氷浦さんと麗奈さんの両方からOKを貰ったため、杏奈さんが俺に向かって攻撃してきた。
「うっ!」
軽く防御体勢に入ったものの、杏奈さんの攻撃スピードに対処することは出来ず、防御していない部分を的確に攻撃されていた。
そのため先ほどの麗奈さんの戦闘とまではいかないものの、ダメージは相当な……
「え?」
確かに痛いのだけれど、スキルによる回復力の高さで余裕でカバーできる程度の威力でしかなかった。
なんなら、杏奈さんの攻撃を受けることでスキルを獲得する条件を満たしそうなのでしばらくしたらダメージの収支はプラスに転じてしまいそうだった。
先ほどの試験で体力が切れているから威力が乗りにくいというのを加味しても、杏奈さんが自己申告しているレベルよりもずっと低い水準だった。
「ね、如月君。わかったかな?」
「はい……」
試験を受けている建前上、出来れば杏奈さんの事を支持したかったのだが、これを受けてしまったらそう答える以外に無かった。
「杏奈さんはステータス上の攻撃力は特に問題が無い。ただ、その攻撃力を戦闘で発揮することが出来ていないだけ」
「恐らくは飛鳥のせいだろうな」
「俺ですか?」
「ああ、そうだ」
話を聞いていた麗奈さんはそう結論付けた。
「そこって関係あります……?」
別に杏奈さんの攻撃が低くなるような行為をした記憶は無いんですが……
「当然だ。飛鳥の攻撃が高すぎたせいで、ボス戦では妹は攻撃を全て飛鳥に任せて引き付け役に回っていただろう?」
「確かにそうですね……」
攻略の効率を重視していたのでボス戦での攻撃役は殆ど俺が担っており、杏奈さんは相手の気を引くための攻撃が主となっていたのは確かだ。
「そのせいで、如何にして一発の威力を上げるかよりも如何にして攻撃の手数を増やして相手の気を引くかに終始してしまった。その結果、レベルが上がっても威力が一切上がらなかった。後は、飛鳥の攻撃力が高すぎて自身の威力の変化に気づきにくくなっていたのもあるだろうな」
「そんなことが……杏奈さん、そうだったんですか?」
「ええ、確かに手数を増やす事に終始していたわ。でもどんどん雑魚敵の討伐スピードが上がって楽になっていたから威力も上がっていたのだと勝手に思っていたわ。単に一発当たりの負担が減っていたから相対的に楽に感じていただけだったらしいわ」
杏奈さんも、麗奈さんの意見を肯定していた。
「ってことで、威力を上げてきてね。僕の装甲を破れるくらいに」
「それが出来たら今からでも日本最強なので無理ですが、出来るだけやってみます」
そのまま俺は麗奈さんにAランク昇級試験を突破した申請をしてもらい、会場を出て待ってくれていた杏奈さんに合流した。
「これからどうします?」
「ショッピングに行くわ。付いてきなさい」
俺がスマホを弄っている杏奈さんにそう聞くと、そんなことを言われた。
「ショッピング?」
「何?文句あるのかしら」
「いや、杏奈さんがショッピングをするって言いだすなんて珍しいなって思って」
てっきり杏奈さんは買い物をネット通販とかで済ませる派だと思っていた。わざわざ店を回って買うのは時間の無駄だからって。
そしてストレス発散が目的でも、通販でポチポチして家の中でたくさん買い物をするのかと。
「何を言っているのよ。ショッピングなんて誰でもするでしょう、召使いがいるわけじゃあるまいし」
「召使いって……」
「ああ、もしかしてあなたが私の召使いになってくれるのかしら?」
これまでは殆ど無表情に近かったのだが、突然俺に向かって顎クイしてきてニヤッと笑いかけてきた。
「えっと……?」
顔が凄く近いんですが。
「そうね、召使いとして採用する前に荷物持ちとして資質を問おうかしら。あなたは探索者として才能があるだけで、召使いの才能があるかどうかは分からないものね」
と杏奈さんは言うと、どこかに向かって歩き出した。
「どこに行くの?」
「それはそれは素晴らしい場所よ」
先を歩く杏奈さんについて行って話を聞くと、満面の笑みでそう答えてくれた。
杏奈さんって満面の笑みって出来るんだ……
だけどそれが今なのが凄く怖いです。
そのまま電車に乗り、移動すること50分。たどり着いたのは真っ白で巨大な建物の前だった。
「なにこれ……」
真っ白な建物というのは良く見かけるのだが、一切の装飾も無く、窓すらない四角の建物は見た事が無い。
例えるのであれば巨大な豆腐である。とはいっても滅茶苦茶堅そうだから美味しそうでは無いけど。
なんなら入口すらない気がする。どこから入るのこれ。
「入ればわかるわ。行くわよ」
そう言って杏奈さんは壁に向かって真っすぐ歩き出した。
見えていないだけで近くに入口があるのかなと思い、周囲を見回して客を探してみたが、全員壁に向かってまっすぐ進んでいた。
そしてそのうちの一人が壁にぶつかり、消滅した。
「え?」
何が起こったのか分からず困惑していると、周囲の客が次々と壁の中に飲み込まれていった。
しかも一人が先ほど消滅した場所ではなく、完全にバラバラである。
「ほら、入るわよ」
杏奈さんはそんな俺を急かしてきた。
「どうやって?」
「どうやってって言われてもこうよ」
杏奈さんはそう言って目の前の壁に消えていった。
「大丈夫かな……」
若干不安に思いつつ、思い切って壁にぶつかってみた。
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