「……!!」
と勇者が言った直後、勇者の姿が目の前から消えた。
『後ろだ』
「ぐっ……!」
声のお陰でぎりぎり反応出来たが、完全には防ぎきれず吹き飛ばされた。
かなりのダメージを負ってしまったが、体は分離していなかったのでぎりぎりセーフだ。
『なるほど。これを耐えきるか』
「このくらい……」
強がってみたは良いものの流石にダメージが大きく、回復しきるには少し時間がかかりそうだ。
『本当に我々の味方になる気はないか?その若さでその強さ。仲間となるには十分だ』
「なるわけないだろ!」
どうやら俺の実力を認め、味方に引き入れたいようだが絶対に仲間になんてならない。自分の地位を保つために台頭した異世界人を殺すような相手なんて。
『本当に残念だな。ではそうだな……』
勇者は突如振り返り、杏奈さんたちの方へ剣先を向けた。まさか……
「皆、逃げて!!!!!!!」
俺は危機を察知して全力で叫ぶが、時は既に遅かった。剣先から真っ白で巨大なエネルギー波が放たれ、杏奈さんたちが居た場所を全て呑み込んだ。
「皆!!!!」
『ははは、生きているわけが無かろう。勇者の波動だぞ?』
勇者の言う通り、波動が放たれた先は数百m先まで地面ごと抉れて何もかもが消え去っていた。
俺の見る限りでは皆が避けられたようには見えなかった。つまり本当に……
「よくも……よくも!!!!」
『仕方ないだろう。弱い癖に我々に反抗しようとしたのだから。おっと、安心してくれ。お前が味方にならなかったから殺したわけじゃないぞ。お前が味方になったとしてもどの道殺していたからな。役にも立たない危険因子等要らないからな』
「ふざけるな……!!!!」
こいつらはここで殺しておかないと。死んでいったみんなの為にも。まだ生きているみんなの為にも。
俺は敵を倒すため、まずは勇者のところへ突っ込んだ。
『あれを見て正面から来るか。面白い、受けてやろう』
勇者は攻撃を避けることはせず、盾を構えてきた。
俺の攻撃力が高いことを知っているのかそうでないのかは分からないが、好都合だ。
この一発で仕留めてやる。
「はああああああああ!!!!!!」
持てる限りの全力を込め、構えられた盾を殴った。
殴られた勇者は盾ごと吹き飛ばされ、数百メートル先に落下していた。
「次は魔王、お前だ!!!」
『何を言っているのですか?あの程度の攻撃で勇者が死ぬと思ったのですか?』
あれだけ吹っ飛ばされておいて生きているなんてわけ……
『確かに攻撃力は高かったが、死ぬほどでは無いな』
そう思い勇者が落下した地点を見たが既にその姿は無く、いつの間にか俺の背後に立っていた。
「なっ!!!」
『というわけで今度は私の番だな』
その言葉と共に、俺は背後から剣で切られた。
「っ!!!!!!」
ギリギリ胴体から真っ二つという最悪の事態は避けられたが、右腕が斬り飛ばされてしまった。
『苦しいか?そうか。これは我々の味方にならなかった罰だ。痛みに苦しみ悶えながら死ぬがよい』
「……っ」
胴体を切られずに済んだのは避けられたからではなく、勇者が意図的にやったことらしい。
回復力に関しては自信があるが、体の一部が外れた経験は無いのでどうなるか分からない。だが十中八九繋がらないだろう。
圧倒的格上に対して右腕を失った状態で戦うのか。苦しいどころの話ではないだろ。
救いと言えば魔王が一切こちらに手出しをしてこない事くらいだ。
「はあっ!!!!」
絶望的な状況だが、やる以外ない。俺は勇者に向かって突っ込み、再度全力で殴った。
すると再び勇者は盾で受け止め、大きく吹っ飛ばされた。
『楽しいな。アトラクションとして売りに出せるのではないか?』
しかし、その直後には俺の背後に回って攻撃を仕掛けてくる。だが今回は腕を切断するのではなく、体に傷をつける程度だった。痛みはあるが、直ぐ回復出来る。
「どうしてあそこまで吹き飛ばされているのに無傷なんだ……」
大きく吹き飛ばされたはずなのだが、勇者には正面から攻撃を受けた盾にすら傷どころか土も付いていなかった。
完全に攻撃を受け止められるのなら、あそこまで吹き飛ばされることは無いどころか、1㎝すら動かなくてもおかしくない。何かカラクリでもあるのか……?
『私は最強の防具と武器を備えた勇者だからな。素手で戦うお前程度の攻撃でダメージを受けるほどやわではない』
つまりは装備の差ってことか……?しかし、この世界に存在する装備で大きく戦闘力が変わるような装備なんてあるのか?
確かに装備を身に着ければ戦闘力は向上するが、どれだけ大きくても元の二倍を超えることは無いはず。
『お前は地球で育ったらしいからな。知らなくても仕方ないか。まあわざわざ説明してやることは無いが。どうせ死ぬのだからな』
装備に何かがあるのか……?なら装備を削っていけばその分弱体化する?
『ほら、苦しめ』
「がはっ!」
『ほら』
『これはどうだ?』
対処法を探そうと頭を働かせたいのだが、勇者の攻撃のせいで思考が遮られてしまう。痛覚の耐性はあるはずなのだが、勇者の攻撃力のせいなのかあまり機能していないのだ。
勇者の装備は触れている相手のスキルを無効化にするのではないかと考えたが、だったら攻撃を受けて吹き飛ばされている理由が分からない。
「はっ!!」
状況は分からないが、殴ってみなければ先には進めない。
『無駄だ』
いちいち攻撃を受け止めてくれる間に原因を見つけなければ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!