「そうね。でもその前に皆に言っておかないといけない事があるわ」
「言っておかないといけない事?」
「これからダンジョンの出口から脱出するのだけれど、その際にダンジョンボスになるかどうかの選択肢が現れる人が何人かいると思うわ。出た人はとりあえず『いいえ』。ならない方を選択しなさい。絶対によ」
「「はい!」」
と杏奈さんが説明すると、皆元気よく返事していた。
「じゃあ先に出なさい」
何かあったときに対処できるように俺たちは皆を先に脱出させることにした。
「ねえ、これ言う必要あった?」
皆の様子を見守りながら、隣に居た杏奈さんに疑問を投げかけた。
ダンジョンボスになるか否かなんて現状俺しか出ていない選択肢だから、皆には出ないと思うんだけど。
「ええ、美月さんにあなたと同じ選択肢が出る可能性があるからよ」
「俺と同じようにスキルを無限に獲得できる人だから?じゃあ美月だけに言えば良かったんじゃない?」
「念のためよ。同じ孤児院にそういう人間が二人も居たのよ。なら三人目以降が居てもおかしくないじゃない?」
「確かにそうかも」
「まあ、そこはダンジョンボスとは関係ない可能性もあるけれど。単にあなたが人間じゃなかったという線は否定できないから」
「そこは否定してくれない?」
一応でもなくちゃんとれっきとした人間なんですよ。両親は不明だしレベルは上がらないけれど。
そして皆が居なくなったことを確認し、俺たちも脱出した。
「出てきたぞ!!!!!」
「早く保護してホテルに連れていけ!!」
すると、脱出した先には大量の救急隊員と探索者が居て、先に脱出していた子供たちと夏希を保護していた。
「私はダンジョン探索省から来ました水野忠司です。お二人が皆を引き連れて脱出した探索者の方ですか?」
しかし、俺たちは保護されることは無くスーツを着たダンジョン探索省の職員に話しかけられた。
全員には話しかけていない筈なので、脱出してきた人の中で俺たちが探索者だと見切りをつけたのだと思う。
俺たちだけ洋服が血とかで汚れているから分かりやすいよね。
「そうですね」
「では探索者証を見せていただけますか?」
探索者証。これが無ければ探索者として活動していくのは許されない。まあ今回に関しては活動の認可がされているか、というよりは後日事情聴取するために名前を控えておきたいというのがあるのだろう。
前回は普通の形だったので聞かれることは無かったが、今回は入り口から脱出できないという超イレギュラーなタイプのダンジョンだったしね。中身を知っておきたいのだと思う。
「えっと、脱出してきた成人女性の方はもうホテルとかに連れていかれました?」
「はい。目立った外傷などは無かったので」
「あー……」
特に断る理由なんて無いので出したかったのだが、俺も杏奈さんも財布を夏希に預けていたので今は持っていなかった。
「その女性が探索者証を持っているので今は提出できないです」
「ああ、そうでしたか。ではお名前と探索者のランクを教えてください」
「如月飛鳥、Aランクです」
「卯月杏奈、同じくAランクです」
「Aランクですか。お二人とも高校生くらいの年齢ですよね?」
「そうですね。でもちゃんとAランクですよ」
「分かりました。では後日連絡させていただきます」
そう言ってスーツ姿の男性はどこかに去っていった。
「とりあえずみんなの元へ行きましょうか」
「そうだね」
無事な事は分かっているけれど、念のため様子は見ておきたいし今後の事も話し合っておきたいしね。
というわけで皆が連れていかれたと思われるホテルへと向かおうとすると、
「ちょっとお話良いですか?」
「ダンジョンの中身はどんな形でした?」
「その若さで既にAランクって本当なんですか?」
「所属ギルドはどこでしょうか?」
と集まっていた多数の記者に詰め寄られた。
今までに見たことの無い形のダンジョンが登場したため、わざわざ駆けつけてきたのだろう。
「今から皆の元へ行きたいんですけど……」
記者たちが色々と聞きたいことがあるのは理解できるけれど、今はちょっとね。
「そこを何とか!」
「ほんとに数分だけなので!」
「お願いします!」
俺が断っても、記者たちは諦めず少しだけ少しだけと粘ってくる。
「あの……」
記者たちは俺たちの周囲を逃げ道が無いくらいに囲っており、強引に脱出する以外の方法が残っていなかった。
しかし、そうしてしまうと逆恨みした記者が俺たちの事を悪く書いてくることは確実なので出来る限り穏便な手段を取らなければならない。
『さっさと行きたい気持ちは分かるけれど、これはインタビューを受ける以外無いわ。』
『だよね……』
やっぱり諦めるしかないよね……
『せっかくだから私たちのギルドを全力でPRすることにするわ。だから質問は私に任せて』
『わかったよ』
「分かりました。私が代表して質問に答えます。ただ、今後国の方にダンジョンについて説明しなければならない可能性があるので、自主的に解答を控える部分があることをご了承ください」
杏奈さんが質問に全て答えてくれるということなので、俺はただ見ていることにした。
「今回のダンジョンは何ランク相当でしたか?」
「ボス自体の強さだけで考えるとAランクでしたが、道中はBランクとCランクの境程度だったので各々のダンジョンの価値観で変わる気がします。ダンジョンの入り口から脱出できなかった状況を加味するとAランク相当でしょうか」
「何か特徴はありましたか?」
「全ての敵が剣を装備していたことですね」
「全て、ですか?」
「はい。ハーピーのような本来剣を使わないようなモンスターですら無理やり剣を装備していたので異常な光景でしたね」
「ボスは一体どんなモンスターでしたか?」
「それは念のため解答を伏せさせていただきます。ただ、先ほど言った通りAランクと指定されているモンスターではあります」
「何階層でしたか——」
と杏奈さんは次々と飛んできたダンジョンに対する質問にそつなく答えていった。
そしてダンジョンに関する質問に大体答え切った後、
「お二人ともおいくつですか?」
とダンジョンではなく、俺たち自身に関する質問へと移り変わった。
「両方18です。一応現役の高校生ですね」
「ってことは高校生なのにAランクの敵を倒したってことですか!?しかもあの人数の非探索者を守った上で!?」
「はい。帰ってきたということはそういうことですよ。一応Aランクの探索者でもあります。証拠はホテルに行った方に預けてあるので今見せることは出来ませんが」
と俺たちのランクと年齢を公表すると、記者たちはどよめいた。
そして、そこからさらに質問は加速していった。現在入っているギルドの名前や、ダンジョンに潜り始めたのはいつからか、そこまで効率的なレベル上げを実現した要因という探索者としての俺たちに関する質問から、高校生活や男女二人でギルド活動を行っていて困ったことや楽しかったことのような個人的な内容に関する質問まで様々な事を聞かれた。
「一旦質問はここまでにさせてください。どうしてもまだ聞きたい事がある方はしばらく待っていただけると幸いです。ほぼ確実に記者会見が行われると思うので」
大体15分ほど質問に答えてから杏奈さんは質問を打ち切った。
集まっていた記者の割には短い時間だったが、出てきた答えが記事やニュースにするには十分すぎるものだったため満足して道を開けてくれた。
「じゃあ行きましょうか」
「そうだね」
俺たちは記者に見送られ、皆が休んでいるホテルへと向かった。
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