スキルイータ

北きつね
北きつね

第三百三話

公開日時: 2023年11月12日(日) 12:11
文字数:3,071


 帰ることにした。

 カイとウミとライもそのつもりで準備を行っている。


 準備と呼べるような物ではないが、倒したボスの素材は持ち帰ったほうがいい。ダミーコアの準備も終わっている。

 使い方も、コアに話を聞いているので大丈夫だ。それに、間違えても、コアがハッキングされたり、クラッキングされたり、乗っ取られなければ間違えた使い方をされても問題にはならない。

 チアルの対応が出来ない状況になったら、また攻略すればいいだけだ。その時には、ダンジョンを討伐することになるので、最悪はダンジョンが消滅してしまう可能性が高い。


 デ・ゼーウには、間違えた使い方をして、ダンジョンが暴走した時には、消滅の可能性があることを告げておけばいいだろう。


『マスター。魔法陣を使いますか?』


 ダゾレが、俺に話しかけて来る。

 魔法陣を使えば、一気に帰ることができる。目立つ事は避けられない。帰還の場所は、任意の場所に設定できるようなので、1層で人が行かない場所に転移すれば・・・。


 ん?

 何かを忘れている?


 そうだ!

 イェレラとイェルンとロッホスとイェドーアたちと合流して戻らなければならない。


 それに、ファビアンもダンジョン内に居るのなら、探して連れて行く必要があるのか?


 面倒だな。

 ルートガーの従者だけでいいか?


「途中で仲間を拾っていく」


 面倒だけど、拾っていかないとダメだな。

 デ・ゼーウに文句を言われるのは構わないが、ルートガーが行っているだろう交渉に影を落すのは得策ではない。


 完全な成功にするためにも、ファビアンを拾っていく必要がありそうだ。


 よかった。帰る前に思い出した。俺を褒めてあげたい。


『指定していただければ、こちらに呼び寄せます』


 指定?

 呼び寄せる?


「名前はダメだな・・・。どうやって特定する?」


 ダゾレが出来るのなら、チアルもできるはずだ。


 そうか、ダンジョン内という条件が付くのか?

 今は、便利だけど、使い道が限られそうだ。チアル・ダンジョンなら・・・。


『私に触れてください。階層を指示していただければ、階層の様子を見る事が出来ます。該当の人物に触れてください。マーキングをした人物を呼び寄せます』


 使い方は、コアに触れなければならないのなら、チアル・ダンジョンには使えない機能だな。

 ダミーコアでも同じ事が出来たら便利だ。無理なのは解っている。無理だけど、機能が付けられないかだけでも確認をしておこう。どんなスキルか解れば・・・。


「便利だな」


 今は、凄く嬉しい機能だ。

 早速、試したいが・・・。その前に確認をしておこう。


「ダゾレ。呼び寄せる場所は、指定できるのか?」


『可能です』


「リソースは?」


『ダンジョンの権能です』


「ダンジョンの運用に問題は出ないな?」


『はい。全員を呼び寄せるのは不可能です』


「わかった」


 ダゾレに触れて、階層を見ていくと、意外と時間が必要になりそうだ。


 ライが、皆と別れた階層を覚えていた。

 ライに指示されながら、4人を探す。


 ファビアンは、すぐに見つけられた。

 4人は、訓練でもしているのだろうか、バラバラに動いていた。


 戦闘中は、呼び寄せるのは難しいと言われたので、民が休むのを待っていた。


 待っている間に、ライを通して、チアルに俺たちを呼び寄せられるか確認をしたが、無理だと即答された。

 特に、俺とライとカイとウミは無理だと言われてしまった。他にも、竜族も不可能らしい。力を持つ者では、呼び寄せを行う時にキャンセルされてしまうようだ。シロでギリギリだと言われたので、使い勝手は良くない。ルートガーもギリギリらしい。眷属の繋がりがあれば、拒否は出来ないので、呼び寄せられる可能性があるというのがチアルの答えだ。

