スキルイータ

北きつね
北きつね

第三百五話

公開日時: 2023年11月12日(日) 12:11
文字数:3,119


 ルートガーとファビアンが、俺たちから離れた。ルートガーの従者として連れてきた連中も、ルートガーと一緒に交渉をまとめるように伝えている。ダンジョンの内部の説明を、ファビアンだけに任せるのは、ルートガーの立場が悪くなる。俺が着いて行くことも考えたが、ルートガーに交渉を任せるのに、俺が一緒では意味がない。従者たちは、ダンジョンに潜っている。俺の代わりに、ルートガーにダンジョン内部の説明をする役割を与えた。

 それに、記録係りくらいはできるだろう。

 ルートガーには必要がないと言っても、従者だけではなく護衛としての役割も必要になってくる。


 ルートガーからは、俺に対する護衛として、従者を残していくと言われたが邪魔になる可能性が高い上に、俺にはカイとウミとライが居るから必要がないと言って、引き取らせた。

 スキルカードは、持たせたままにしている。俺には必要性が低いカードで、枚数も揃っている。簡単に無くなるような枚数ではない。

 拠点に帰れば、減ったスキルカードの補充ができるだろう。簡単に補充ができないスキルカードもあるが、それは使っていないし、渡していない。


『カズ兄!』


 ウミが、森に視線を向けている。

 俺にも解るくらいの距離まで近づいてきているようだ。森から出る寸前だ。止る気配がない。森から出てきて、人里を狙うのか?


 人ではない。魔物なら、森から出るような行動を取らない。できそこないか?


「カイ!」


 既に、ライを乗せたカイが走り出している。


 近くには人が居ない。


「ウミ!」


『任せて!』


 カイとウミが走り出した方向に、俺も走り出す。


 索敵では、3体のはずだ。

 カイとウミとライが負けるとは思えないが、俺がサポートに回れば確実だろう。


 それに、索敵範囲のギリギリを移動している、反応があるのも気になっている。俺の索敵範囲が認識されているようで気持ちが悪い。

 俺が近づくと、一瞬だけ索敵の範囲内に入るが、すぐに範囲から外れる。

 確実に、俺の動きを把握している。同じレベルの索敵ができるのか?それとも、違うスキルか?


 一気に加速する。


「カイ。ライ。手前の3体は任せる!ウミ!」


『うん!』


『はい』『わかった』


 ゴブリン?

 こんな色だったか?

 角がある?


 正面からカイとライが攻撃を仕掛けるが、俺とウミを狙ってスキルを使ってきた。

 レベル4の炎弾だ。ゴブリンがレベル4のスキルを使う?

 それも連射だ。


「ウミ!」


『大丈夫!』


「ライ。森へのダメージを最小限に保て!」


『わかった』


 ライが、炎弾を水弾で相殺していく、それでもゴブリンたちは止らない。


 なにか、おかしい。


「カイ!ウミと一緒に、後ろに居る奴を狙ってくれ」


『カズト様!』


「こいつらは、俺を狙うようになっている。ライが居れば大丈夫だ」


『はい』『任せて!』


 カイが起動していたスキルをキャンセルして、走り出す。

 ライは、俺の肩に乗り移ってから、スキルを発動する。


「ライ。ゴブリンたちを囲むように、結界が張れるか?」


『近づいたら可能です』


「わかった」


 カイとウミが、後方に居る1体に向かった。

 逃げるそぶりは見せない。


 戦闘状態になっていると判断しているのか?

 それとも、何か法則があるのか?


 ターゲットが俺だから、俺が近づかなければ逃げないのか?


 解らないことだらけだけど、まずはこいつらを倒してしまおう。


 ゴブリンに近づいた。

 間合いはまだ遠い。スキルの距離だけど、スキルを使う前に・・・。


「ライ!」


『うん』


 ライが、結界を発動する。


 これで、スキルを使っても大丈夫だ。


 刀に氷を纏わせる。

 このゴブリンたちは、通常のゴブリンと違って、スキルを使ってくる。


 上位種とか変異種ではない。


 新種だと思われる。知識は、ゴブリンとそれほど違っていない。ただ、スキルを持っているだけか?


 刀で切りつける。

 硬い!


