「異世界人が異世界人を排除……?」
「はい。彼らは自分たちの既得権益を守るため、ありもしない理由を付けて国に許可を取り、異世界人を排除するために動いているのです」
「酷いですね……」
既得権益を守るために同郷の人間を排除しているのか。それが本当であればとことん腐っているな。
「だから私はこの宗教を通じて身勝手な理由で処分されそうになっている異世界人を保護しているのです」
「の割には異世界人を敵対視していませんでしたか?」
がっつり世間に公表した上で襲撃していたじゃないか。あれで保護というのはおかしな話である。
「あれは異世界人を欺くためのカモフラージュです。あそこまで異世界人を排除する姿勢を示していたら我々地神教が異世界人を保護しているとはバレませんから。カナリアさん、帽子を取ってみてください」
「分かりました」
教祖の指示を受け、秘書のカナリアさんは帽子を取る。するとそこには立派な猫耳が生えていた。
「本当だったんですね。でもそれなら事前に伝えておいてくれても良かったのでは?」
確かに杏奈さんの言う通り、あんな不意打ちのような形をとる必要は無かったように思える。
「あれは確認の為ですね。一つは我々が救うに足る相手であるかどうか。いくら狙われているとは言っても悪党を救うのは皆が納得しませんからね。そしてもう一つは実力を確かめるためです。我々が保護しなくても自身で身を守れるのであれば保護をする必要は無いですし、むしろ協力を依頼したいですしね」
「襲撃の結果、私たちは自身で身を守れると判断されたわけですね」
「そういうことです。というわけで協力をお願いしたいのです」
「分かりました。では、一つ質問をさせてください。地神教は異世界人に対してはどういうスタンスなのですか?」
「地球の方と同じ、ダンジョンの被害者であり将来的には共生していくべきだと考えております」
「分かりました、全て本心のようですね。出来る範囲で協力しましょう」
杏奈さんは教祖の言葉を受け入れたようで、協力する姿勢を見せていた。杏奈さんの独断だったが、俺とイザベルさんも特に否定する要素は無いように思えたので特に何も言わなかった。
……ん?
「ちょっと待ってください。もしかして、教祖さんも……?」
冷静に振り返ってみると、言葉の節々に違和感があった。まるで教祖も……
「そうですよ。私もお二人と同じように異世界出身の人間です。だから相田彰彦という名前は偽名です。本当の名前はレグルス・アインハルトです」
本当に教祖も異世界人だった。
「であれば異世界人を保護しているという主張にも納得ですね」
教祖自身が異世界人で、秘書にも異世界人を採用しているのであれば味方だと考えても差し支えないだろう。
「ちなみにその事実は地神教のどのくらいがご存じなんですか?」
「私が異世界人であることを知っているのは幹部以上の上層部限定ですが、異世界人を侵略者ではなく被害者として認め、保護をしていることを知っているのは入信して1年以上経った教徒のほぼ全員です」
「あれは全て演技だったわけですね……」
本気で異世界人を憎んでいるようにしか見えなかったので、流石の演技力である。
「で、実際には何をすれば良いのですか?」
「一月後、恐らく異世界人が率いるギルドが本格的にあなたたちの事を潰しにくると思いますのでダンジョンに潜りまくってひたすらに強くなってください」
「分かりました」
「また異世界人の二人はスキルを獲得しても強くなることが可能ですので、これらのスキルを順番に獲得していくとより効率的に強くなることが可能だと思われます」
教祖はそう言ってスキルの取得順番について事細かに書かれた冊子を渡してきた。
「もしかしてこれ全てを一月以内にですか……?」
スキルで強くなる異世界人が集まって作ったであろうことは分かるのだが、取得をお勧めする戦闘系スキルがあまりにも多すぎる。
パラっと開いた2,3ページだけで100個以上のスキルが乗っていたのだ。
「いえ。そんなことはありません。流石に全てを一月で取得するのは不可能です。そもそもこれら全てを獲得できた者は一人も居ませんから。あくまで全てを取得すればだれにも手が付けられない最強の探索者になれるというだけです」
「ですよね……」
どんなスキルでも時間で測るものであれば10時間以上で、回数で測るものは100回以上だものね。
100個取るためには最長だと1000時間かかるし。
一応すべてのスキルを取得できる俺はスキル特訓系のスキルで短縮できるから100個なら別に難しくはないけれど、この冊子に乗っているのは100どころか1000すら軽く超えてそうだから100%無理です。
もしこれ全て取ってこいって言われたら協力関係が破綻するところだったよ。
「ということで、もし何かあれば秘書のカナリアさんに連絡してください。全力で対応いたしますので」
「分かりました。ありがとうございます」
「ではお宅までお送りいたしますので、皆さんソファの後ろに立っていただけますか?」
「?分かりました」
何が目的なのか分からないが、俺たちは言われるがままにソファの後ろに立った。
「では、そこから動かないでくださいね」
と教祖が言うと、地面が光りだした。
「これは転移魔法か。ということはお前の職業スキルは……」
「はい。【征服者】です」
「征服者!?!?!?」
「誰にも言わないでくださいね」
「いや、ちょっと待って!!!!」
唐突に打ち明けられた職業スキル、【征服者】であることに問いただしたい事が出てきたのだが、転移魔法が停止することはなく家に送り返された。
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