 簡単に言えば、やってみなければ解らない。対象が、ダンジョン内に居なければ出来ないようだ。

 俺やライやカイやウミは、ダンジョンの力への抵抗力が強いので無理だと考えているようだ。ダンジョンの力への抵抗力は、チアルが説明してくれたが、簡単に言えば、同じ魔物ではダンジョンの外に出た者とダンジョン内の者では、攻撃力が違うように思われていたのだが、実際にはダンジョンへの抵抗力が低い者だと、攻撃を受けた時のダメージに違いが出て来る。


 ファビアンと4人の監視を、ダゾレに依頼した。

 俺が見ていて見逃してしまったら、帰る事が出来ない。


「ダゾレ。頼む。仮眠をしていていいか?カイとウミとライも自由にしてくれ」


 壁に寄りかかって、目を閉じる。

 ダゾレが監視している上に、ボスがリポップする心配はない。1ー2時間くらい仮眠が取れたら、身体は少しだけだが楽になる。崩壊が近いと思って、少しだけ無理をした。カイやウミやライにも無理をさせた自覚はある。戦闘では無理をしていない。探索や移動で無理をさせられた。


 ダゾレからの呼びかけで意識が覚醒する。


『マスター。全員が揃っています』


「同じ階層に移動したのか?」


 そうか、ファビアンの所で待っていようと判断したのだな。

 確かに、ファビアンと別れた階層なら、護衛としては十分な力を持っている。4人も必要ないが、一緒に居た方がいいと判断したのだろう。俺を待っている間に、順番に戦闘訓練をするくらいのつもりで居たのかもしれない。


『はい』


「丁度よかった。セーフエリアに居るのか?」


 ファビアンならセーフエリアに居るだろう。

 一応、確認をしておけばいいだろう。


『はい』


「俺たちを、彼等の場所まで移動させてから、1階層に移動できるか?」


『無理です』


 想像はしていたが、俺たちが移動するのには、制限なり条件なり、何かしらの枷があるのだろう。

 無条件に使えてしまったら、いろいろな事が破綻してしまう。


「わかった。彼等を最下層の階層主の部屋に呼び寄せるのは大丈夫だよな?」


 最初に考えたプランで帰還するのがベターなのだろう。

 もしかしたら・・・。

 今は、帰還するのを優先しよう。チアル・ダンジョンで試せば、違った知見が得られるかもしれない。


『可能です』


「そのあとで、魔法陣を使って、1層に戻るのはできるのか?」


 これは、最初からできると言われているので大丈夫なのだろう。


『可能です。帰還場所の指定が出来ます。先に、魔法陣で帰還する場所の指定をお願いします』


「帰還する場所を、1層に設定して、部屋にすることはできるか?」


 帰還する場所が指定できるのは嬉しい。


『可能です』


「部屋の扉には鍵を設置できるよな?」


 鍵は、どんな物でもいいが、最下層のボスを倒したらドロップした鍵だと言えば、持っていても不自然ではない。


『可能です』


「部屋の鍵は、1本だけで、俺が持っていく」


 1本だけしか作られていない鍵で、最下層を攻略して、魔法陣で帰ると、部屋から出られない。


『はい。部屋の広さは?』


「このコアルームと同程度。真ん中に、ダミーコアのダミーを置けるか?機能は何もしない物だ」


『可能です』


「作成してくれ、完成したら、彼らを呼び寄せる」


『完成まで、2分37秒』


 すぐに、終わりそうだ。

 カイとウミとライを伴って、階層主の部屋に移動する。帰る為の魔法陣は既に出来上がっていて、上に乗ればスキルが発動する。このスキルカードが欲しいと思ってしまうが、最低でもレベル10だろう。似たような使い道が解らないスキルカードがある。何度か、取り出して使おうとしてみたが発動しない。


『呼び寄せを実行します』


「たのむ」


 俺たちの前に、新しい魔法陣が現れる。


 光の柱が天井まで伸びた。


 光がおさまると、ファビアンと4人が、怯えた表情を浮かべていた。


「ツクモ様」「カズト様」


 それぞれが俺を見て、安堵の表情を浮かべる。

 完全に、光の柱が消えるまでは外に出られないようだ。


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