 爪で反撃が来る。

 交わして、腕を切り飛ばす勢いで刀を振るうが、硬い。


「ライ!レベル5。解放」


 ライが持っているスキルカードで、レベル4までを使うように指示を出す。


 俺も、刀に纏っていた氷を解除して、振動を付与する。レベル5のスキルだ。


 これで効かなければ、距離を取って、もっと上位のスキルを使う事にする。


 幸いなことに、動きはゴブリンと変わらない。

 硬い事と、レベル4のスキルを使ってくる。


 俺とライなら、数が倍になっても対処ができる。

 しかし、このゴブリンがゼーウ街に到着したら?


 ルートガーに対処ができるかギリギリだろう。スキルカードを出し惜しみしなければ勝てる可能性は高くなるが、このゴブリンが3体で終わりだと思うのは楽観すぎる考えだろう。

 デ・ゼーウには対処が不可能だ。

 難しい問題になってきた。


 振動を付与した刀なら、新種のゴブリンの皮膚を切り裂ける。

 物理耐性が強いだけで、無効にはなっていないようだ。


 スキル耐性もある程度はあるのだろう。

 レベル4のスキルでは、ダメージらしいダメージは見えなかったが、レベル5になるとダメージをあたえられる。


 通常のゴブリンなら、スキルはレベル3で十分だ。

 そもそも、スキルを使用しなくても、十分に倒せる。


 3体のゴブリンを”新種”と認定して対応を行う。


「ライ。1体は、スキルを使わないで倒す」


『うん!』


 あまりにも、通常のゴブリンと違う。


 上位種では、武器を使う場合はあるが、スキルを使ってこない。

 変異種になって、武器の代わりに属性のスキルを使ってくるが、レベル1か2程度だ。

 レベル4相当のスキルを連射してこない。


 ゴブリンが進化に成功している印象がある。

 動いていて、鑑定が通らない。弾かれている印象もある。


 俺の鑑定が通らないのは初めてじゃないが、レアな現象だ。

 弱らせて、鑑定を通す必要がある。


 1体は、俺が振動のスキルを付与した刀で倒した。

 1体は、ライがスキルを使って倒した。


 倒されたゴブリンを鑑定すると、進化体だと解るが、それだけだ。


 残った1体を、スキルを使わないでダメージを蓄積させる。

 刀でのダメージは、硬い皮膚に弾かれるが、徐々に傷がついているのが解る。ライの攻撃で、皮膚が溶かされているようだ。


 ダメージが蓄積されれば、それだけ鑑定を弾く力も弱まってくる。


「ライ!拘束!」


 ライに指示を出す。

 これだけ弱まれば、拘束が可能だ。


 暴れるが、ライの拘束の方が上だ。


 鑑定が通った。


 進化したゴブリンで合っているようだ。

 スキルが3つ?


 レベル3の体力強化を持っていた。


 しかし、防御力が上がるようなスキルがない。

 肌が硬くなるのは、レベル6の硬化かと思ったが、種族属性のようだ。


 種族がゴブリンのままなのは、進化した証拠だと見てよさそうだ。

 称号に、”進化体”とあるので、やはり、新種は進化に成功した個体なのだろう。


 そして、俺たちが、当初”新種”だと思っていたのは、やはり進化に失敗した個体だと考えていいだろう。


「ライ。倒していいぞ!」


『はぁい』


 ライが、進化したゴブリンを吸収する。

 抵抗しているが、無駄な抵抗だ。


 ライに溶かされていく、途中でゴブリンが倒された。

 スキルカードが残された。


 持っていたスキルがスキルカードにならなかった。

 もともと、進化する前のゴブリンと同等のカードが残される。


 進化したスキルではなく、元々のゴブリンの特性になるようだ。


 強さに合っていない。

 倒すのに苦労するのに、実入りが少ない。


 今回が、”たまたま”の可能性だってあるのだが・・・。


『カズト様』


 カイとウミも終わったようだ。


 時々聞こえてきた内容では、上位種のゴブリンの進化体だと思う。

 命令を出していたようには思えないが、下位のゴブリンの進化体を操っていたような感じだ。


 カイとウミは、スキルを使わないで倒した。

 流石に、捕縛が難しく、討伐になってしまったようだ。


 スキルカードが出たが、やはり進化前の上位種のゴブリンと同等のようだ。


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