「え?」
杏奈さんは軽い感じで言っているのだが、結構な事なんですがこれ。
この間俺たちの事を世間に晒し上げた上で襲撃してきた宗教団体だよ!?
「何か危害を加えようとする意志はございません。これに関してはただ信じてくださいとしか言う事が出来ません。お願いします」
「分かった。行こう」
「ええ!?」
絶対に行くべきではないと主張しようとしたら、イザベルさんが先に教徒の提案を受け入れてしまった。
「大丈夫だ、安心しろ。私が保証する」
「イザベルさんがそこまで言うなら……」
どうして確信を持っているのかは分からないが、自信満々に大丈夫だと言われてしまったら断るわけにはいかなかった。
「ありがとうございます。ではお連れ致します。少々お待ちください、連絡しますので」
そう言ってから数十秒後、家の前に立派なリムジンがやってきた。
人生でめったに乗れることの無い立派すぎる車だけれど、1年以内に2回目となると流石に感動は若干薄れてしまっていた。
出来るなら一度リムジンに乗った時の記憶を消してから乗りたかったなあなんて思いつつ、移動すること約2時間。都内の一等地にあるあまりにも立派すぎる建物に辿り着いた。
「これが地神教の総本部……」
地神教も世間一般に存在する新興宗教みたいに超巨大で綺麗な建物があるとは知っていたが、想像以上だった。
地元で一番大きなデパートとか学校にすら圧倒的大差をつけて勝利する大きさだ。こんな大きな建物は初めて見た。
『師走の先』関連の建物は与えられている土地が広いだけで建物一つ一つはそこまで大きいわけじゃなかったし。
そんな立派すぎる建物は生活に余裕があるB級以上の探索者として活動している教徒だけから資金を集めて作ったらしいのだから更に驚きだ。
「お待ちしておりました。秘書のカナリアです。教祖がお待ちしておりますのでどうぞこちらへ」
立派な建物に感心していると、秘書の方がやってきたのだが、
「ん?」
気のせいでなければ獣の耳がついていたように見える。帽子を被っている上に髪で人の耳があるはずの部分は隠れていて分からない。
まあでも、異世界アンチとして活動している地神教がまさかそんな、ね。
二人は気付いていないのか、気付いている上で放置しているのかは分からないが、秘書に対して何か言うことは無かった。
そんな謎な秘書に案内されて立派な建物によく似合う綺麗なエレベーターで最上階に昇り、正面にあった教祖の部屋に入った。
「お待ちしておりました。如月さん、卯月さん、そしてイザベルさん」
先日の記者会見では仇敵を見るような表情で演説をしていた教祖の相田彰彦は穏やかな笑みで俺たちの事を出迎えた。
「こんにちは」
「さあさあ、お掛けください」
俺たちは教祖に促されるがまま、教祖の正面にある立派なソファに座った。
「それで、今日はどんなご用件で?」
ソファに座るや否や、杏奈さんは雑談をすることもせず真っ先に本題に入ろうとした。
「早速ですか、でもそうですよね。現状ここは敵の本陣であるわけですし」
教祖はそんな杏奈さんを見て軽く笑っていた。
これは本当に敵対する意思はないのか……?
「分かっているなら早くお願いします」
「分かりました。では率直に言います。私たち地神教と共闘してくださりませんか?」
教祖から切り出された本題は予想だにしないものだった。
「共闘ですか?何のために?」
地神教はダンジョンから産まれたものの排除を主目的としている。そんな地神教がダンジョンを通じて異世界からやってきた俺たちと共闘?
「はい。我々と共に世界を牛耳る異世界出身の人間を倒していただきたいのです」
「世界を牛耳る?」
「そうです。現在世界で最も影響力のあるギルドだとされている10大ギルドの内7個は異世界出身の人間が代表、もしくはそれに近い位置にあたります。これに関しましては如月さんとイザベルさんが動画投稿サイト等で代表が話している動画をご覧になれば理解していただけるはずです」
「10大ギルド……」
10大ギルド。その名の通り世界で最も影響力の高い10ギルドの事。実力もそうだが、人数、活動している国の数などが加味されている。
ちなみに麗奈さんがギルドマスターの『師走の先』は入っていない。その理由は、杏奈さんが日本を拠点にしているから全ての機能を日本で利用できるようにしようと海外に一切展開しなかった為である。
実際海外に少しでも展開を始めたら10大ギルドには余裕でランクイン出来る。
弥生が所属していて『師走の先』と同格とされている『魔術師の楽園』が10大ギルドの9番目だからね。
「7個とは予想以上ね」
異世界人がリーダーとして大量の外国人と共に俺たちを襲撃をしてきたあたりで一定数の異世界人が社会に影響を与えていることは分かっていた。しかし、せいぜい大手ギルドの一つや二つとかそのレベルにとどまると思っていた。
「はい。でも彼らがただ優秀な地球の人間として生きていくだけであれば特に問題はありませんでした。ただダンジョンから出てきた優れた道具や素材によって人々の生活が豊かになっていくだけですから」
「そうね。でも何かあったんですね」
「はい。彼らは持ち前の実力や成長速度でダンジョンから出てきた素材を世間に普及させつつ、影響力を持ったところまでは良かったのです。ですが、彼らはそれだけでは満足しなかったのです。先日、あなた方を異世界人が外国人を率いて襲ってきたのを覚えていますか?」
「はい、ダンジョン存続の為だと主張していました」
「あれは嘘です。私たち異世界人が何かアクションを起こしたところでダンジョンを破壊することは出来ませんから。あれの真の目的は、将来性のある異世界人を排除することです」
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