電車とは言わないけど、レールの上を走らせたい。


「大規模な行商だと考えれば・・・」


 イメージが難しいのだろう。

 大規模な行商だと思ってくれれば十分だ。


「そうだな。商隊だと思えばいいだろう。”湖の集落”に商店を作るよりはいいだろう。移動販売に無いものなら、そのまま馬車に乗って商業区に買出しにいけばいいだろう?」


「人選が難しいです」


「そうだな。商品は、スキルカードでのやり取りではなく、各商店と”客”とのやり取りを考えている」


「??」


 通貨の導入だ。

 二人に説明を行う。


 元の世界にあったような、通貨制度の導入は難しいと、考えている。

 状況に合わせて、やってみればいいと考えている。まずは、スキルカードの代わりに行政区が発行する札を使うようにする。


 ”湖の集落”に住んでいる者たちは、行政区で”割符”を購入する。

 この購入時に、移動販売を行う者の報酬が加算される。その後、購入する時に、割符で移動販売馬車から商品を購入する。商店は、貰った割符を行政区でスキルカードと交換する。

 割符なので、切った枚数は把握が可能だ。不正はできるだろうけど、メリットが少ない。

 割符が扱える商店を行政区で選別すればいい。この仕組みを、広げていけば、いずれは通貨と同じように取引ができるようになる・・・。と、いいな。


「どうだ?」


「解ったような・・・」


 シロは、話を聞いていたが途中で諦めた様だ。

 ギュアンとフリーゼに話を聞きに行くと言っていた。


 フラビアとリカルダも、どちらかがシロに着いていこうとしたが、二人で話を聞くようにつたえた。


「ひとまず、理解したことをまとめてくれ、あと、移動販売馬車の責任者は二人にするからな」


「「??」」


 ここまで話をしたのだから、わかるだろう?

 それに、シロの従者なら、どちらかが居ればいい。常に二人で居る必要はない。


「それで、神殿区に居る子供たちを使って欲しい。いわゆる、手伝いだな」


 神殿区の子供たちは、一時は数が減っていると報告があったが、昨今、他の大陸・・・。主に、中央大陸から流れてきた集団の中に、子供が多くいる場合があり、神殿区で子供たちを保護しなければならない状況になっている。


「え?」


 フラビアは、状況をなんとなく感じたのだろう。

 納得した表情をしている。


「リカルダ。子供に移動販売を教え込んで欲しい」


「あっ!はい!」


 理解ができたのだろう。

 神殿区では、子供たちに文字の読み書きだけではなく、簡単な計算も教えている。


 最終的に、どんな職業を目指すにしても必要な知識だ。


 それらを実践で試す機会を与えようとしている。


 テストケースとなれば、行政区から委託される形で、洞窟区やヒルマウンテン、ブルーフォレストとのやり取りを行ってもいいと考えている。それぞれには、行商が居るのだが、行政区が仕切るのは、行商よりも値段は高くなるが、行政区からの割符での商売が可能だという部分に、メリットを感じてくれたら嬉しい。

 失敗してもいい施策なので、気楽に考えていられる。


 失敗したら、貨幣の導入を遅らせればいいだけだ。


「わかりました。子供たちの為・・・」


「そうだな。それと、”湖の集落”に商店を作る必要がなくなるメリットが大きい」


「え?」


 商店は作りたくない。

 せっかく、商業区という場所を決めたのに、それを無視して商店が作られるのなら、いろいろな場所に出来てしまう。

 それは避けたい。商人が嫌いではないが、目の届く範囲に留めておきたい。


「移動販売が商店だろう?毎日は無理でも、隔日くらいには、小さな市が開かれることと同じだぞ?常設の商店が欲しければ、それこそ、”湖の集落”に住むな・・・。と、いいたい」


 小さな市になる位の馬車が必要だな。

 2連結では足りない可能性があるけど、多くなっても30戸だろう?気にしなくていいかもしれない。


 3連結くらいまで考えておけばいいだろう。


「・・・」


 フラビアもリカルダも内容は理解ができるのだろうけど、何か釈然としない雰囲気がある。


「なにか?考えや疑問があるのなら、聞くぞ?」


 二人から、切実な訴えとして、『”シロの従者”を辞めたくない』と言うのをいろいろな言い方で、告げられた。


「ん?辞めなくていいぞ?むしろ続けて欲しい」


「え?」「??」


「最初の事は、交代で移動販売に着いて行く必要があると思うけど、しばらくしたら、冒険者たちを雇ってもいいし、それこそ神殿から巣立った者たちの仕事としてもいいと思うぞ?」


 二人は、お互いの顔を見て、納得できたのか、計画実施に当たっての考えられる疑問をぶつけてきた。


 すぐに答えられる質問は、答えを告げた。答えられそうにない質問は、時間を置いて検討すると約束した。これは、ルートガーに投げないほうがいいだろう。そろそろ苦情の嵐が吹き荒れそうだ。


 ひとまず、”湖の集落”商店問題は、方向性が決まった。

 責任者の二人は、お互いでまだ何か確認を行っているが、疑問点が出たらまとめておくように伝えて、ギュアンとフリーゼの所に向かった、シロを探すことにした。


 本来の目的である。ギュアンとフリーゼとの話し合いは、すんなりと終わるといいな。


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